215ーまだいた
「それでね『うまいルルンデ』で使うお野菜も、ドルフ爺の息子さんが卸してくれる事になったんだ」
ほうほう、ならディさんにとっては朗報ではないのか?
「そうなんだよ! 『うまいルルンデ』でも美味しいお野菜が食べられるんだ!」
とっても嬉しそうなのだ。
ディさんは、お野菜が大好きだから良かったのだ。
庭先でディさんやセルマ婆さんと、のんびりとそんな話をしていたら視界の隅で何かが動いた。
ん? 何なのだ? と、思いそっちを見てみる。
昨日、レオ兄やニコ兄と作った子亀さん達のための小さなお池。その周りに盛った土に、何処かで見た艶々とした美味しそうな緑の葉っぱがチラホラ。
「え……なんら?」
俺はトコトコと池に近寄って行く。これから土に入りますよと、白い大根さんの様なものがモゾモゾと動いている。
白い体にはお爺さんのようなお顔があるのだ。
なんですと!?
「でぃ、でぃしゃん! でぃしゃん!」
俺は驚いて、手でブンブンとおいでおいでとしながらディさんを呼んだ。
「ロロ、どうしたの?」
「な、な、なんれまらいるのら!?」
「おやおや、マンドラゴラか」
そうなのだ。昨日池を作る為に掘った土を池の周りに盛っていた。
そこにお爺さんのようなお顔のある、白いムッチリとした体で2本の足に見えるものをクネクネと動かし、土に入っていくマンドラゴラがいたのだ。
あ、バレちゃった! と言わんばかりだ。でも、土に入るのは止められないらしい。ズボボボと入っていく。
「昨日盛ったばかりで、土がフワフワだからだね」
いやいや、呑気な事を言っている場合ではない。ここは呼ぶしかないのだ。
「どーるーふーじぃー!!」
俺は畑に向かって、大きな声でドルフ爺を呼んだ。広い畑のどこにいても聞こえるように、体全体で呼んだのだ。
思わず両手が、グーになっている。力が入っちゃったね。
「おう! どうした!?」
ピューッと、ドルフ爺が走って来た。プチゴーレム達も、後を付いて走って来る。走るのが早いなぁ。
「見て、見て! まんどらごら!」
「まだいたのか。こいつらしぶといんだよ」
少し前に、森からクーちゃんの背中に乗って来たらしいマンドラゴラ。
騒ぎになった時に、全部回収したつもりだった。なのにまだ畑に残っていたらしい。
「無理矢理引き抜かなければ害はないんだ。美味いしな。散らばらない様に一箇所に集めていたんだが、こっちまで移動したのか」
んん? 意味が分からないのだ。
実はドルフ爺、今迄も何個かマンドラゴラを見つけて退治していたらしい。
マンドラゴラは無理矢理引き抜くと、叫び声を上げて状態異常を引き起こしてしまう。
叫ばないように、先にバシコーン! と、殴って気絶させてから抜くのだ。
マンドラゴラは美味しい。しかも、売れる。珍しいから良いお値段で売れるのだ。
ドルフ爺は、美味しく食べていたらしいけど。
「殴って気絶させたら害はない。だから見つけたら、畑の隅に移動させていたんだ」
「どるふじい、たべるから?」
「おう、美味いからな」
知らなかったのだ。まさかまだマンドラゴラがいるなんて。
しかもドルフ爺は食べるために、マンドラゴラを移動させたりしていたのだ。
それってもう、マンドラゴラを栽培しているのではないか?
「アハハハ! そんな大したもんじゃねーぞ」
いやいや、どう考えても増えているではないか。
そんな話をしていると、また何処からかマンドラゴラがトコトコとやってきて、池の周りにズボボボと入っていく。
「いやいや、待って。ドルフ爺!」
今度は何なのだ? ディさんが、家の横に作っているニコ兄の畑の方を見ている。
「いつの間に、あんなに大きくなっていたんだよ!」
ディさんが見つけたのは、ドルフ爺とニコ兄が試しに育てていたリカバマッシュだ。
リカバマッシュが生えていた木も、森から持って帰ってきて菌を植え付けていたのだ。
それが、立派なリカバマッシュに育っている。
「なんだ、ディさん。気付かなかったのか?」
今迄育てた事例はないと、ディさんが話していたリカバマッシュ。それが、何個も立派に育っている。
しかも、大きいぞぅ。食べたら美味しいのかなぁ? お醤油を滴らして焼いたら美味しそうなのだ。醤油はないのだけど。パスタも良いかなぁ。
「ロロ、そんな問題じゃないよ」
「あい」
ディさんのお顔が、ちょっぴり怖いのだ。
「ニコと試しに育ててみたら、上手くいったんだ。ワッハッハ」
「いやいや、ドルフ爺。笑い事じゃないよ! これは褒章モノだ!」
「そんな大袈裟なもんじゃねーよ」
大袈裟なものらしいよ、ドルフ爺。
俺は、ディさんと一緒にドルフ爺をジトッと見つめる。
「え? そうなのか?」
当然なのだ。エルフのディさんでさえ、育てた事例を知らないと言っているのだ。それだけ育てる事が困難なのだろう。
「要は菌類と同じなんだ」
ドルフ爺がそう言った通り、育て方は椎茸と同じなのだ。
前にドルフ爺がやっていた様に、どんぐりを砕いた物の上にリカバマッシュを置いて菌をつける。
それを小さな棒状にして、木に埋め込むんだ。日陰で育てると良いらしい。
普段は直射日光や雨が、掛からないように布を掛けたりしてある。だからディさんも気付かなかったのだろう。




