207ー誰似?
「だから、ロロ。くすぐったいって! アハハハ!」
「にこにい、がまんなのら」
「ロロが触ってもわからないだろう? アハハハ」
「らって、しゃわりたいのら」
ふむふむ。やっぱり全然分からないけど、俺の腕とは全然違っている事だけは分かるのだ。
「ニコ、畑の仕事が終わったら教えてあげるよ」
「うん、分かった。じゃあな、ロロ」
「うん」
ニコ兄って運動神経がとっても良いのだ。走るのだって早いし、二の腕には筋肉が付いている。お腹だって、俺みたいに出ていない。
俺のお腹は、一度触るとやめられないよ? 癖になっちゃうよ? プヨプヨでとっても触り心地が良い。それに魅了されてしまったのが、リア姉なのだ。
「ロロは先ず、弓を持つ練習からだね。ちびっ子だけど、できない事はないからさ」
「しょうなの?」
「そうだよ。エルフのちびっ子は弓を射るよ。しかも魔法の矢を出すよ」
「ひょぉー!」
よし、俺も負けていられないのだ。魔法の矢を出してやろうではないか。なんて、出来ないのだけど。
まあ、ダメ元だ。弓にディさんが出した様な、緑色の魔法の矢を……まさか出せるはずないのだけど。と、考えながらちょびっと集中してみる。すると光が……!
「ロロ!」
「え……?」
なんと、一瞬だけど緑色の矢が現れたのだ。直ぐにシュンッて消えちゃったけど。
ディさん出した光り輝く矢とは違って、線香花火が燃え落ちる時の様な、弱い光だけど確かに出たぞ。
これは、もっと集中だ。よし、もう一度だ。
「よしッ! むむむむ」
お腹の下辺りにある魔力を意識して、緑色の矢をイメージする。ディさんの魔力でできた緑色のキラキラと輝く矢。それを弓に番えるんだ。
すると今度はしっかりと、魔法の矢が現れた。ディさんほどクリアな緑ではない。ちょっぴり薄い緑色で、輪郭がフヨフヨとしていて不安定だ。それでも、ちゃんと矢の形をして弓に番えている。
足は肩幅に開き、堂々と立って構える。お腹がちょっぴり出ているのは、見なかった事にしてほしいのだ。そして、淡い緑色の魔法の矢を番えた弦をグググッと引っ張る。
どうだ? なかなか、かっちょいいのではないか? ふふふん。
「ロロ、そのまま射ってごらん」
「うん」
ヨイショと引っ張っている弦をそのまま放つ。
――ピュ~……ボテッ……
「ああ、おしいな」
俺が放った矢は、そのままカーブを描いて直ぐそこにポテッと落ちて消えたのだ。
魔法の矢を出せはしたのだけど、射るとディさんの様に飛ばなかった。
そりゃそうだよ。弦を引っ張る力が全然足りていない。
「でも、凄いよ。初めてで矢を出せるなんて! ロロは本当に凄い!」
「えへへー」
褒められちゃったのだ。飛ばなかったけど。それでも、魔法の矢を出せただけで満足なのだよ。ふふふん。レオ兄が帰って来たら自慢しよう。
「ロロ、その魔力で身体強化すれば、楽に射る事ができるよ」
「し、しんたいきょうか?」
ディさんが教えてくれたのだ。お腹の下の方にある魔力を、体全体に巡らせて……て、そんな事できるのか? むむむ、チャレンジなのだ。
「むむむむ」
「プフフ」
「でぃしゃん、わらったららめ」
「ロロのお顔が可愛くて、プフフ」
可愛いではないのだ。俺は真剣なのだよ。つるんとしたオデコに皺を寄せて、眉がピクピクと動くのだ。しかめっ面というやつだ。
でも、なかなか難しい。イメージもできないし、感覚が掴めなくて結局マスターできなかったのだ。
「そんなになんでも直ぐにできちゃうと、僕の立場がないよ」
なんてディさんは笑っていた。でもきっとエルフは、そんな事ないのだろう。
種族的に、持って生まれたものが違うのだと言う。それでも、ちょっぴり悔しかったのだ。
それから、ニコ兄が畑から戻って来た。俺はてっきり、弓の練習をするのだと思っていたのだけど。
「クーちゃんの子供達に、小さな池を作ってあげて欲しいんだ」
と、ディさんが言い出した。忘れていたのだ。クーちゃんの赤ちゃんには、まだお水が必要だ。
でも、この近くに川はない。どうするのだろう?
「ほら、水路があるだろう。あそこから引こうと思うんだ」
畑と道の境目と、畑の中を小さな水路が流れている。畑に使う水なのだ。農水路とでも言うのだろうか。日本の様に田んぼはないけど、畑にもお水が必要だ。
その為の水路が通っている。そこからお水を引くのだ。
「ディさん、俺がか?」
「そうだよ、ニコ」
「えぇー、無理だよー!」
ニコ兄が、びっくり仰天なのだ。てっきり弓を教えてもらえると、張り切って帰って来たのに。
「どうしてかな? ニコは土属性魔法が使えるだろう?」
「使えるって言っても、まだ小さな出っ張りを作れたりする程度だぞ」
「だからだよ。良い練習になるよ」
「ええー!?」
ふむふむ。俺も土属性を持っているのではないかな? 多分だけど、レオ兄と一緒だと思うのだよ。何故なら俺はレオ兄似だからなのだ。
「にこにい、ボクもしゅるのら!」
「え!? ロロは土属性を持ってるのか?」
「しらないのら。れも、たぶんもってるのら」
「どうしてそう思うんだよ」
「らって、ボクはれおにいに、にてるからなのら」
俺は両手を腰にやり、ポヨンとしたお腹を張って堂々と言い切った。




