163ー朝食
「レオ坊ちゃま、墓地には行けるのでしょうか?」
マリーも昨日のロック鳥の事を気にしているのだ。
あれ? そういえば、ハンザさんはどうしたのだろう? いないのだ。
「まりー、はんじゃしゃんは?」
「もう出られましたよ。塩の仕入れが難しいからと早くに出掛けられました」
「ああ、収穫量が減っていると話していたね」
「レオ坊ちゃま」
「うん、分かっているよ。でも、気になるだろう? それに、ロック鳥がいると墓地に行けないかも知れない」
「そうよね、放っておけないわ」
「でも、レオ坊ちゃま、リア嬢ちゃま。危険な事はしないでください」
「大丈夫よ、マリー」
そうなのだ、ピカさんが平気だと言っていたのだ。
マリーだって気にしているのだ。勿論、墓地に行けなかったら何のために来たのか分からない。
それに、塩の収穫量の事も気にしているのだ。マリーだってこの領地に住んでいた事があるのだから。
「行くだけ行ってみようよ」
「そうよね。どうせ墓地と同じ方向だわ」
そこに、昨夜話しかけてきた宿屋のご主人がまた話に入って来たのだ。
「なんだ、兄さん達は墓地に行くのか?」
「はい、両親のお墓参りに来たんですよ」
「そりゃ、残念だな。きっと途中でロック鳥に邪魔されてしまうぞ」
「そうなの?」
「ああ。途中に岩場があるだろう? そこに巣を作ってんだ」
レオ兄が話していた通りなのだ。やっぱ岩場に巣があるのだ。
「いくらCランクでも、ロック鳥は威圧してくるんだ。気をつけるんだぞ」
と言って宿屋のご主人は奥に入って行ったのだ。
どうする? ピカさん、お肉を食べているけどさ。
「わふ?」
「ぴか、おいしい?」
「わふん」
そうか、美味しいのか。良かったよ。
なんだか不安になってきたのだ。ピカさんったら能天気なのだ。
考えていても仕方がない。俺は取り敢えず食べよう。
「ロロ、コッコちゃんの卵じゃないんだ」
真っ先にオムレツを頬張っていた、ニコ兄が言った。
「にこにい、らっておうちじゃないのら」
「そうなんだけどさ」
毎日美味しいコッコちゃんの卵を食べているから、普通の卵だと物足りないらしい。
「なんだろう、これも美味しいんだけどさ。コクが違うってのかな」
「あらあら、ニコ坊ちゃまにそんな事が分かるのですか?」
「本当よ。ニコに分かるの?」
「なんだよ、マリーもユーリアも。酷いな。俺だって分かるんだよ」
「まいにち食べてるからなのら」
「ふふふ、そうよね。でないとニコに分かるはずがないわ」
「あー、リア姉まで酷いな」
ニコ兄のお陰で、和やかになった。
朝ごはんは平和に食べたい。コッコちゃんの卵じゃないけど、これも美味しいのだ。
それより、このハムだ。厚めに切って軽く焼いてあるだけなのに、ジューシーでとっても美味しいのだ。
「うまうま」
「ロロ、どれだ?」
「ハム。めちゃうまうまら」
「この領地で作られたハムなのよ。塩が美味しいから、ハムに特別なスパイスを使わなくても美味しくできるのね。ハムだけじゃなくて、燻製肉や野菜の塩漬けも有名なのよ」
ほう、野菜の塩漬けって浅漬けみたいな物なのかな?
「ロロ坊ちゃま、これですよ」
マリーがお皿に乗っているお野菜を教えてくれた。
ちょっと食べてみよう。家だとお野菜の塩漬けなんてないから珍しい。
「ん、うまうまら」
「ロロ、そうなのか?」
「にこにい、うまうま」
「あらあら、良かったです。普通の塩だとただ塩辛いだけになってしまうのですけど、フューシャン湖の塩だと美味しくなるのですよ」
日本の浅漬けほど漬かってはいない。まだシャキシャキ感が充分に残っている。でも、塩加減が丁度良い。
本当に塩が美味しいのだ。特産品になるのも頷ける。
「これはなにいろのお塩なのら?」
「これはお野菜ですからエメラルドグリーンの塩だと思いますよ」
「そうね、ハムにはピンクの塩ね」
「ほぉ~」
いつもとは少し違う朝食なのだ。リア姉は、懐かしいと話していた。きっと両親が生きていて、この領地に住んでいた頃はよく食べたのだろう。
俺はそんなことは、全然知らないのだ。仕方ないのだけど、ちょっぴり寂しく感じてしまうのだ。
「このサンドイッチも美味いな」
ニコ兄が頬張っている。お肉を薄くスライスしたものを何枚かと、さっき食べたお野菜の塩漬けも一緒に挟んである。
珍しい。ルルンデの街では見ないのだ。
「燻製肉を薄くスライスして重ねてあるんです。お野菜の塩漬けが入っていて、レモン果汁も絞ってあるので爽やかで食べ易いでしょう?」
「うん、美味い」
ほうほう。マリーは詳しいのだ。もしかして、こっちにいる時にマリーも作った事があるのかな?
「ニコ坊ちゃまが生まれる前に、よくお庭でピクニックだとか言って食べていましたね」
「本当だ。懐かしいな」
「本当よね、忘れていたわ。あの頃って、母様がペットを色々飼っていたでしょう? 外で食べると、欲しがって寄って来るから大変だったのを覚えているわ」
「そうだっけ?」
「そうよ、何匹いたかしら?」
「奥様は色んな動物を助けたり拾って来られたりで、絶えず何匹か飼っていましたね。ふふふ」
ほう、そうなのか?
「遠出なさると、必ずと言って良い程何かを拾って来られていましたよ。猫ちゃんやワンちゃん、羽を怪我をして飛べなくなっている小鳥さんとか。だから、その関係でピカも来たのだと思っていました」
だからなのか。突然大きなワンちゃんが俺のそばにいても、すんなりと受け入れられた。それにはそんな理由があったのだ。




