183ー大きなおともらち
あれれ? でも、なんだか様子がおかしいのだ。
お隣のベッドにレオ兄とニコ兄が寝ている。これは、どういう事なのだ?
「ロロ、おはよう」
「りあねえ、夕ごはんは?」
「ふふふ、もう朝よ」
「え……」
そうなのか? 窓を見てみる。明るいのだ。まだ夜になっていないから明るいのだと思っていたけど、どうやら違うらしい。
「ロロはあのまま眠っていたのよ」
「ボク、夕ごはん食べていないのら」
「そうね、もう朝ごはんの時間よ」
ありゃりゃ、1回分損しちゃったのだ。いや、損って訳じゃないのだけど。
俺はそんなに眠っていたのか。そうなのか。
「今日は朝ごはんを食べたらお墓参りよ」
「うん」
昨日は色々あったのだ。俺にとっては、野望が一つ叶った記念日でもある。
だって、あのロック鳥に乗ったのだ。スライム退治があまりにも白熱して、霞んでしまったのだけど。でも、俺は忘れていないのだ。
あの大きなロック鳥の背中に乗った時の事を……!
「ロロ、おはよう」
ベッドでガッツポーズをとっていると、レオ兄が起きたのだ。見られてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「ふふふ、ロロは何してるんだ?」
「れおにい、鳥しゃんにのったのら」
「ああ、乗ったね」
「しゅごいのら」
「アハハハ、そうだね」
「ん~……もう朝か?」
「ニコ、おはよう」
「にこにい、おきたのら」
「あー、ロロ。大丈夫か? 疲れてないか?」
「らいじょうぶなのら。お腹しゅいたのら」
「ロロはずっと寝ていたからね」
俺は爆睡だったのだ。リア姉に抱っこしてもらって、ウトウトしていた事は覚えているのだけど。それからどうやって宿に戻って来て、いつベッドに入ったのか分からない。
きっとリア姉が寝かせてくれたのだろう。
それにしても、夕ごはんの時に声を掛けてくれても良いのだ。
「起こそうと声を掛けたんだぞ。でも、全然起きなかったんだ」
え、そうなのか? 俺は知らないのだ。
「わふん」
「しょう?」
よく寝ていたよ。と、ピカも言っているのだ。
「さあ、今日はお墓参りだ。朝ごはんを食べて用意しよう」
レオ兄が勢いをつけてベッドから起きた。
下に降りて行くと、マリー達がもう揃っていたのだ。
今朝もハンザさんはいない。もう出掛けたのかな?
「おう、起きたか。今持って来るから座ってな」
宿屋のご主人なのだ。なんだ、マリー達と話し込んでいたのか?
「ロロ坊ちゃま、疲れていませんか?」
「らいじょぶなのら。お腹しゅいたのら」
「あらあら、沢山食べましょうね。昨日は食べずに寝てしまいましたからね」
「うん」
やっと今日はお墓参りだ。予定が遅れてしまっているのだ。
本当なら昨日お墓参りをして、今日はもう帰っている途中のはずだったのだ。
ロック鳥と、スライムで手間取ってしまった。あまり遅くなると、きっとディさんやドルフ爺が心配するのだ。
「ロロ坊ちゃまが、ロック鳥に乗ったと聞いて、マリーは冷や汗が出ましたよ。まさか小さいロロ坊ちゃままで乗ったなんて」
そんな事を言いながら、マリーは手を胸にやる。心臓に悪いと訴えているのだろう。
「何より皆さん無事で、本当に良かったですよ」
そうなのだ。みんな怪我もなく無事で良かったのだ。危険な場面はあったのだけど。
マリーに見えないように、レオ兄が人差し指を立ててお口の前に持って行く。ふふふと微笑みながら。
危機一髪だった事は内緒なのだね。分かったのだ。
「さあさあ、食べてくれ! この街の恩人だ!」
ご主人が料理を出してくれた。
少し厚切りのベーコンのような、お肉の上に目玉焼きが載っている。
付け合わせに、塩漬け野菜がある。
この厚切りベーコンのようなお肉、これも名物なのだそうだ。
ベーコンに見えるけど、そうじゃない。ベーコンにする時も最初にお肉を塩で漬けるのだそうだけど、そこまでしっかりとは塩漬けにはしていない。
ほんの1日だけ塩漬けにしたものらしい。だが、その事でとっても良い塩梅に塩味が浸みて、しかもお肉が柔らかい。それを軽くソテーしてある。
それだけなのだが、風味があって美味しいのだ。
それに、付け合わせの塩漬け野菜だ。これを一緒に食べるとまた美味しい。
お野菜の塩漬けは、浅漬けよりも全然さっぱりとしていて、サラダ感覚でバリボリ食べられる。
この領地はフューシャン湖の塩無しでは、話にならないのだろう。
それに俺達は、目玉焼きが久しぶりなのだ。いつもはコッコちゃんの卵なので、大きすぎて目玉焼きは作らない。お皿に載らないのだ。
トロッとした半熟加減が、また絶妙なのだ。
「よくスライムを退治してくれたよ!」
宿屋のご主人が大きな声で嬉しそうに言った。
塩の収穫量が減って、もうギリギリだったそうだ。特産品の塩漬けの、諸々を作るのにもフューシャン湖の塩が必要だ。その塩自体も取引されている。
「うまうま!」
「な、美味いな」
夕ごはんを食べていないから、余計に美味しく感じるのだ。
朝ごはんを食べたら、宿はもう引き払うのかな? ハンザさんはどうするのだろう?
「1度戻ってくるよ。ハンザさんも乗せなきゃね」
「お昼過ぎには戻ると言って出掛けられましたよ」
「うん、丁度良い時間じゃないかな?」
昨日ロック鳥にちゃんとお話ししたから、今日はもう大丈夫だ。新しいお友達ができたのだ。
「え? ロロ、お友達なのか?」
「しょうなのら。いっしょに食べたから、もうおともらちなのら」
「アハハハ、そうなんだ」
なんだ? だって、もう仲良しだと思うぞ。レオ兄なんて、普通に話していたじゃないか。




