206ー師匠
「ロロに作ろうと思っているワンドは、もっと小さい物だ。それも大きさが変えられるように作るよ」
「ひょぉーッ! でぃしゃん、しゅごいのら! しゅごいッ!」
「アハハハ、そうだろう? ディさんは凄いのだよ」
これは本当に驚いた。もう別次元なのだ。俺はとんでもなく最高の師匠に出会えたのではないか?
「でぃしゃん、ししょー!」
「アハハハ、ディさんでいいよー」
いやいや、師匠だろう。気持ちは大師匠と呼びたい位なのだ。
それに初めて見たディさんの魔法杖だ。先端がカーブを描いて丸くなっていて、中心にはエメラルドの宝石の様に輝くオーヴが付いている。ディさんの瞳の色と一緒だ。持ち手の部分にも淡いエメラルド色の革が巻いてある。
何より目を引くのは、その杖の木だ。ディさんが言った通り、ずっと使い込んでいる物なのだろう。レオ兄の新しい木で作った弓とは全然違う。
使い込んでいるのが分かるのに、木目は消えていない。雲のような木目が縞を作っている。それに長い年月を重ねたものがある。とってもシブいのだ。
何も知らない俺でも、素晴らしい物だと分かる意匠も目を引く。
それに木でできた杖が、光る訳はないのだ。なのに、仄かな光を放っているように感じる。あれはきっと魔力なんだ。まるで周りを浄化するかのような魔力。
ディさんが使って、杖に馴染んでいるんだ。それがディさんよりも、ずっと魔力量の少ない俺を圧倒する威圧感。そんな感じがしたのだ。
「エルフはみんな持っているんだよ。最初に作ってもらった魔法杖を、余程の事がない限り一生ずっと使うんだ」
「ひょぉー! しゅ、しゅごいのら」
俺って本当に、語彙力がなくてごめんなのだ。だって、凄いとしか言いようがないのだもの。
「先ず、僕が弓を射るから見ていてね」
よし、真剣に教わるのだ。俺はディさんから少し離れてジッと見る。
弓を構えるディさん。姿勢がとっても綺麗だ。
ディさんは矢を使わない。魔法で矢を出すのだ。ディさんが、その魔法の矢を番える。余計な力は入れず、背中を伸ばして構えている。ただ、それだけなのだ。
なのに、思わず言葉が漏れる。かっちょいい……いや、綺麗で見惚れてしまう。
「ふわぁ~」
ディさんのグリーンブロンドの長い髪がそよ風に靡き、真っ直ぐな姿勢を保つディさんがまるで絵画から抜け出た様に見える。そうだ、正義のヒーローなのだ。
呼吸を整え、目標にしている木を目掛けて魔法の矢を放った。
魔法の矢はそのまま吸い込まれるかの様に、真っ直ぐ木の枝に引っ掛けた的の中心へと向かって飛んでいく。
「でぃしゃん、きれいら」
「そう? 有難う」
またバチコーンとウインクをした。これはもしかして、ディさんが照れた時にもするのかな?
「ロロ、弓を持って立ってみようか」
「うん」
ただ立つだけなのだけど、これがなかなか難しい。だって俺は幼児体形なのだから。
「アハハハ、お腹が出ちゃうね」
「しかたないのら」
「プフフ」
「でぃしゃん、わらったららめ」
「ごめんごめん。可愛いからついね。ロロ、先ずはグリップを真っ直ぐ持ってごらん?」
そう言われてもだ。俺は真っ直ぐ持っているつもりなのだ。なのに、真っ直ぐにはならない。斜めになったり、ユラユラゆれたり。
「ロロはまだちびっ子だから仕方ないかなぁ」
「でぃしゃん、やるのら!」
「そう?」
「うん、がんばるのら」
本当に小さなおもちゃの様な弓。なのに、片手で持つとなると力がいる。
まだちびっ子の俺にはそれが難しい。俺には力がない。まったくないのだ。
「ロロ、重いかな?」
「おもくないのら。けろ、おててがフラフラしゅるのら」
「ああ、そういうことか」
ディさんがしゃがんで、俺の後ろから手を添えてくれる。
「おー、ちがうのら」
「だろう? 体と持つ角度だ。肩に力を入れたら駄目だよ」
そんな事をしていると、俺達を見つけたのかニコ兄が慌てて走って来たのだ。
「ロロ! ズリーぞ!」
ズルくはないのだよ。
「だって先に一人で教わってるなんてさ。俺も教わりたいのに」
「らって、じぇんじぇん、らめらめなのら」
「え? ロロ、そうなのか?」
「うん、むじゅかしいのら」
「えぇー、俺できるかなぁ?」
俺が全然駄目だとか言ったから、ニコ兄が不安になってきたらしい。でも俺が、ちびっ子だからだと思うのだ。
「ニコ、腕を触ってもいいかな?」
「おう、いいぜ」
フニフニとディさんがニコ兄の腕を触る。
ほうほう、なるほど。って、俺は分からないのだけど。一緒に触ってみようではないか。小さな手で、フニフニと。決してコチョコチョではないぞぅ。
「アハハハ、ロロ。くすぐったいからやめろ」
「らって、にこにい。しゃわらないと、わからないのら」
フニフニと触る。むむむ、全然分からないのだ。でも、思ったより二の腕に良い筋肉がついているぞぅ。
これは、あれか? 毎日畑仕事をしているからなのか?
俺の二の腕は、プニップニだよ。自慢じゃないけど。お腹と同様、手触りは最高なのだ。
「うん、ニコは良い筋肉をしているね」
「だろう? 毎日畑仕事をしているからな」
「ふむふむ」
やっぱそうなのか。フニフニと小さな手でモミモミする。
腕を曲げたら力こぶができる部分。そこがニコ兄だってまだちびっ子なのに、俺みたいにプニプニしていないのだ。
これは、知らなかったぞとモミモミする。




