199ーもう一つの意味
その邪神と戦っていた時の事だ。
魔物が押し寄せて来ただけでも、冒険者達は傷付いた。その上、邪神が撒き散らした瘴気で民達が次々と倒れて行った。
抵抗していた冒険者達や四英雄は、呪詛を掛けられ動けなくなってしまった。最早、万策が尽きた。もう駄目だと、皆が諦めかけたらしい。
その時人々は見た。ルルンデの街の上空を光の粒子を降らせながら、孔雀の様な見事な尾羽を持つ一羽の白い鳥さんが翼を大きく広げてゆったりと飛ぶ姿を。
真っ白な孔雀鳩の様にも見える。頭の鶏冠にある淡いブルーの羽根がまるで冠の様だ。
同じ淡いブルーの小さな胸を張り、豊かな白い羽根を広げて街の上を旋回する。
その真っ白な鳥さんが、ルルンデの街の上空をゆっくりと旋回した。
キラキラと金色に光る粒子が、まるでヴェールの様に舞い降り瘴気や呪詛に苦しむ人々を癒していった。
奇跡が起こった。あれはきっと女神様が遣わせてくれた精霊様だと、皆が感謝したという。
その後白い鳥さんは、四英雄の肩に乗り力を与えたと伝えられている。
「白い鳥の精霊様の像に、花のレイと冠を飾るんだ。祭りの日の朝に、太陽が昇ると同時に教会では鐘を鳴らす。それが、祭り開始の合図だ。その日は皆、女神様に感謝を捧げにやってくるんだ」
白色の花が、白い鳥さんを。黄色の花が、金色に光る粒子を現しているらしい。
あの泣き虫女神に感謝をするのか。女神も偶には良い事をするのだね。
でもこの世界の出来事には、干渉できないとか言っていなかったか? 邪神なんて現れたら、そんな事も言ってられないのだろうけど。
「精霊様が飛び去った後は荒らされた地に、白色と黄色のアルストロメリアの花が咲いたとも言われているんです。その事もあってお祭りでは街中が、そのお花でいっぱいになりますよ。商店や各家も飾りつけますからね」
そして、男の子には白色のアルストロメリアの花冠を、女の子には黄色のレイを家族や大切な人に送る。
アルストロメリアの花は、6枚の花弁があり、外側の3枚に丸みがある花だ。花びらの内側に独特な斑点が入っていて、華やかな印象の花。ピンクやオレンジ等何色かあるらしいのだが、お祭りでは白色と黄色のお花を使う。
「ハンナもしってるの?」
「はい。毎年楽しみです。子供達と一緒に花冠やレイを作ります。夜も綺麗ですよ」
おひさまが沈んだら、街の防御壁の外を流れる川へ行く。俺達が魔魚を捕りに行ったあの川の下流だ。
菩提樹の葉に似た少し丸くて大きな葉っぱで小舟の様な物を作り、その上に白色と黄色のアルストロメリアの花を乗せる。屑魔石と呼ばれる、小さな魔石に光を灯し花と一緒に乗せて川へと流す。
川面を小さな淡い光を乗せた、葉っぱのお舟が流れていく。まるで光の川が、できたみたいに見えるのだそうだ。
光の精霊様が、魂を天に連れて行ってくれると言われているらしい。
要は、供養なのだろう。前世の世界でも良く似た供養があった。
「沢山の人が命を落とした。その鎮魂の意味もある」
「しょのじゃしんは、ろうしたのら?」
「四英雄と光の精霊様が封印したんだ」
光の精霊様に、力をもらった四英雄が邪神の眷属をやっつけた。すると街を襲っていた魔物が、次々と塵の様に消えていったのだそうだ。
そして光の精霊様と一緒に、邪神を封印したと言い伝わっている。
「お祭りの意味は、それだけじゃないんだよ」
と、ディさんが続きを教えてくれた。お祭りのもう一つの意味だ。
瘴気の怖さを覚えておく意味もあるのだそうだ。瘴気は天変地異等で、多くの人の命が失われた時に発生する。魔獣の死体を放っておいても瘴気の元になる。
それに、戦だ。沢山の命が失われる。そんな事を、起こさないようにとの意味もあるのだそうだ。
「冒険者は森で討伐したら、必ず死体は持って帰らないといけないと教わるんだ」
「れも、でぃしゃん。しょうじゃないときは、ろうしゅんの?」
冒険者が討伐した場合じゃなくても、死体はできてしまう。魔獣同士で争ったり、自然に寿命だったり。そんな時はどうするのかな?
「一度に大量には出ないだろう? それなら自然の摂理だから良いんだ。それにね」
と、川に花を流す意味も教えてくれた。先祖の霊を精霊様に連れて行ってもらう意味もあるのだけど、その昔邪神が攻めてきた時だ。精霊様が一時的に結界を張ったらしい。その境目があの川だ。その結界を守るという意味もあるのだそうだ。
「精霊眼で見たら、その名残があるんだ。だから、魔獣は嫌がって寄り付かない。それを毎年強化する意味もあるんだよ」
ほう、その光の精霊様は凄いのだね。鳥さんなのに。
「広場でパレードもあるぞ」
「ぱれーろ!?」
「ロロも見に行くだろう?」
「まりー、いってもいい?」
「はいはい、今年は皆さんで行きましょうね」
楽しみなのだ。家に帰ってレオ兄と相談なのだ。
教会からの帰り道、ピカが「疲れただろう? 僕に乗らない?」と言ってくれた。でも、歩くのだ。
「わふ?」
「らいじょぶなのら。あるくのら」
体力をつけないと。お祭りのパレードも見たいし、夜は川に行って葉っぱのお舟を流したい。
お昼寝は仕方ないけど、それ以外はお祭に参加するのだ。
だから、ディさんとマリーと手を繋いで歩く。遅いし危なっかしいけど歩くのだよ。




