181ーバレてしまった
俺はちょっぴり不安だったみたいだ。なんだか、少し泣きそうなのだ。
「ロロ、まだ眠いのかな?」
「れおにい、ふぉーちゃんたち」
「アハハハ、もう無理だよ。囲まれているし」
「ええー……」
「大丈夫だよ。みんな笑顔だから。僕もちゃんと見たよ」
それなら大丈夫なのだ。
リア姉が燃やしたあの大きなスライム。湖から川に流れ出るところに、塞がっていたらしい。
農家のおじさんが、棒で突いた事があるのだって。そうしたらピューッと、あの溶かす液体を飛ばしてくるのだそうだ。
普段は塩湖の塩分を吸収してくれて役に立っているスライムだけど、こうなるともう害獣と同じなのだ。
とにかく大きい。その上、物を溶かす液体を飛ばしてくる。だから、手を出せなかった。
そのスライムをリア姉が燃やしたのだ。
ピカが風属性魔法で浮き上がらせて、それからレオ兄と一緒に移動させた。
リア姉が農家の人達に、囲まれてしまってとっても感謝されている。
「れおにい、しゅらいむは、もういいの?」
「あの大きなのを退治したからね、もう大丈夫だよ」
レオ兄が教えてくれた。あの大きなスライム、ヒュージスライムという。あれは、普通サイズのスライムが沢山合体して大きくなったのだ。
あそこまで大きくなるには、何十匹ではすまないかも知れないらしい。そこまで増えていたスライム。
フューシャン湖の塩分を吸収して、どんどん大きくなったらしい。
あまりにも大きくてブヨブヨしているから、ピカが動かす時に方向が定め難かった。それで、レオ兄がサポートをしていたのだ。レオ兄ったら、凄いのだ。
「れおにい、りあねえはらいじょぶ?」
「大丈夫だよ、何ともないよ。怪我もしていない」
「よかったのら……」
あ、いかん。俺って、心配していたのだな。なんだかホッとして、涙が出てきたのだ。
「び、び、びぇ」
もう駄目だ。涙が止まらなくなってしまったのだ。
「ロロ、どうしたの? 大丈夫だよ」
「れ、れ、れおにい……ヒック」
「ロロ、心配だったんだよな?」
「にこにい、りあねえが……うぇ〜ん!」
「ああ、よしよし。姉上が心配だったのか。大丈夫だ」
レオ兄が頭を撫でてくれる。ニコ兄まで背中を摩ってくれる。
それでも涙は止まらなかった。
いかん、いかんのだ。思っていた以上に不安だったみたいだ。
「ロロ! どうしたの? どこか痛いの?」
俺の泣き声を聞いて、リア姉が駆け付けてきた。
「りあねえー! うぇ〜ん! よかったのらー!」
俺は、レオ兄の腕の中からリア姉に向かって両手を伸ばす。
良かったのだ。本当に無事で良かった。ヒュージスライムがリア姉に向かって行った時には、どうなるかと思った。
心臓が止まりそうに、キュッとなったのだ。
「ロロは姉上が心配だったんだよ」
「ロロ、大丈夫よ。私は大丈夫」
そう言いながら、レオ兄から俺を抱き寄せてくれる。
リア姉に抱っこされた俺は、ギュッと首にしがみついた。
「うぇ〜ん! りあねえー! えぇ〜ん!」
「あらあら、大丈夫よ」
そんな俺達を見ていた、おじさん達。
きっと俺が大きな声で、リア姉と呼んだからだ。
「もしかして……リア様とレオ様なのか?」
ほら、バレてしまったのだ。駄目な訳じゃないのだけど、でもなぁ。
まだ俺の涙は止まらないのだけど。
「うぇ……ヒック」
「戻って来て下さったのか!?」
おじさんやおばさんが、麦わら帽子を取って頭を下げている。
「僕達は両親のお墓参りに来ただけなんだ」
「領主様の……」
「私達はレオ様が、跡を継がれるのだとばかり思っていたのですよ」
優しそうなおばさんが、残念そうに言った。
真剣な話になってきたところ悪いけど、俺はまだ泣いているからね。
まだ涙を流している俺の背中をトントンしながら、リア姉はおばさん達に言った。
「私達もそう思っていたわ。でも、私達は追い出されたのよ」
「姉上」
「レオ、本当の事なんだからいいじゃない」
「なんて事なの……!」
おばさんは驚いている。そんな事、知らないのだろう。
リア姉が話をしながら、少し体を揺らしてくれる。そんな事をされると、まともにお昼寝をしていなかった俺は直ぐに目がトロンとしてくる。
「俺達は何も知らなくて……」
「それは当然よ。お邸からは離れているし、突然の事だったの」
おじさんやおばさんが、話していた。
知らないうちに領主が変わっていた。それを知るよりも先に、俺達の両親が亡くなったと知ったらしい。
なら、レオ兄が跡を継ぐはずだと当然皆思っていた。リア姉やレオ兄は父と一緒に、何度も領地の視察に加わっていたからみんな知っていた。だから、レオ兄なら安心だと。でも、違ったのだ。
おじさん達が知らない名前の人が、領主に就いた。
今の領主になってから、この地域に視察に来た事は1度もないらしい。もう1年が経つというのにだ。
湖や川の事を何度も訴えた。地域のまとめ役の人が、直接お邸にまで行ったのに取り合ってもらえなかった。
そんな同じ様な不満が、領地で膨れ上がっているのだそうだ。
「私達だって悔しいのよ」
「姉上」
「だってレオ」
「僕達は、今は隣りのフォーゲル領のルルンデの街にいるんだ。もしまたスライムが増えたら、ルルンデの冒険者ギルドへ僕達宛に依頼を出して欲しい。そうしたら、僕達が退治しに来るから。申し訳ないけど、僕達は何もできないんだ」
「それはまだレオ様が、成人なさってないからですか?」
「私達だけじゃないんです。色んな場所で不満が上がっているんです」
おじさん達も必死なのだろう。




