190ー驚いたのだ
街を見下ろせる高台にある墓地。その時、風が吹いてソヨソヨと俺達の髪を揺らしていく。
高台からみた領地は綺麗だった。ピンク色したフューシャン湖が見える。その周りに街や畑が広がっている。フューシャン湖のピンクと畑の緑のコントラストがとっても綺麗だったのだ。
この綺麗な領地を、父様と母様は守っていたのだ。
墓地からの帰り道、馬車からロック鳥を見送っていると、雲の切れ間から陽の光が漏れ放射状に地上へ降り注いでいるように見えた。
きっと父様と母様が、見守ってくれているのだ。
ロック鳥とは、また会おうと約束して別れたのだ。
俺達は、ハンザさんと落ち合うために宿屋へ戻った。
既にハンザさんは戻っていて、塩の収穫が始まった事を聞きながらみんなで美味しいお昼を食べた。
それからルルンデの街に向けて出発なのだ。
相変わらず、ガタゴトと馬車に揺られながら帰路に就いた。
「遅くなってしまったわね」
「でぃしゃんや、どるふじいが心配してるのら」
「はいはい、きっとそうですね」
帰りはそんな感じで和やかに進んだのだ。フューシャの街を出る時に遠くでロック鳥が上空を旋回しながら鳴いていた。きっと見送ってくれているのだ。
また会いに来るよ、ロック鳥。その時にはお名前を付けたいなぁ。ロック鳥って呼びにくいのだ。
「ロロ、お名前は駄目だよ」
「え、けろ呼びにくいのら」
「でもね、お名前を付けちゃうとテイムした事になっちゃうから駄目だ」
ああ、そっか。でも、自由にしてくれて良いのだから、それでも良いかなと思うのだ。
俺だけでは決められない。要相談なのだ。
帰りも、森の近くを通る時には魔獣が出たりした。でも、ピカさんがサクッと倒したり、リア姉が炎を飛ばしたりで何の影響もなかった。
リア姉はスライム退治の時に、剣に炎を纏わせそれを飛ばす事もできるようになった。
それからコツを掴んだらしくて、格段に魔力操作が上手になったのだ。
「同一人物だとは思えない」
なんてレオ兄に言われていた。そうなると、ニコ兄が焦ったらしい。
「ロロ、どうするんだ?」
「え? なにがら?」
「ほら、魔力操作だよ」
「ポカポカぐるぐるなのら」
「意味が分かんねーぞ」
帰り道、ニコ兄が魔法操作をレオ兄に教わりながら練習していた。そしたら、ルルンデの街へ到着する前に覚えてしまったのだ。
「俺は水と土だからな」
なんて言いながら、手からピューッと水を出したのだ。
「にこにい、しゅごい!」
「だろ!? スゲーだろ! 俺ってやればできるんだよ!」
ならどうして今までやらなかったのだ? そんなに直ぐにマスターできるのだから、俺よりずっと才能があるぞぅ。
これは帰ったらきっと、ディさんが驚くぞと思っていた。そしたら、俺達の方が驚く事が待っていた。
ハンザさんを街まで送って行って、馬車を返して家に戻ったらびっくりしたのだ。
「ええーーッ!!」
「なんれーッ!?」
これはニコ兄と俺が驚いている声だ。
「ディさん、何がどうなっているのですか?」
「驚いただろう? 昨日産まれたんだよ」
何が産まれたかって? それはもう本当にびっくりしたのだ。
ドルフ爺が朝、餌をあげようとお野菜を持ってきた。すると、ワラワラと小さな亀さんが動いていたらしい。クーちゃんのそばに、赤ちゃん亀さんがいたのだ。
クーちゃんは不思議だ。だって魔獣にならずに霊獣へなり、しかも聖獣にまで進化した。その上今度は、赤ちゃんなのだ。
「ぴょぉーッ! かわいいのらー!」
「なんだよ、いっぱいいるじゃん!」
「え? クーちゃんって妊娠してたの!?」
「アハハハ!」
そうなのか!? 一人、仕切りに笑っているのはレオ兄だ。
「いつ卵を産んでいたんだろうね、全然気が付かなかったよ」
ディさんも気付かなかったらしい。
誰もが、まさかクーちゃんが卵を産んでいるなんて思いもしなかった。本当、いつの間になのだ?
「何百年ぶりかで恋をしたのよーぅ! 卵まで産んじゃったわぁー!」
なんて、おマヌケな事を言っているクーちゃんの恋のお相手。それはドルフ爺だった。これまた、びっくりなのだ。
今回もお留守番すると言っていたのは、ドルフ爺と離れたくなかったかららしい。
そんなにクーちゃんとドルフ爺に接点があったのか? と、俺は思っていたのだ。
ドルフ爺はコッコちゃんの当番の時に、クーちゃんの甲羅を洗ってくれていたらしい。
「あ、しょういえば、ボク洗うのわしゅれてたのら」
そうなのだ。俺はすっかりクーちゃんの甲羅を洗う事を忘れていたのだ。
だって、いつも綺麗だったし。それは、ドルフ爺が洗ってくれていたからなのだ。
ドルフ爺はあんな感じだけど、誰にでも親切だ。その上、優しい。俺だってお世話になっているのだ。
「そのひろ~い懐に、惚れちゃったのよーぅ」
クーちゃんはそんな事を言っているけど、コッコッコッと、ちょっぴり呆れ加減の親コッコちゃん達。いつも一緒にいて、クーちゃんを見ているからなのだろう。
それにしても、どうして亀のクーちゃんは卵を産めたのだ?
ディさんが言うには、聖獣になったクーちゃんは両性具有なのだそうだ。確か、コッコちゃんもそうだった。どの子が雄でどの子が雌なのか分からない。それに、みんな卵を産む。
そんな魔獣も珍しくはないらしい。クーちゃんは聖獣だ。何がどうなっているのか、正確な事は誰にもまだ分からない。
だって、亀さんが霊獣になる事だって珍しいのに、聖獣にまでなっちゃったのだからより珍しい。
要するに、クーちゃんのドルフ爺を恋しいと思う気持ちが、卵を産む事になったのではないかという事だ。本人もそう言っているし。
まあ、良いのではないか? もう俺は満腹なのだ。疲れたし、今日は早く寝よう。




