216ー栽培
「なんだ、じゃあププーも気付いてなかったか?」
なんですと!? どうしてここで、ププーが出てくるのだ!?
「こっちだ」
と、ドルフ爺に案内されて畑の側を流れている水路へ移動する。その水路の側には、幾つか小さな芽が出ていた。
まだ20センチ位かな? それでも、元気な葉っぱが何枚か育っている。
「ププーの実にある種を植えたんだ。なかなか芽がでなかったんだけどな。漸くここまで育ったんだ」
「え!? これ、ププーの木の芽なの!?」
「おう、そうだぜ」
な、な、なんとッ!? 俺は声も出なかったよ。
俺も、種を植えてみようかなぁ〜なんて、思ったりしていた。でも、すっかり忘れていたのだ。
ドルフ爺はどうやったのか? 丸い大きな種を、先ずそのまま地面に植えてみた。だけど、それは失敗だったらしい。
なのでドルフ爺は、水分の多い柔らかい土の上に種を載せて根が出るか実験してみたらしい。
すると、ちゃんと根は出てほんの数ミリだけど芽も出ていた。ならばと、根がある程度育つのを待って土に植えた。
その上、森とよく似た環境にしようと考えたドルフ爺は、植える場所に水路の近くを選び落ち葉を被せたんだ。森では川岸に生えていたからね。
そしたら大成功。芽が出てきて育ったのだ。
ドルフ爺は天才なのではないか? ふむふむと、短い腕を組んで納得する。
「アハハハ、ロロ。分かったのかい?」
「わかったのら。どるふじいは、しゅごいのら」
「いや、俺だけじゃねーんだ。ニコもだ」
ここで、ニコ兄の名前が出た。何故に?
それは、ニコ兄の『手』だ。
「ニコの感覚はスゲーぞ」
ドルフ爺が、自分には真似できないと言うのだ。
ニコ兄が地面に手をついて、水を与えても良いかどうかを判断するらしい。
「こういうのは、最初の水加減が難しいんだ。やり過ぎると種が腐っちまう」
それをニコ兄が判断するのだ。
まだ水はいらないとか、少しだけ水やりしておこうとか。ニコ兄が判断して、水をやり様子を見ていた。そしたら、ポコンと芽が出てきたのだそうだ。
「ププーは普通に水をやると多いんだ。種が腐っちまう。それにププーは自分の根で、地中から水分を集めて吸収する力が高いらしい。それが分かってから水の近くに植えてみた。だが土の表面が乾いても駄目でスゲー難しい。だから落ち葉を被せて、森と同じ環境を作ったんだ。その状態で、ニコが的確に見極めた」
それは、凄いではないか! 何か? ニコ兄も天才だったのか? 隠れた天才なのか? 隠れなくても良いのだよ。
うちの兄2人は天才なのか? おっと、リア姉は……今後に期待なのだ。
「ニコは土属性と水属性の、両方を持っているってのも関係するんだろうな」
なら、俺やレオ兄もそうなのだ。でも、俺はできないぞ。
「それだけじゃ駄目なんだろうよ。ニコの今迄の経験だ」
そうか。毎日畑で作業しているからこそなのか。毎日実際に土を弄り、お野菜を育てるその経験もニコ兄が判断する材料になっているのだ。
「ふむふむ」
「ロロ、まさかこんな近くに天才がいるなんてね」
「びっくりなのら」
て、いう事はだ。ププーの実が、いつでも食べられるようになるのかな?
それはとっても嬉しいぞぅ。ププーの実は美味しくてみんな大好きなのだぞぅぅ。
「アハハハ! ロロ、それはまだまだ先だ。何年掛かるか分かったもんじゃねーぞ」
「えぇー、しょうなの?」
「そりゃそうだ。木になるのも何年掛かるか分からねーからな。なんせ今まで育てた例がないんだ」
それは気長に待つとしよう。来年も、森へ採りに行けば良いのだ。そして種を植えよう。
ププーの実もルルンデの特産品になったりしたら凄いじゃないか。
畑の中の道を歩いていたら、お空が急に暗くなってゴロゴロ鳴り出した。
「こりゃぁ、一雨くるぞ」
「ロロ、急ごう」
「うん」
お返事はしたけど、俺はディさんにヒョイと抱き上げられた。そのまま、ディさんとドルフ爺は畑の中をダッシュだ。
家に着く頃に、パラパラと雨が降ってきた。そして、あっという間にザザーッと大雨になった。
「あらあら、降ってきましたね。ドルフ爺さんも一緒にお茶どうぞ~」
マリーの得意技だ。マリーに「お茶どうぞ~」と、言われたら何故か誰も断らない。必殺技なのだ。もちろん、俺も断らない。
おや、家に入るとセルマ婆さんが先にお茶していた。日向ぼっこしていたのに、途中で放り出しちゃったから。
「まりー、もうおなかしゅいたのら」
「あらあら、まだお昼には早いですよ」
そうなのだけど。俺の足元にいるコッコちゃん達も同意しているのだ。
コッコッコと、鳴いている。親コッコちゃんと、普通の雛はいつも一緒にいる。
フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんはお外なのかな? ボスのドルフ爺がここにいるけど。
プチゴーレム達は、ちゃんとドルフ爺の側にいるのに、あの子達はどこに行ったのだ?
「ニコと一緒じゃないか?」
「にこにいと?」
「おう。畑にいる時は、いつもニコの言う事を聞いているぞ」
そうなのか? ニコ兄もボスなのか? 隠れボスなのか? 今日はニコ兄がよく隠れているのだ。
「ロロ坊ちゃま、少しだけクッキー食べますか?」
「たべるのら」




