211ーやっぱここは一つ
「ああ、ニコ。傾斜をつけないと駄目だよ」
「レオ兄、どうしたら良いのか分かんないぞ」
「いいよ、僕が固めながらつけていくよ」
ニコ兄が掘った溝を、レオ兄が固めながら少しずつ傾斜をつけていく。職人技ではないか?
「しゅごい、じょうじゅなのら」
俺は腕組みをして、高みの見物なのだ。ちょっぴり現場監督みたいになっちゃっている。え? なってない?
「ロロのお兄さん達は凄いね」
「しゅごいのら」
「あっという間だよ」
ディさんが言う様に、あっという間に水路から水を取る方の溝ができて、少しずつ池に水が溜まっていく。クーちゃんの赤ちゃん達も、もう入る気満々でソワソワしているのだ。
「もうちょっと、まちゅのら」
まだお水が溜まっていないからね。クーちゃんの赤ちゃん達は、コッコちゃんの雛みたいに鳴かないからなぁ。俺の言っている事が分かっているのかな?
5匹の赤ちゃん亀さん達は、池の周りに並んでじっと見ている。よしよし、お利口さんなのだ。
「かぁわいいねー」
思わず俺の短いぷっくぷくの人差し指でツンツンしてしまう。
ここは一つ、披露するしかないのだ。亀さんと言えば、みなさんお待ちかねの有名なあのお歌だ。
「もっしもっしかぁめよ、かーめしゃーんよぉー♪」
ちょっぴりリズムをとって、お尻をフリフリしてしまう。懐かしい童謡なのだ。
「ロロ、そのお歌はなぁに?」
おやおや、手にオヤツを持ってリア姉が見に来たのだ。
「かめしゃんの、おうたら。りあねえ、しょれふるーちゅけーき?」
「そうよ。はい、あ~ん」
と、俺の前に出してきたから、大きなお口を開けてパクリと頂こう。
マリーがよく作るオヤツで、パウンドケーキに色んなドライフルーツを刻んで入れたものを、俺達はフルーツケーキと呼んでいる。
「あー……ん、うまうまら」
「マリーは上手よね、大雑把なのに」
一言多い。それを言ってはいけないのだ。
「もう大分出来ているじゃない」
「しょうなのら。れおにいと、にこにいがじょうじゅなのら」
「ふふふ、本当ね」
レオ兄とニコ兄を見ながら、リア姉にフルーツケーキを食べさせてもらっていた。そこにちびっ子戦隊が帰って来たのだ。
コッコちゃんの雛3羽と、五色のお帽子を被ったプチゴーレム達。転げる様に走って来た。相変わらずみんな速いのだ。
「ピヨピヨ!」
「キャンキャン」
一気に賑やかになってしまう。リア姉と俺が食べているのを見ているのだ。ちょこんとお座りをして、舌を出しながらブンブンと尻尾を振っているプチゴーレム達。
その舌はどうなっているのだ? 俺はそこまで作ってないぞぅ。
「欲しいのかしら?」
「しょうみたいなのら」
「まだあるから、マリーに貰ってきなさい」
リア姉がそう言うと、キャンキャンと鳴きながら家に入って行った。よく分かっている。いつも赤のお帽子の子が先頭だから、イッチーがリーダーなのかな? やっぱレッドだから。
お野菜以外を食べられないフォーちゃん達は、何してるアルか? 掘ってるアルか? 見事アルね。と口々に話している。本当、元気だ。
うちは動物がいっぱいだ。ピカさんとチロは、知らん顔をして軒下で寝そべっている。でもピカのお耳は、ヒョコヒョコと動いて警戒はしてくれているのだ。
クーちゃんなんて、赤ちゃん達がみんなこっちに来ているのに放りっぱだ。
「ロロ達がいるから大丈夫なのよーぅ」
だって。呑気だね。
「おう、池を作ってんのか?」
ドルフ爺だ。ドルフ爺がやって来た途端に、クーちゃんがのっそりとお顔を上げた。
ドルフ爺の声に反応するなんて、本当に好きなのだね。
そして、のっそのっそとやって来た。いつもずっと軒下で、のべっと寝そべって動かないのに。軒下はクーちゃんの定位置なのだ。
「あたしの子供達に作ってくれているのよーぅ」
「おう、そうなのか。そりゃいいな」
ドルフ爺がクーちゃんの頭を、シワシワの大きな手で撫でる。クーちゃん至福の表情だ。
目を細めて嬉しそうに、ドルフ爺の手に頭を擦り付けている。
「ふふふ、本当に好きなのね」
クーちゃんって、本当に不思議なのだ。恋する気持ちだけで、卵を産んでしまうくらいなのだから。一体どうなっているのやら、ディさんでさえ分からないと言っていた。
そんな事をしている内に、ニコ兄とレオ兄が池からお水を流し出す方の溝も掘って固めた。
あっという間に、小さなお池の出来上がりなのだ。
「ほう、ニコも凄いじゃねーか」
「ドルフ爺、これ畑でも使えるな」
「おう、そうだな」
そうそう、ニコ兄とドルフ爺に相談があったのだ。
「にこにい、どるふじい、おねがいがあるのら」
「俺もか?」
「おう、なんだ?」
ここからはディさんにバトンタッチだ。教会の畑と、コッコちゃんのお野菜の事を説明してもらった。
畑を見てアドバイスをして欲しい。そしてコッコちゃんのお野菜なのだ。
「それなら毎朝息子に持たせてやるよ」
「本当? 助かるよ」
「店の場所は知ってるのか? 屋台なんだけどな」
朝早くからお野菜だけでなく、色んな食べ物を売る店が出て賑わっている。朝市みたいな感じらしい。そこに息子さん達も店を出しているのだ。




