209ー土属性
「ニコ、土属性魔法で出っ張りは作れるの?」
「おう、土を盛り上がらせたりはできるぞ」
ほうほう、それはどれくらいの物なのだろうね。ふむふむ、見てみたいのだ。
「やってみるか?」
「うん、見たいな」
「よし! ロロも見てろよ!」
「うん!」
ニコ兄が地面に手を突いて集中し出した。すると、地面がボコボコと盛り上がり出したのだ。
ゴゴゴと音を立てながら、地面が隆起していく。
「おぉー!」
俺はそれだけで感動なのだ。一体どうなっているのだ? いつの間にニコ兄は、こんな事ができるようになったのだ?
「ニコ、もっと均等に魔力を流してごらん」
「均等にか?」
ディさんが一言アドバイスをしただけだ。なのにニコ兄が出した土が盛り上がった側面が、シュンと平らになり高くなっていく。
表面がボコボコしていたのに、滑らかになる。その上、高さが出たんだ。
高さと幅が1メートル位、厚みが30センチ程だろうか? それでもこれは立派な土壁なのだ。きっと今は全力ではやっていない。だって庭先だもの。加減をしている。
これを全力で魔力を込めればどうなるのだろう?
取り敢えず目の前に壁があったら、これは試してみたくなるのだ。
「とぉッ!」
と、俺はその土壁を思い切り蹴ってみた。小さな足でだ。てか、真面に蹴れていない。足が上がっていない。
「あいたッ! かたいのら」
見事に俺の、プヨプヨした小さな足が負けてしまった。大丈夫、怪我はしていなのだ。
「アハハハ! ロロは何をやっているんだよー!」
「らって、でぃしゃん。どれらけかたいかな? て、おもうのら」
「なるほどね。じゃあ、僕がやってみよう」
そう軽いノリでディさんが、パコーンと土壁を蹴った。
すると、ズウン! と、音を立てて土壁が、いとも簡単に崩れてしまったのだ。
「ええー! ディさん、何すんだよぉー!」
「アハハハ! まだまだ込める魔力が足らないんだ。強度が足らないね」
えぇ? 俺が蹴った時は硬かったぞ。
「ロロはちびっ子だから、力がないだろう?」
「らって、でぃしゃんらって、かる~くけったのら」
「ふふふ、僕は魔力を込めたからね」
な、な、なんですとッ!?
さっき教えてもらった身体強化なのだそうだ。それを部分的に使ってディさんは蹴りを入れたらしい。
エルフって何でもできるのだね。
「でも、これができるなら池を掘るのだってできるよ。簡単だ」
「ええー、ディさんそうか?」
「そうだよ」
俺はできないけども。くそぅ、俺もやりたいのだ。
「あら? 何やってるの?」
「ただいま」
庭先でニコ兄と一緒に話を聞いていると、リア姉とレオ兄がもう帰って来たのだ。
「おかえり!」
「おかえりー」
「ニコ、ロロただいまー!」
リア姉が抱き着いてきた。噂のリア姉だよ。ふふふ。
「ロロ、卵は温めた?」
そう言いながら俺の頭を撫でてくれる。レオ兄の手はいつも優しいのだ。
「うん、おひるにやったのら」
「そう。じゃあ、夕ごはんを食べたら僕が温めるね」
「うん」
レオ兄に付いて行こうとしたら、ニコ兄に止められた。
「ロロ、何で付いて行くんだよ。これからやるんだろ?」
「あ、わしゅれてたのら」
そのまま当然の様に、レオ兄と一緒に家に入ろうとしていたのだ。いかんいかん。すぐに忘れてしまう。
「おや? ニコ、何をするんだ?」
「レオ兄、クーちゃんの赤ちゃん達の為に小さな池を作るんだよ」
「池を? ディさん、そんな事できるんですか?」
「勿論だよ。レオも一緒にやろう。土属性魔法の良い練習になるよ」
レオ兄は3属性を持っているけど、土属性魔法が一番伸び悩んでいるらしい。イマイチ、使い所がないそうなのだ。
「水属性と同じ様に、土の塊で槍を出したりできるよ」
ディさんが説明をしながら、片手でヒョイと土の槍を出す。そして、木の的に向かって飛ばした。
バコーンと音を立てて、土の槍が崩れていく。
ディさんは話しながら何気なしにしているけど、それは凄い事なのだ。
ディさんは魔法を使う為に、集中したりとか構えたりとか全くしない。そのままの状態で軽く魔法を使う。勿論、詠唱なんてしない。
ディさんは、俺達とは次元が違う。自分達とは違うのだと切実に理解させられる。
種族的なものだけなのか? それとも、ディさんはエルフの中でも優れているのか?
俺には、それを判断できない。だって何も知らないのだから。ディさん以外のエルフを知らない。見た事もないのだ。
「今は強度を持たせていないから、ぶつかると直ぐに崩れちゃったけど。でも、ちゃんと魔力を加えれば相応の強度が出る。バインドだってできるよ」
「なるほど、そうか」
で、池なのだ。小さくて良いのだ。大きくなったら、そう頻繁にお水が必要ではなくなるらしい。
「そこの水路から引こうか。少し離れた場所になるけど、隅の方が良いだろう?」
「あ、なら俺の畑の横がいいぞ。水やりにも使えるし」
と、言う事でニコ兄の畑の横に、ディさんが地面に木の枝で丸い印を付ける。そこに向かって水路から水を引く。
お水が循環できる様に、池からも水路へ流れ出す溝を作る。池の水が澱まないようにだ。
「これくらいかなぁ?」
「くーちゃん、どう?」
「あらぁー? なにかしらー?」
もう、呑気なのだ。目の前で相談していたのに、聞いていなかったのか? 手足や首まで伸ばして、リラックスして寝そべっている。
クーちゃんの赤ちゃんの為に作る池だよ。




