179ースライム退治 5
「ろうしたんらろ?」
「何がだ?」
「ぴかがれおにいに、なにかいってるのら」
「え? そうなのか?」
ちびっ子戦隊がスタンバっているけど、今のところ取りこぼしは無い。
だけど、何なのだろう? 気になるのだ。
よく見ていると、ピカがレオ兄に何かを相談しているのかな? そして、レオ兄が手を翳しピカが鳴いた。
「わおーん!」
小型の竜巻のようなものが現れた。これって、ピカさんの魔法なのか?
その竜巻が、湖が川に流れ出している場所へと沈んで行く。何が起こるのだろう?
「ロロ、あれピカがやってるんだよな?」
「しょうなのら。けろ、れおにいも何かしゅるみたいなのら」
「レオ兄がか?」
レオ兄が手を掲げてスタンバっている。そこに、ズンズンと盛り上がってきた湖の水面。
そこから頭を出したのはとってもとっても大きなスライムだ。え? あの大きさでスライムなのか?
「レオ! ヒュージスライムよ!」
リア姉が叫んでいる。大きなスライムさんという事なのかな?
「なんだよ、なんだよあの大きさは!?」
「ぴゃぁーッ! おっきいのら!」
それはもう驚いたなんてもんじゃない。俺はスライムを見るのは初めてだけど、それでも異常に大きいのだと分かる。
ポヨヨンとした楕円形の横幅が、何メートルあるのか分からないような大きなスライム。俺が乗ってる馬車と同じくらいあるのだ。
もう、ポヨヨンとは言えない動きだ。
あんなに大きなスライムを、どうするのだ?
ピカが風属性魔法で持ち上げたのは、分かった。でも、そこからどうするのだ?
だって分裂してしまうから剣では斬れない。あんなに大きなスライムを、燃やせるのか?
その大きなスライムはまだ湖の上だ。そこから、なんとか陸まで持って来たい。
ピカがまた鳴いた。と、同時にレオ兄が何かしているのだ。
「わおん!」
「よし、ピカ。いいよ!」
「わふッ!」
きっとピカとレオ兄が一緒に、あの大きなスライムを動かしているのだ。ピカが動かして、レオ兄がその方向をサポートしている感じだろうか?
ゆっくりと移動しているスライム。空中に浮きながらも、ブヨヨンと体が波打っている。
そのまま陸へとゆっくり移動させている。
「おもいのかなぁ?」
「な、デカイからな」
それをジッとみている、ニコ兄と俺。思わず、手に汗握るのだ。両手をギュッと握り締める。
大きなスライムを浮かせた時に、一緒に普通サイズのスライムも出て来ている。
それをちびっ子戦隊は見逃さなかった。
「ピヨヨ!」
「キャンキャン!」
と、鳴きながら小さな足でバタバタと踏み付けている。
ニコ兄と俺は、それに加勢するのも忘れてジッと大きなスライムの行方を見守る。
ドドンと陸に上げられた大きなスライム。ヒュージスライムだとリア姉が言っていたのだ。
陸に上げられたら、こっちのものだ。
「姉上!」
「分かったわ!」
リア姉が手を翳して、スライムを炎で焼こうとする。
「ありゃ!?」
「なんだよ! デカイからか!?」
リア姉が炎を出しても、効いていないのだ。炎に包まれはする、だけど、直ぐに消えてしまうのだ。どうしてなのだ?
「ロロ、良く見てみろ! スライムが何かを出しているぞ!」
「ええ!?」
ニコ兄に言われた通り、大きなスライムをジッと観察する。すると、さっきの川でスライムがピュッと飛ばしていたように、大きなスライムも何かを飛ばして炎を消しているのだ。
「ええー! なんれなのら!?」
「あれ、何だろう? 水なのかな?」
いやいや、ニコ兄。どうしてそんなに冷静なのだよ?
もっと一緒に驚いてほしいのだ。
どうするのだ? 唯一の有効な攻撃である、リア姉の炎が効かないではないか。
「姉上、斬って小さくしてから焼いてしまう!?」
「そんな事できないわよ! ヒュージスライムなのよ。一体幾つのスライムに分裂するのか予測がつかないもの!」
そうなのか? バサッと真っ二つに斬ったら二つに分裂するのではないのか?
さっきの川のスライムはそうだったのに。
「なんでだろうな?」
「にこにい、ボク達も行く?」
「いや、行ったら駄目だ。邪魔になるぞ」
「分かったのら」
なら、応援だけでもしよう。
「りあねえ、頑張れー!」
何度も炎で焼こうとリア姉はしているのだけど、その度に消されてしまう。
こんな事をしていると、リア姉の魔力が枯渇してしまう。そうなったら最悪なのだ。退治する術が無くなってしまう。
あんなに大きいと、踏みつけられないし。どうするのだ?
その時だ。大きなスライムが流石に鬱陶しくなったのか、動きだした。
湖に戻ろうとしているのか、体をウネウネと動かし始めたのだ。
でもそうはさせないと、レオ兄が槍でスライムをぶっ刺して戻らせないように踏ん張っている。
そんなレオ兄の槍をジュルンと抜け出し、何を思ったのか? いや、スライムだからそんな知性はないのか?
何故かニコ兄と俺が、乗っている馬車目掛けてボヨヨーンと飛んできたのだ。
あんな大きいのが馬車に当たったら、ぺしゃんこになってしまうぞ。
「にこにい!」
「ロロ!」
思わず、俺達は抱き合っていた。そして、恐々大きなスライムが宙を舞うのを見ていたのだ。
「ニコ! ロロ!」
「やだ! どうして!?」
レオ兄とリア姉も、焦っているのが声から分かる。だけど、どうしようもないのだろう。
「わおぉーん!」
あ、ピカが鳴いている。なら、大丈夫なのだ。きっとピカが馬車に当たらないようにしてくれるのだ。




