212ーあらあら~ぁ?
ドルフ爺の息子さんが店を出しているのは、屋台の様な店が沢山並んで商品を並べて売っている朝市の様な場所だ。毎朝早くから街の人達が、新鮮な食糧を求めてやって来るのだそうだ。
直ぐに食べられる焼き立てのパンやお肉を焼いたものから、お野菜はもちろん生肉を売っている店もあるらしい。温かいスープまで売っていて、お鍋を持って買いにくる人もいるそうだ。
ここで朝食を賄えられるという訳なのだ。
「ひょぉー、しらなかったのら」
「ロロはまだ寝ている時間だろう」
そうなのか? ドルフ爺は一体何時に起きているのだ?
「ワシは朝早くに目が覚めるんだよ。もうジジイだからな。ワハハハ」
そう言えば、コッコちゃんの世話をする時も俺が起きたらもう終わっていたりする。
「朝早くから、お水を掛けてくれたりしているのよーぅ」
ほうほう、だからクーちゃんはドルフ爺に恋しちゃったと。
「やだわーぁ。それだけじゃないのよーぅ」
はいはい、もういいのだ。俺には理解できない世界なのだ。
お水がいっぱいになった小さな池に、早速子亀さん達が入って行く。ポチャンポチャンと次から次へと飛び込んで行く。
ススイ〜と、上手に小さな手足を動かして気持ち良さそうに泳いでいる。
本当に、お水が必要だったのだね。作ってあげて良かったのだ。
「気持ち良さそうだわーぁ」
そう言いながら、クーちゃんものっしのっしと池に入って行く。でもそんなに大きな池ではない。クーちゃんが入っちゃうと、いっぱいになってしまうのだ。
ジャバーンと池に入ったクーちゃん。
「あらぁ? あらあらーぁ?」
「ワッハッハッハ! クーちゃんは大きいからだ」
「本当だよ。クーちゃんの赤ちゃんの為に作ったんだぞ」
「やだわぁー、あたしってそんなに大きいかしらぁ? 動けないわーぁ」
手足をバタバタさせてもがいている。子亀さん達が巻き込まれて、ひっくり返ったりしているじゃないか。何をしているのだ。だから、大きいのだよ。
少なくとも俺は、クーちゃんほど大きな亀さんを見た事がないのだ。
身動きできなくなっちゃったクーちゃんを、ディさんとドルフ爺が引っ張り出している。
大きくて重いクーちゃんを一度では引っ張り出せなくて、せーの! と、タイミングを合わせて何度も引っ張ってやっと外に出せた。
なんてお騒がせなのだ。クーちゃんったらもうお母さんなのだからさ。
「あらあらーぁ、手を繋いじゃったわーぁ♡」
「アハハハ!」
馬鹿な事を言っているのだ。ディさんが大爆笑しているじゃないか。
「あらあら、できましたか? ご飯にしませんか?」
マリーが呼びに来たのだ。もうそんな時間なのか。
――キュルルルルー
「ロロ、またお腹が鳴っているわよ」
「りあねえ、おなかしゅいたのら」
「ニコ、ロロ、手を洗おう」
「ボクはお野菜採ってくるよ!」
「あらあら、ディさん。今日はドルフ爺さんがくれましたよ」
「そうなの? ドルフ爺、ありがとう!」
レオ兄とニコ兄と一緒に、手を洗ってクリーンをして家に入る。コッコちゃん一家やプチゴーレム達も付いてくる。みんなご飯だよ。
家の軒下では、クーちゃん親子がドルフ爺にお野菜を貰っている。
本当、小さな動物園みたいだね。しかもレアな動物ばかりだ。
「わふ」
「キュル」
「うん、ごはんたべるのら」
一番超レアなピカさんとチロだ。なにしろ神獣なのだから。
でも、俺の大切な相棒なのだ。
その日の夜、久しぶりに呼ばれた。誰にって? ちょっぴり面倒な、あの人しかいないのだ。
ほら、手を大きく振りながら走って来たぞ。宝石を散りばめた様な、キラキラと光るプラチナブロンドの長い髪の美人さんだ。
「おっひさっしぶりぶりっこでぇーっすぅ!」
そんな馬鹿な事を言いながら、抱き着いてきた泣き虫女神。ぶりぶりっこ、て何なのだ。当然俺は、ヒョイと避ける。
「ぶぶぶぶぶーッ!」
またお顔からスライディングしている。懲りない女神なのだ。
綺麗な髪やお洋服が台無しじゃないか。ああ、折角綺麗にお花が咲いているのに、花びらが散ってしまう。
喋らないでじっと立っていると、ちゃんと女神らしく見える。なのに、動いたり喋ったりしたら駄目なのだ。
美しい女神という印象が、木っ端微塵に砕け散ってしまう。
それでも何もなかったかの様に、シュタッと立ち上がり澄まし顔で話しかけてくる。
「お墓参りは、良い旅になって良かったですね~」
「うん、たのしかったのら」
「はい。あの映像を保存する魔道具ですが」
ああ、父様と母様が映っていた魔道具の事なのだ。
「まだピカちゃんが何個か持っていますよ。前回それを伝えようとしたのですが、残念ながら時間切れでしたぁ」
なんだよ、知っていたのか。そういえば前に呼ばれた時に、何か言おうとしていた様な気がする。
なのに時間切れなんて、本当グダグダなのだ。
「またみんなで見てみると良いですよ」
「うん、しょうしゅるのら」
ギャンカワ! などと言って両手で顔を覆って仰け反っている。
このキャラは変わらないのだね。俺は改善を求むよ。
こんな女神でも、ルルンデの街では崇められている。当然教会にも女神の像がある。もう直ぐお祭りもあるというし。
「そうなのです、お祭りなのです!」
「はじめてなのら」
「ピカちゃんとチロも連れて行くのですよ」
え? それは何だ? 何かのフラグなのか? 時々女神は、そういう事を言うよね。
「あぁー! 詳しくは言えないのですぅー!」
両手を出してイヤイヤと振っている。はいはい、分かったのだ。
「でも、楽しんでください」
「みんなでいくのら」
「あのエルフも一緒に行くと良いのですよ」
ディさんか? もちろん一緒に行くのだ。




