182ー堂々と
それだけ生活し難くなっているのだと訴えてくる。
だけど、リア姉やレオ兄の責任ではないのだ。俺達だって、追い出されたのだ。
「びぇ〜ッ! りあねえ、わりゅくないのらー!」
「ロロ、大丈夫よ」
思わず大きな声で泣いてしまった。
「あらあら、ごめんなさいね。責めているのじゃないのよ。1番下の坊ちゃまですか?」
「ええ、そうよ」
「こんなにお小さいのに、ご両親を亡くされて……」
「すまない、本当に責めたい訳じゃないんです」
何故かここで緊迫した雰囲気が和らいだのだ。結局、レオ兄がフォーゲル子爵に相談してみると言う事で話をつけた。
リア姉やレオ兄だって、悔しいのだ。訴えられても、どうする事もできない。
「宿に戻りましょう。きっとマリー達が心配しているわ」
やっとみんな馬車に乗って、戻る事になったのだ。
俺は、この頃になるとリア姉の腕の中でウトウトとしていた。
怖かったり、びっくりしたり、疲れてしまったのだ。
「ロロ、大丈夫よ。眠っていいわよ」
「ん……りあねえ」
そのまま、俺はリア姉に抱かれて眠ってしまったのだ。
(レオ視点)
「姉上、ロロは眠った?」
「ええ、寝たわよ。とっても可愛い寝顔だわ」
もう姉上は気持ちを切り替えている。いや、違うかな? 単純にロロが可愛いのか?
それにしても、あそこで泣き声を上げるなんて。ロロは理解していたのかな? あれで雰囲気が変わったんだ。
まだ3歳だけど、ロロは聡い。僕や姉上が、責められているように感じたのかも知れない。
「レオ兄……」
「ん? ニコ、どうした?」
「あいつ、何もしてないんだな。俺達の父様や母様が守っていた領地なのに」
ああ、ニコも分かる歳になったのか。そんな風に思うようになったんだ。こんな成長は嬉しい。
「リア姉やレオ兄は悪くないじゃん」
「あの人達も、そんなつもりで話していたんじゃないよ」
「でも、責められてるみたいだった」
「それだけ、切羽詰まっているんだよ。誰かを頼りたいんだ」
そうだ、そこまで追い込まれているのかも知れない。
あの辺りの人達は特にそうだったのだろう。だって、あんなにスライムが増殖していたのだから。
あの川を利用する農家の人達は困っていたのだろう。塩に関係する人達もそうだ。
これは、真剣にフォーゲル子爵に相談しないといけないな。
そう思いながら、馬車を走らせた。
宿屋に着くと、外に出てマリー達が待っていた。これは、心配かけちゃったなぁ。
「レオ坊ちゃま!」
「マリー、遅くなってごめん」
「心配しました。ロック鳥は大丈夫だったのですか?」
「え? ああ、ロック鳥ね。大丈夫だよ」
そうだった。今日はロック鳥と会っていたんだった。なんだか長い1日だったなぁ。
「え? ロロ坊ちゃまは、泣かれたんですか?」
「マリー、大丈夫よ」
「でも、リア嬢ちゃま」
「大丈夫。寝かせてくるわね」
マリーは一目見ただけで、ロロが泣いたと見抜いた。そりゃそうか。ロロのほっぺには涙の跡があったから。
リア姉がロロを、部屋に連れて上がっている間に少しマリーに話した。
ロック鳥はもう大丈夫だと言う事。それからスライム退治をした事をだ。
「農家の人達が、僕と姉上に気付いてしまってね」
「まあまあ、そうなのですか?」
その時の事も少し話した。でも、マリーはあっけらかんとしている。
「あらあら、坊ちゃま達が気になさる事ではないですよ」
「マリー、そうだけどさ」
「坊ちゃま達は何も悪い事はしていません。堂々となさっていれば良いんですよ」
マリーの言う通りだな。
「それにしても、ロック鳥に乗ったんですか? ロロ坊ちゃまも一緒にですか?」
「そうだよ! スゲーんだ!」
「もう信じられないです。ロック鳥に乗るなんて」
「それがさ、気さくなロック鳥だったんだ。奥さんもいてさ。そうだ、マリーのスープのお鍋2つ食べちゃった」
「まあまあ! ニコ坊ちゃま、2つもですか? お腹が空いていたんですね」
マリーには心配掛けたけど、無事に戻って来れて良かったよ。
◇◇◇
んん……なんだか温かいぞ? それに柔らかい……何だ、これは?
俺はゆっくりと目を開けた。すると、お胸が目の前に……!?
何だ? 一体どうしてこうなった!? と、顔を動かして見てみると。なんだ、リア姉だった。
俺は、リア姉にしっかりと抱きしめられて寝ていた。これは、リア姉のお胸だ。と、言ってもちゃんと服は着ているのだ。
ふむ。嬉しくも何ともない。ときめかないのだ。姉だしね。
モゾモゾと、腕の中で動いて起きようとする。なのに、しっかりとホールドされていて動けないじゃないか。
――キュルュリュリュ……
ほら、俺のお腹が鳴っているのだ。
仕方がない。俺は、リア姉の腕を叩く。
「りあねえ、りあねえ、おきて」
「んん……まだ眠いのよ……」
「りあねえ、おなかしゅいたのら」
「ん……お腹?」
やっと、目を薄らと開けてくれた。
「あら……? ロロ?」
「りあねえ、おなかしゅいた」
「えっと……」
駄目だ。まだ寝惚けているぞ。
「おきるのら」
「うん……」
やっと離してくれて、俺は腕の中から起き上がる。
宿屋の部屋だ。そりゃそうなのだろう。ベッドで眠っていたのだから。
「りあねえ、おきるのら」
「うん、わかったわ」
やっと目が覚めたか? リア姉も疲れたのだろう。こんなに魔法を使う事なんて、なかっただろうから。
もしかして、ギリギリだったのかも知れない。あの大きな炎で、スライムを倒せて良かったのだ。




