200ー寄り道
冒険者ギルドの前を通りかかった時なのだ。
「あれ? ロロ、マリー」
「あらあら、今お帰りですか?」
「りあねえ、れおにい」
クエストから帰ってきた、リア姉とレオ兄に会ったのだ。
「ロロ、お出掛けしていたの?」
と、言いながらリア姉は俺を抱っこする。やっぱお手々は、俺のむっちりとしたお腹をモミモミしている。相変わらずなのだ。
「きょうかいに、いってきたのら」
「そう、沢山雛が生まれているのでしょう?」
「しょうなのら」
なんだ、リア姉は知っていたのか?
「評判になっているわ。卵が欲しい人も多いみたいよ」
珍しいものね。でも、病気は治らないのだ。
コッコちゃんの卵に縋りたい人もいるという事なのだろうか?
「ふふふ、元気で長生きしたいのよ」
「あー、しょうなのら」
そっちなのか? 確かに元気ではいたい。病気にはなりたくないのだ。この世界には病院なんてないのだから。
なら、病気になった人はどうするのか? 個人的に医者の様な事をしている人がいる。医師と呼ばれているし、医学知識もある。ちゃんと学園を出て、専門的な知識を学んだ貴族がその職に就いている。だが、なにしろお値段がお高い。庶民はちょっとお熱が出た程度なら利用しない。
なら庶民は、病気になった時はどうするのか? 街で店を開いている薬師さんに頼るのだ。
庶民でも、手の届くお値段でお薬を売ってくれる。薬湯もある。
ポーション類はまた別なのだ。一緒に扱っている薬師さんもいるらしいけど、魔法薬とも呼ばれるポーション類を買う時は錬金術師さんのお店に行く。
そこには、魔石に付与した物も売っている。レオ兄が持っていた、シールドを張る魔道具もそうだ。
俺はポーションなら作れるけど、薬湯は作れない。薬草の知識がないからだ。
「僕は両方作れるよ」
サラッと凄い事を言ったのは、ディさんだ。薬湯が作れてポーションも作れる人なんて滅多にいないそうなのだ。俺も薬湯は全然分からない。
「でぃしゃん、しゅごいのら!」
「ふふふ、そうだろう? ディさんは凄いのだよ」
なんて、笑っている。ディさんは強いし、魔法も使えるし何でもできる。俺も教わりたいのだ。
「ロロがもう少し大きくなったら、僕が直々に教えてあげるよ」
と、バチコーンとウインクをした。久しぶりのディさんのウインクは破壊力が半端ない。
目がやられてしまうぞぅ。そんな事はないのだけど。それだけ、キラッキラだと言う事なのだ。
「ロロ、一緒に帰ろう」
「うん、れおにい」
「僕も一緒に行くよ」
ん? 帰るのだろう? 家とは反対方向へ進んで行く。どこに行くのだ?
俺は、ディさんとレオ兄と手を繋いで歩く。これは一番安心するのだ。2人の大きな手に、俺の小さな手を繋いで街を歩く。
まだ夕焼けには少しだけ早い時間だ。でももうすぐ、ニコ兄が帰る頃じゃないのかな?
「マリーは先に帰ってますね」
「ええ、分かったわ。ニコをお願いね」
「はい、リア嬢ちゃま」
やはりそうなのだ。マリーはニコ兄が心配しない様に、先に家へ帰るのだ。
俺が攫われた時、ニコ兄が家に帰ると誰もいなかった。あれ以来、誰もいないと凄く心配する。まだあの事件を、誰も忘れてはいないのだ。
「まりー、きをちゅけて!」
「はいはい、ロロ坊ちゃま!」
手を振って、マリーは帰って行った。マリーが居てくれれば安心なのだ。
で、俺はどこに行くのだろう? お手々を繋いでトコトコと街を歩く。夕方近くになってくると、昼間より冒険者が多くなる。みんな戻って来るのだ。
体の大きな人もいる。大きな剣や槍に弓を担いでいる人もいる。なんだか、怖そうな人もいるのだ。
「ロロ、ディさんが抱っこしよう」
「うん」
人が多くなってきたので、俺はディさんに抱っこしてもらう。それまで俺の目線の高さだと、周りが全然見えていなかった。ディさんに抱っこしてもらうと一気に目線が高くなる。
俺は、ディさんの肩に手をやって街の外の方を見る。
「もうしゅぐ、ゆうやけなのら」
街の向こう、森の方を指さす。空はまだ薄い青空だ。だけど、ずっと向こうのお空に傾いたおひさまが見えた。もう直ぐ空が青から茜色に変わる時間なのだ。
ディさんに抱っこしてもらうと、レオ兄より目線がほんの少しだけ高くなる。いつもは見る事ができない、レオ兄のツムジがチラッと見える。大きくなった気分が味わえるのだ。
そのレオ兄が、額に掛かった俺の髪をかき上げながら優しく声を掛けてくれる。
「汗かいてるよ、疲れてないかな?」
「らいじょぶなのら」
「ロロも少しずつ体力が付いてきたね」
「れおにい、おはかまいりにいったからなのら」
「それ、関係あるの?」
「あるのら」
だってあの時は大変だった。馬車に乗っているだけでも体力が必要だった。あんなに揺れるとは思わなかったのだ。
それに、移動距離が長かった。いや、何より俺にとっては刺激がいっぱいだったのだ。
そして、やって来たこのお店は何屋さんなのかな? 看板を見てもよく分からない。何かの工房なのかな?
「ここは革製品を専門に扱っているお店だよ」
ディさんも知っているお店なのか。
「ディさんに紹介してもらったお店なんだ。親方さんが頑固なんだよ」
レオ兄がハッキリと言ったのだ。頑固親父なのか。あれかな? 初めての客は受け付けないとか? 紹介状を持っていないと駄目だとか?




