158ー美味しい
「れおにい、ろんな実?」
「ロロ、見る?」
「うん、見たいのら」
レオ兄が持っていた大きな袋から、超特大の枝豆の様な実を出した。40〜50センチはあると思うぞぅ。重そうだ。
でも、緑ではない。淡いクリーム色をしている。この中にある種が飛ぶようになると、濃い黄色になるらしい。
「うわ、デカイな!」
「食べてみる?」
「レオ兄、このまま食べられんのか?」
「これを焼くんだ」
焼くとはどうやって? 流石にフライパンなんて持ってきていないのだ。
みんなで馬車を降りて、これからポップントットの試食会なのだ。
レオ兄が、大きな実を幾つか地面に置いた。
「姉上、いいよ。やり過ぎないでよ」
「分かってるわよ」
リア姉が片手をポップントットに向けて、炎を出したのだ。ポップントットは炎に包まれて、焼くと言うより燃えている。
えッ!? 焼くって直焼きなのか!? なんて大胆なのだ。中の実が焦げ焦げになっちゃったりしないのか?
「そんなにしっかりとは焼かないので、皮が厚いから大丈夫ですよ」
ほうほう、焼き芋みたいなのだ。直ぐに香ばしい良い匂いがしてきたのだ。そのうち、またポップーンと弾けるような音がした。
「レオ、もういいんじゃない?」
「そうだね」
レオ兄が手を出してギュッと握る仕草をすると炎が消えたのだ。え? どうやったのだ?
もしかして、レオ兄って凄いのではないか?
「れおにい、いまのろうやったのら?」
「ん? 風属性魔法だよ。ギュッてね」
うん、意味が分からないのだ。炎の周りの風をギュッてしたのか? そのギュッて何なのだ?
目立たないけど、もしかして凄い事なのではないのか? これは帰ったら、ディさん案件なのだ。
「じぇんじぇん、わからないのら」
「アハハハ、僕もうまく説明できないよ。風を握る感じかな?」
「むむむ」
「ほうほう、リアちゃんやレオ君は魔法がとっても上手だ」
ん? リア姉もなのか? いや、まあいい。今はそこじゃないのだ。
「レオ兄、それよりもう食べられるのか?」
「ああ、ニコ。熱いよ、剥いてあげるから」
そりゃそうなのだ。さっきまで炎に包まれていたのだから。
でもその割には皮が真っ黒に焦げていたりしない。こんがりと焼けて茶色くなっている。本当に頑丈な皮だ。
よく見ると、皮が片側だけ少し割れている。さっきの、ポップーンという音は皮が爆ぜる音だったのだ。
こうして爆ぜるように、種を飛ばしているのか?
レオ兄が、そっと持ってキヌサヤの筋を剥くみたいに、爆ぜている皮の方をピーッと剥いた。
そこから割ると、中には淡いクリーム色した野球ボール大の豆さんが幾つも出てきた。
ホックホクなのだ。湯気が出ている。美味しそうな匂いもしている。
「レオ坊ちゃま、この葉を使ってください」
「マリー、ありがとう」
マリーがいつも使っている、包んでおくと腐りにくくなる葉っぱ。それを出してきた。よく持っていたのだ。
その葉っぱにコロンと実をのせて、ニコ兄に渡した。
「そのまま、かぶりついてごらん」
「レオ兄、硬くないのか?」
「大丈夫だよ」
「れおにい、ボクも」
「あたしも!」
「ほほい、私も一つ」
お、みんな興味津々なのだ。
まず最初にニコ兄が、かぶりついた。
サクッと良い音がしたぞ。それに、なんだか香ばしい良い匂いもする。
「にこにい、どお?」
「うまッ!」
「アハハハ、そうだろう?」
「丁度いい塩加減だ!」
「アハハハ」
塩加減? 木の実なのに? まあ、いいや。俺はチャレンジャーなのだ。
両手でポップントットの実を持って、ガブリとかぶりついた。
「ふぇッ! うまうま!」
驚いたなんてもんじゃない。見た目から想像できない味と歯触りなのだ。
植物なのにサクサクとしていて、味はまるで塩味のポップコーンだったのだ。
実を焼いたのだ。皮のまま焼いたのだから蒸されていて、普通はホクホクになるのではないのか? なのに、サックサクなのだ。
「美味しい!」
「ほいほい、ちょうど食べ頃ですね」
みんな、サクサクと食べている。これは、コーラが欲しくなるぞぅ。
ピカやチロだけでなく、ちびっ子戦隊まてかぶりついている。
あれれ? プチゴーレム達は、食べないのではなかったか? 俺の魔力がご飯代わりだと話していたのだ。
「わふん」
「あらら、しょうなんら」
「アハハハ!」
レオ兄が笑っている。んん? もしかして……?
「れおにい、ぴかの話してる事が分かるの?」
「うん、そうなんだよ。最近分かるようになったんだ」
「しゅごい! やっぱていまーらから?」
「アハハハ、テイマーか。登録は僕がしているけど、実際にテイムしているのはみんなロロじゃない」
「れも、ていまーなのら」
「そう? アハハハ」
ピカがプチゴーレム達に、自分達も食べてみたいとせがまれたらしい。それで仕方なくお野菜をあげたら、食べるようになったのだとピカが言っていたのだ。
それからお野菜だけでなく、なんでも食べるらしい。
「わふぅ」
「えぇー」
「アハハハ!」
ピカさんが、困った子達だと言っている。良いと思うのだ。食べるくらい、全然良いのだ。
「わふ?」
「うん、いいのら」
だってほら、嬉しそうに短い尻尾をブンブン振りながら食べている。可愛いではないか。
「ピカ、沢山採ってきたから収納しておいてくれる?」
「わふん」
「うん、有難う」
本当に、レオ兄がピカと会話しているのだ。なんだか、感動なのだよ。
「れおにい、しゅごいのら!」
「アハハハ、言葉が分かるとピカの印象が少し変わるね」
ええー、そうなのか?
「ピカはハッキリと物を言うんだね。もっと温厚な性格だと思っていたよ」
「あー」
うん、それは分かるのだ。見た目から受ける印象とは違って、時々辛辣な事を言うピカさんなのだ。




