180ースライム退治 6
「にこにい、らいじょぶなのら!」
「ロロ! ピカか!?」
「しょうなのら!」
俺達はピカが鳴いているのが聞こえたから、もう焦っていなかった。
でもリア姉は、耳に入っていなかったようなのだ。
見ていると、こっちに走りながら叫んでいる。
「ニコとロロは、私が守るの! 駄目よ! 駄目ッ!」
ピカの魔法に弾かれて、大きなスライムが空中で向きを変える。と、同時にピカが馬車に風を纏わせて防御してくれた。
あれだ、飛んでくるポップントットの種から、リア姉とレオ兄を守っていたのと同じなのだ。
「ピカ! そのまま降ろして!」
「わふん」
ピカは容赦ない。ポポーイと大きなスライムを地面に放り投げたのだ。それでもスライムは、ボヨヨーンと弾んで飛びあがる。
リア姉を敵と見定めたのか、今度はリア姉の方へボヨヨンと向かって行く。
「リア姉!」
「あぶないのら!」
大きなスライムがボヨヨンと弾んで、リア姉の真上に来た時だ。
「姉上!」
「ああー! もうッ! ムカつくのよ! いけーッ!」
リア姉がそう叫びながら、スライム目掛けて剣を振った。え? 斬ったら駄目なのだろう?
よく見ると、リア姉の剣に青い炎が纏わりついている。その剣から、今まで見た事がない様な大きな炎が出て、あっという間に大きなスライムをゴォーッと音を立てて焼き尽くしたのだ。
プスプスと煙をあげながら、燃えカスが落ちてくる。
「えぇ……」
「リア姉!?」
び、び、びっくりなのだ。スライムが飛んできた事より、こっちの方がびっくりした。思わず放心状態なのだ。
当のリア姉は自分でも驚いたのか、その場にペタンと座り込んでいる。
「姉上!」
「だ、大丈夫よ。びっくりしただけよ。思わず斬っちゃったわ」
「アハハハ! 今の何だよ!?」
「笑わないでよ、私にも分からないわよ。ニコとロロが危ないと思ったの! まさか剣から、あんなに大きな炎が出るなんて思わなかったのよ!」
あ、レオ兄が笑っているのだ。大丈夫そうだ。
「リア姉! スゲー!」
「しゅごいのら!」
ニコ兄と2人で、その場で小躍りをして大騒ぎなのだ。凄いのだ。
リア姉なら、いつかはやってくれると信じていたのだ。まさか、剣から炎を飛ばすなんて思わなかったけど。
「ロロ、あれ炎の剣だよな?」
「びっくりなのら」
「スゲーよな!」
「しゅごいのら!」
これは、あれだね。完全にディさん案件だね。剣自体に炎を付与するだけじゃなくて、剣からあんなに大きな炎を出せるなんてさ。
あ、そう言えば……ディさんとの秘密があったのだ。
ディさんが必要な時は呼ぶんだよと言われていた。呼べば良かったかなぁ? いや、でも俺達だけでなんとかなったのだ。
今回の事で、リア姉も少しは成長したのではないかな? ふふふん。
と、俺は両手を腰にやり胸を張る。ちょっとお腹がポヨンとしているけどね。見なかった事にしてほしい。
「ロロ、何で胸張ってんだよ」
「これれ、りあねえも勉強になったのら」
「アハハハ! ロロは何もしてないじゃん!?」
そうだった。俺は何もしていなかったのだ。
それよりも、もうスライム退治は良いのかな? ん? もう終わりかな? 何なら俺が出て行ってやっつけても良いのだよ?
「アハハハ! ロロ、偉そうだ!」
「ふふふん、にこにい。もうおわりれ、いいのかな?」
「どうだろうな。でもあんな大きいスライムを退治したんだから良いんじゃないか? ほら、リア姉とレオ兄が戻って来るぞ」
よし、手を振ろう。俺は短い手をブンブンと振った。
2人の後を、ピカとちびっ子戦隊が付いてくる。誰も怪我をしていないよな?
「ピヨヨ!」
「キャンキャン!」
「わふ」
ピカの足元をチョロチョロと走っていたちびっ子戦隊が、ピカに叱られている。
歩き難いから、離れて。なんて言っている。ピカさんを慕っているのだよ。そんな邪険にしなくても良いのに。
ちびっ子戦隊も、目立たなかったけど頑張っていたのだ。
「ちょっとあんた達! 凄いじゃないか!」
近くで見ていたのだろう、おばさんが走り寄って来た。
リア姉の肩を、バシバシと叩いている。
「あのおばさんは、さっきリア姉と話していた人だ」
そうなのか? 俺は知らないぞ。眠っていたからかな?
そのおばさんだけじゃなく、どこで見ていたのか農家のおじさんやおばさんが、ワラワラと寄ってきたのだ。
「姉さん達スゲーじゃねーか!」
「有難う! スライムで困っていたんだ!」
「大丈夫なの? 怪我はない?」
口々に色々言っている。この辺りの農家の人なのだろう。みんな麦わら帽子を被っている。
エプロンをつけていたり、長靴を履いていたり。農作業をしていたのかな?
「リア姉とレオ兄が、討伐していたのを見ていたんだな」
「ねー」
いやいや、それよりもだ。ちびっ子戦隊を馬車に乗せないと、目立ってしまうぞ。
雛はまだいいが、プチゴーレム達だ。
本当なら土人形は、動くはずないのだから。
「まあ! 可愛らしいのがいるじゃない!」
「ええッ!? 何で動いてんだよ! アハハハ!」
ああ、遅かった。見つかってしまったのだ。
「ロロ、手遅れだな」
「にこにい、ろーしよう」
ちびっ子戦隊が、おじさんやおばさんに囲まれている。
なのに、ちびっ子戦隊ったらとっても自慢気なのだ。
「ピヨヨ!」
「キャンキャン!」
「ピヨ!」
「アン!」
「わふん」
ピカまで自慢気にしている。意味が分からない。駄目だろう、さっさと戻って来るのだ。
「ニコ、ロロ、大丈夫か?」
レオ兄が馬車に戻ってきた。馬車の後ろ側から声を掛けてくれる。
「なんともないぞ!」
「れおにい!」
「ロロ、早く目が覚めちゃったんだね」
俺はトコトコとレオ兄に抱きついた。そのままレオ兄は抱っこしてくれる。レオ兄の腕の中は安心なのだ。




