171ー食べるのら
暫く走ると大きな岩と岩の境目に、ドーム状になっている場所があった。
屋根のようになっている。そこだと雨露をしのげるのだろう。
俺達と話した雄のロック鳥が、守るように待っていた。後ろには雌だろうロック鳥が卵を温めていたのだ。
愛妻と言っていたその雌のロック鳥。見た目は変わらない。少し体が小さいくらいなのだ。
『ちょっとあんた、どきなさいよ』
『ああ!? 何言ってんだッ! 神獣様がいるんだぞ! もしもって事があんだろうがッ!』
『馬鹿じゃないの! 神獣様がいらっしゃるからこそどきなさいよ!』
『お、おう。分かったよぉ』
おやおや、奥さんの方が強いみたいだぞぅ。
ロック鳥の奥さんが、ゆっくりと頭を下げたのだ。
お腹の下で卵を抱いているのだろう。そこから動こうとしない。
『神獣様、この人が失礼をした様で申し訳ありません』
ピカさん、お返事はしないのか?
「わふん」
気にしなくていいと言っている。偉そうにしないのは、良い事だ。
横柄な態度はよくない。ピカらしくないのだ。
「お腹が空いていると聞いたんだ」
『そうなのよ。卵を温めているからここから離れられなくて。なかなか獲物を狩りに行けないのよ』
レオ兄が、ロック鳥とさっき話した事を伝えた。沢山お肉を持っているからお腹いっぱい食べていいよと話した。
そしたら奥さんロック鳥は、とても申し訳なさそうにしていたのだ。
『この人から聞きました。本当に良いの? 私達すっごく食べるわよ。体が大きいし、今はお腹が空いているもの』
「大丈夫だよ。沢山あるから。それに、今まで食べた事の無い物と言われたから、スープをどうかと思っているんだ」
『まあ! この人ったらそんな事を言ったの!? 本当に良いのかしら?』
「構わないよ。ピカ、出してあげて」
「わふん」
ピカがお肉をドドンと沢山出した。小山になっているのだ。一体どれだけ持っていたのだろう?
『マジでお前等さぁ、神獣様にどんだけ持たせているんだよ』
『あんた! その言い方は何なのよ! こんなに親切にしてくれてるのに失礼でしょう!』
怒られて小さくなっている。どの世界でも奥さんは強いらしい。
どうするのだ? 奥さんは卵から離れられないのか?
『もう少しで孵るんだ。だから今は離れられねーんだよ。俺が獲物を狩って持って来ていたんだけど、そう大物もこの辺りにはいなくてな。森の方ならいるんだけどよ』
ルルンデの街の近くにある森の事なのだ。なら、どうしてこの岩場に巣を作ったのだろう?
餌が捕れないなんて、死活問題じゃないか。
『まあ、ここなら安全だって事もあるんだ。森だと魔獣が卵を狙ってくるからな』
『私がね、ここがいいと言ったの。赤ちゃんが孵ったら、見せたい人がいるのよ』
ほうほう、奥さんの希望らしい。森だと確かに自分達の食べる分には困らない。だけど、卵を狙われる危険もあるという事なのだろう。
とにかく、食べて欲しいのだ。卵を温めている奥さんロック鳥にも、持って行ってあげてほしい。
『ありがてー! すまねーなッ!』
ロック鳥はヒョイと咥えると、奥さんロック鳥の前にどんどん置いていく。
『有難う! 頂くわね!』
それからロック鳥はガツガツと食べ出した。本当にお腹が空いていたのだろう。
ピカがまた追加で出したくらいなのだ。
それに、マリーが作ったスープ。これも大きなお鍋を二つ出した。一つずつロック鳥の夫婦は食べて、驚いていたのだ。
『うめーッ! なんだなんだ、この複雑な味は!?』
『とっても美味しいわ! 心を込めて作られたスープなのね!』
と、喜んでいた。良かったのだ。
しかし、ピカさん。よくそんなに持っていたのだ。
「直前に森で討伐した分を持っていたんだ。お墓参りから帰ってから、ゆっくりギルドで解体してもらおうと思ってピカが収納したままだったんだ。役に立って良かったよ」
ピカが収納していると、時間経過がない。だから急がないのだ。
デザートにポップントットの実は如何かな? 俺もまた食べたいのだ。
「れおにい、ボクも食べたいのら」
「俺も!」
「ふふふ、じゃあ焼こうか」
「あら、私も欲しいわ」
ピカがポップントットの実を大量に出す。こんなに採っていたのか。これが放っておいたら、ポップーン! と、飛ぶのだろう? 危ない危ない。
その頃には、ちびっ子戦隊も馬車から出て来た。自分達も食べると言っているのだ。
大きなロック鳥に、ピカさん、それに小さなちびっ子戦隊。なんて賑やかなのだ。
「あ、チロは?」
「キュルン」
ああ、いたいた。いつの間にかピカの背中に乗っていたのだ。
「みんなれ、たべるのら!」
「アハハハ! ロロ、そうしよう」
大きなロック鳥にしてみれば、ポップントットの実なんて米粒みたいなものだろう。
小さすぎて味が分かるのか? と、思っていたのだけど、喜んで食べてくれた。
喜んでくれると、こっちも嬉しい。
『生き返った気分だわー! 本当に有難う!』
『恩に着るぜ! 俺にできる事なら、なんでも言ってくれッ!』
よしよし、その言葉を期待していたのだ。
「れおにい」
「また、ロロ。駄目だよ。危ないだろう?」
「らって上から見たら、しゅぐにわかるのら」
「え? もしかして、川の事かな?」
「しょうなのら」
だってそう思わないか? フューシャン湖から川に流れ出ている場所を、確認したいのだろう?
だったら、上空から見るのが手っ取り早いのだ。




