198ーお祭り
「キャハハハ!」
「ロロ! 笑ってないで、もっと早く走るんだよ!」
「わかったのら! キャハハハ!」
そんな事を言われても、短い手足を必死で動かして最速で走っているつもりなのだ。
それに、ただ走っているだけなのに楽しいぞぅ。笑いが止まらないのだ。
少し暑い季節なのに、みんな全力で走る。
まだそんなに日差しは強くない。緑が綺麗な季節で、そよ風に葉っぱの匂いが少し混じっていそうな少し柔らかさを残す陽射しの午後なのだ。
なのに沢山走ったから、みんな汗だくだ。
「はーい、みんなー! オヤツですよー! 手を洗いましょうね!」
ハンナの大きな声が聞こえてきた。みんな、はーい! と元気に返事をして走って行く。
食堂で、さつまいもの入った蒸しパンと冷たいお水を貰う。
みんなゴクゴクと飲んでいる。柑橘類の果汁を絞ってあるみたいだ。ほんのり甘酸っぱいお水が、乾いた喉を通り過ぎていく。
ふわふわの蒸しパンに、ほんのりと甘いさつまいもが入っていてとても美味しい。
こうしてみんなが集まってみると、確かに小さな子が増えている。ハンナは、大変なのではないかな?
「通いで食事を作ったり、家事をしてくれる人も来ているから大丈夫だよ」
「しょうなんら」
「流石にハンナ1人では、無理だからね」
ディさんは、よく知っているのだ。それだけ孤児院の事を、気に掛けているのだろう。
「俺、ハンナに文字を教わっているんだ。文字が読めないと、ギルドの掲示板も読めないからな」
俺の口元を拭きながら、ニルスが話をする。
ギルドに登録してから、ニルスは一気にお兄さんになったのだ。色んな事を経験して、考える事もあるのだろう。
まだ10歳だぞ。前世の俺は10歳の頃って何をしていただろう? 何にも考えてなかったぞ。
ただ当たり前の様に、学校に通っていた。それは、とても恵まれた事なのだ。
識字率、日本では約100パーセントだと何かで読んだ事がある。
義務教育のお陰だ。この世界には、そんなものはない。大人でも、文字を読めても書けない人がいる。
「ロロは文字が読めるのか?」
「うん、よめるし、かけるのら」
「すげーな!」
「れおにいに、おしょわったのら」
「そっか、あの兄ちゃんか。良い兄ちゃんだな」
「うん。やしゃしくて、ちゅよくて、かっちょいいのら」
「アハハハ! そうなんだ」
「りあねえと、れおにいは、Cらんくなのら」
「え!? スゲーじゃん!」
「ふふふん」
俺じゃないのに、自慢しちゃった。リア姉やレオ兄は自慢なのだ。もちろんニコ兄もだよ。
こうして平和に暮らせるのも、リア姉やレオ兄、マリー達がいるからなのだ。
「そうだ、ロロもお祭りに行くんだろ?」
「おまちゅり?」
「あれ? ロロは知らないのか?」
「あらあら、去年はそれどころじゃありませんでしたからね」
マリーが教えてくれた。ルルンデの街のお祭り『ルルウィン祭』
「毎年あるのですよ。街中にお花を飾って、夜には川に流すんです。屋台も沢山出ますよ」
「アハハハ、マリー。それだけなのか? 肝心な祭りの意味がないじゃないか」
結局、ビオ爺が教えてくれた。流石、不良でも司祭様。詳しかったのだ。
今から約300年前の事だ。あの泣き虫女神が、この世界の主神なのはみんな知っている。
その女神から、この世界を奪い取ろうと企てた神がいた。あの女神は、頼りないから狙われたのかなぁ? なんて思ったりして。
奪い取ろうとした神、それは邪神だ。簡単にいうと悪い神様らしい。災いや疫病、戦乱をもたらすと言われている。
その邪神が各地で、猛威を振るっていた時代があった。ルルンデの街も例外ではなかった。
ダンジョンがあるルルンデの街には、邪神とその眷属に操られた魔物が押し寄せてきたらしい。
ダンジョンがあるから、魔物を利用できる。それにこの国の王都に近い事もあり狙われたんだ。
魔物だけでなく、邪神とその眷属は瘴気を撒き散らし民を苦しめた。
それに立ち向かったのが、この街にいる冒険者達だ。だが、魔物を討伐するだけで精一杯で、冒険者だけでなく民や沢山の人が命を落とした。
もう駄目なのか。この街は終わりなのかと諦めかけた時だ。助けに現れたのが四英雄と呼ばれる4人の英雄だ。
アタッカーの剣士、タンク役の戦士、ヒーラーの回復術師、そして魔術師のエルフ。この四英雄が、街を救ったと言い伝えられている。
「その時に女神様のお遣いで、光の精霊様が力を貸してくださったんだ。ほら、街の真ん中にある広場に白い像があるだろう?」
「びおじい、とりしゃんの?」
「そうだ。真っ白な鳥で、この街のシンボルなんだ」
冒険者ギルドを通り過ぎて、少しだけ歩いた街の中心部にある広場だ。
そこに何本か木が植えられていて、花壇に囲まれた真ん中に真っ白な鳥さんの像がある。
その広場では、屋台も並んでいて賑わっている。そこを通り過ぎると教会がある。
そういえば、コッコちゃんも白い鳥さんなのだ。
「アハハハ、そうだな。だから余計にコッコちゃんは、この街では歓迎されるんだと思うぞ。コッコちゃんの卵を食べたら、病が治ると信じている奴もいる位だからな」
そんな事はないのだ。確かに栄養価は高いだろうけど、まさか病が治ったりはしない。




