186ーロック鳥の奥さん
墓地の柵を出て直ぐの木の下、広くなっている場所に小さなベンチセットの様なものがあった。
そこで、マリーが用意してくれた。マリー特製のフルーツケーキで一休みだ。
遠くから翼の音が聞こえてきた。ロック鳥だろう。まだ飛んでいるのか?
俺はさっきの、こみあげてくる様な気持ちも落ち着いて、マリーが出してくれたりんごジュースを飲みながら音のする方を見た。
あれれ? 2羽いるぞ。奥さんも一緒に飛んでいるのだ。後ろを守るように飛んでいるのが、俺様ロック鳥だろう。卵はもう孵ったのかな?
「レオ兄、ロック鳥が来るぞ」
「本当だ。奥さんも一緒みたいだね」
「卵から離れてもいいのかしら?」
な、そうだよな。俺もそう思う。だって、餌を捕りに行くのも我慢して温めていたのに。
バッサバッサと大きな翼の音がする。
俺達の真上に来ると、ゆっくりと降りて来た。
『おう! ここだと思ったんだ!』
「あらあらまあまあ! 喋れるのですか!?」
マリーが驚いているのだ。マリー達にも念話が通じるらしい。これは魔力量には関係ないのか?
『俺様ほどになるとな、これぐらいチョチョイのチョイだ!』
なにが俺様だ。チョチョイのチョイだよ。
『あんた、煩いわよ!』
ほら、奥さんに叱られている。直ぐに叱られて小さくなるのだから、最初から大きく出なければ良いものを。こんなところが憎めないのだ。
「卵はどうしたんだ? 温めなくてもいいのか?」
『おう! 昨夜、孵ったんだ』
『あなた達に見てもらいたくて』
そう奥さんが言った。見る? また俺達を背中に乗せて、巣まで飛んでくれるのかな? ん? 俺はいつでもオッケーなのだよ。
「ロロ」
「あい」
まただ。今日も不調なのだ。レオ兄に読まれてしまった。
ロック鳥の奥さんがヒョコッと頭を下げた。すると、背中には小さな雛が2羽顔を出していたのだ。
こらこら、孵ったばかりなのにもう連れ出しても良いのか? 可哀そうじゃないのか?
ロック鳥の奥さんの背中に埋もれるように乗っていた2羽の雛。よく飛ばされなかったものだ。
大人のロック鳥は真っ白なのに、淡い茶色の毛をしている。まだ頭の毛がモワモワッとしていて、雛らしい可愛さがある。ロック鳥は大きいのに、雛は小さいのだ。
小さいと言っても、フォーちゃん達よりは一回りくらい大きい。これであんなに大きくなるのか? それはそれで凄いのだ。
「ひょぉーッ! かぁわいいのら!」
「ちっせーんだな!」
思わずニコ兄と一緒に、雛をもっと見たいとピョンピョンとジャンプしたのだ。そんな事をしても見えないのだけど。
レオ兄が教えてくれた。ロック鳥も魔鳥さんだ。コッコちゃんの雛が孵って直ぐに歩いていたように、ロック鳥の雛も直ぐに動くのだそうだ。
それに、ほんの少しだけど飛べる。コッコちゃんの雛は飛べない。だって親のコッコちゃんが飛べないのだから。
それよりも、ロック鳥は魔鳥さんなのに角がない。どうしてだ? と思ったのだ。
魔獣はみんな角があるはずなのに。
『触ってみる?』
そう言って奥さんロック鳥が、頭を触らせてくれたのだ。俺は遠慮なく触らせてもらうよ。
ニコ兄も触ると手を出してきた。
2人で頭をナデナデとすると、おやおや? 頭の天辺がコリコリしているぞ。それも三か所ある。
「ひょぉーッ!」
「なんだこれ!?」
『ふふふ、三つあるでしょう?』
それが角なのだそうだ。びっくりなのだ。
ニコ兄と二人で驚いてしまったのだ。
『角が出ていると、飛ぶときに邪魔なのよ』
ほうほう、風の抵抗とかなのか? そうなのか? なんだかよく分からないけど。
ロック鳥の雛が降りて、ピヨピヨと鳴いている。泣き声はフォーちゃん達と同じなのだね。
ああ、もう力関係がハッキリしていたのだ。ロック鳥の雛がトテトテと歩いて近寄って行くと、コッコちゃんの雛3羽がピョーッ! と、ピカに向かって逃げ出した。
「アハハハ、やっぱロック鳥の雛の方が強いんだ!」
「ふふふ、必死で逃げているじゃない」
「かわいいのら」
体の大きさは、あんまり変わらないのに強さは上らしい。フォーちゃん達も強いと思うのだけどね。ロック鳥には敵わないか。
『あら? あなたもしかして……』
何なのだ? 奥さんロック鳥がマリーを見ているのだ。
マリーは訳が分からずキョトンとしている。いや、まだ怖いのだと思うぞぅ。
ずっとリア姉の後ろに隠れているのだ。
『ねえ、あなたクロエと一緒にいたわよね?』
「え? え? クロエ様ですか?」
『そうよ、ほら、隣町にあるお邸にクロエといたじゃない! クロエにも会いに行こうと思っていたのよ。元気かしら? 懐かしいわぁー!』
リア姉やレオ兄が、訳が分からないという顔をしている。俺はもっと分からないのだ。誰なのだ? クロエ?
「ロロ、母様の名前だ」
緊張した声でニコ兄が教えてくれた。俺は母様の名前すら憶えていなかった。だってレオ兄は母上、リア姉とニコ兄は母様、マリー達は奥様って呼ぶから。
その母様の名前がどうして出て来るのだ? みんなさっきまでとは違って、少し緊張感が感じられる。
ロック鳥の奥さんは、明るい声でマリーに話している。何も知らないのだ。
『ほら、私よ! 覚えてないかしら? 大きくなっちゃったから分からないかしら? 翼に怪我をして、飛べなくなっているところをクロエに助けてもらったの。暫くの間お邸でお世話になったわ』
「あぁ! あの時の雛ですか!?」
『そうよー! やっぱりそうなのね。何ていったかしら? ええっと……そう、マリー! マリーよね!?』
「はい! はい、マリーです!」
返事をしながらマリーが涙を流した。手を伸ばし、ロック鳥の奥さんに近付いて行く。もうマリーはロック鳥を怖がってはいない。




