204ー弓
「でぃしゃん、ししょー!?」
「アハハハ! 師匠かぁ!」
俺は嬉しいぞ。願ってもない事なのだ。ディさんに教わる事ができるのは、とっても嬉しい。だってディさんは弓が得意だと言っていたから。
それに、こんなに立派な弓まであるのだ。張り切ってしまうぞぅ。
おっと、それよりまた忘れるところだったのだ。
「れおにい、たまごをわしゅれているのら」
「ああ、そっか。コッコちゃんと約束していたね」
そうなのだよ。フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんを統率できるような雛を孵すのだ。その可能性を高める為に、レオ兄と俺の2人で魔力を流して温める。
親コッコちゃん達の希望なのだ。切実なね。
「明日産まれる卵を温めようか。昼間はロロが温めるんだよ」
「うん、わかったのら」
今度はあまり魔力を流さないようにしなきゃ。でないとまた、身体能力に飛び抜けた雛が孵ってしまうのだ。そこが納得いかない。だって俺はそんなに身体能力が高い訳ではないのだから。
俺は前世だって研究職だった。身体能力なんて全く関係ない。俺が1番体力を使うのは、コミケに参加するくらいだったのだ。
今世だって、そんなに運動神経が良いとは思えないぞぅ。
「ロロはまだ3歳だ。これからだよ」
「れおにい、しょお?」
「そうだよ。でも、よく動く方だと思うよ」
そうなのか? 俺以外のちびっ子がどうなのか、よく知らない。ああ、孤児院の子供達がいたぞ。時々鬼ごっこをするけど、いつもニルスに手を引っ張って貰っているからよく分からない。
でも最近は転ける事が減った。以前はよく笑いながら、お顔から転けていたのだけどそれも無くなったのだよ。ふふふん。
さて、翌日だ。レオ兄が、昨日話した通りコッコちゃんの卵に魔力を流した。
その卵を家の中で、布にくるんで温める事にした。他の卵と混ざらないように篭に入れてある。
親コッコちゃん達が、その卵をジッと見つめている。何かを祈るかのようなのだ。
「コケッ」
「クック」
これが頼みの綱なのだと、話している。そこまでなのか?
そんなにフォーちゃん達は、困ったちゃんなのか? そんな事はないだろう?
確かに親より身体能力が優れているけども。
きっと勝手に走って行っちゃうから、心配なのだよね。
「うーん、どれ位魔力を込めれば良いのか分からないなぁ」
「ちょーっぴりちょびっとれ、いいのら」
あんまり魔力を流し過ぎると、オレンジ色の雛達みたいになってしまう。そうなると、本末転倒なのだ。
お昼には俺が魔力を流す。ほんの少しだけだ。どんな雛が孵るか楽しみなのだ。
今日は朝からチクチクと、ディさんに依頼された分の刺繍をしていたのだ。まだ半分も出来ていない。俺の足元には相変わらずコッコちゃん達が勢揃いなのだ。
俺の横には、そのディさんが座っている。
完成するまで秘密だと言っているのに、ディさんがガン見してくる。ずっと俺にピトッとくっついて見ている。
もう、秘密も何もあったもんじゃない。
毎日朝からやって来るから、秘密になんてできっこないのだけど。
「でぃしゃん、ひみちゅらっていってるのに」
「いいじゃない。見たいんだもん」
ディさん『もん』じゃないよ。いい大人なのに。何歳だっけ? 何百歳なのだろう?
「ロロ、それは秘密だよ」
そう言いながら、バチコーンとウインクをした。何でもウインクすれば良いってもんじゃない。もう慣れたから誤魔化されないのだ。相変わらず、目がチカチカしそうだけど。
何が秘密なのだよ。本当にもう。
何度言ってもガン見してくるから、もういいかと開き直って堂々とチクチクとしている。
「午後から弓の練習をしようか」
「うん!」
楽しみなのだ。初めて使う弓だ。武器らしき物を使うのが初めてなのだけど。
木の短剣だって、おもちゃだ。リア姉の真似をして、ブンブン振って遊んでいただけなのだ。
レオ兄が頼んで作ってくれた子供用の小さな弓。レオ兄も父様に子供の頃から教わっていたと話していた。
「僕は剣を習うより先に弓を教わったんだ。父上は何でもできたからね。たしか剣は、最強の剣士と呼ばれた前辺境伯様に、師事していたと聞いた事があるよ」
半分位、意味が分からなかったのだけど。
辺境伯領っていうのは、父様が治めていた領地の向こう側になる。そのまた向こうはもう違う国になるらしい。国境を守る国の要だ。
お隣の領地だったから、昔から交流があったのだって。
その領地を、治めているのが辺境伯。今はもう息子に爵位を譲って引退しているらしいのだけど、それでもまだまだお元気なお爺ちゃんらしい。
「現役の頃は、鬼剣士とも言われていた人らしいよ」
「ひょぉー、こわこわ」
父様も、嫡男でなければ辺境伯領に来て欲しいくらいだと、言われた事があるらしい。
その息子さんの現辺境伯と父様は兄弟弟子だ。2人お揃いの剣を譲ってもらっている。それくらいに、優れていたのだろう。
今その剣は、グリップを替えてリア姉が持っている。
ガードと呼ばれる部分が、女性のリア姉には大きすぎるのだそうだ。手が当たって握り難いらしい。
だからそのガードとグリップを、女の子仕様にしてリア姉が使っている。
リア姉が学園に入学する時に、父様から譲り受け大切にしている剣なのだ。
今日はもう1話投稿します〜!




