156ーび、び、びっくりなのら
「姉上、降りよう!」
「分かったわ!」
レオ兄が落ち着いている。なら、魔獣ではないのか? ピカさん? おや? まさか、まだ眠っているのか?
「ぴか」
「わふぅ」
眠いよ〜なんて呑気に言っている。ピカが警戒していないから、魔獣や獣ではないのだろう。これは一体何なのだ?
――ポップーン!
――ポップーン!
「レオ、この音何なの!?」
「分からない! でも、周りを探してみよう!」
「レオ君! リアちゃん!」
突然、ハンザさんが声を上げた。馬車の中からジッと様子を見ていたハンザさんが、何かに気付いたみたいなのだ。
「これはきっと、ポップントットですよ! 種を飛ばしているんです! 当たらないうちにこのエリアを通り過ぎましょう!」
ハンザさんが、そう叫びながら素早く御者台に移動した。びっくりなのだ。
お昼に馬車を降りた時は、ほいほいと両手を後ろにやりのんびり歩いていたハンザさん。それに、もうお爺ちゃんだ。
なのに、ヒョイと御者台に飛び移ったのだ。
「ハンザさん! 走らせて下さい! 僕達は追いかけます!」
「ほほい!」
ハンザさんが手綱を握る。お馬さんが力強く地面を蹴って走り出し、どんどん加速して行く。
ガタガタと音を立てて、幌馬車は走って行く。
その間もあの音はしている。種が飛んでいるらしいのだが、俺には見えないのだ。
――ポップーン!
――ポップーン!
――ポプポプポップーン!
ちょっとお間抜けな音なのだ。
ボーッと突っ立っていた俺は、当然馬車の中で転がった。それを小さな体で、ニコ兄が支えてくれる。
「ふぇッ!」
「ロロ! 捕まれ!」
「にこにい!」
「ロロ坊ちゃま! ニコ坊ちゃま!」
「ニコ! 捕まって!」
「おう!」
ユーリアが手を伸ばしてくれる。俺は必死でニコ兄にしがみ付いた。
ユーリアとエルザに引っ張られて、ニコ兄がマリーの腕の中へ。マリーがニコ兄ごと俺を抱き寄せてくれる。
び、び、びっくりだ! びっくりしたのだ! 心臓がバッコバコなのだ。
「わふッ」
「ぴか!」
ピカが後ろから飛び降りた。
レオ兄とリア姉が走って追いかけて来る。飛んでくる種らしき物を、レオ兄が狙いを定めて槍で打ち返している。
ジャンプしながら槍を振りかぶり、カキーンと森の中に打ち返しているのだ。ナイスバッティングだ。
リア姉も走りながら、剣でスパンと真っ二つに切っている。よくそんなことができるものだ。
ピカがその2人に合流した。そして、ピカが吠えた。
「わおぉーん!」
すると、ピカとレオ兄やリア姉の周りに風の膜ができた。そのまま走って来る。
よく見ると、森から野球ボール大の丸い物が飛んできている。あれが種なのか? 大きいぞぅ。
ピカが出した風の膜が、それを弾いているのだ。
「なんら!?」
「ロロ坊ちゃま、喋っていたら舌を噛みますよ!」
うぅッ、そうなのか? それほど馬車は揺れていたのだ。
ふと見ると、いつの間にかチロがエルザのお膝に乗っていたのだ。寝ていると思っていたのに、こんな時は行動が早いのだね。
「キュル」
そのチロが、ピョンと俺の頭に乗ってきた。
「キュルン」
また何かが抜けるような感覚がしたかと思ったら、チロが光りお馬さんとハンザさんが一瞬光に包まれた。
これはあれだ。きっとチロが何かをしてくれたのだ。あれれ? やっぱ俺の木の短剣がなくてもできるのだね。
「ちろ、ありがと」
「キュルン」
大丈夫、もし当たったとしても怪我にはならないと言っている。防御力を上げた感じなのらしい。
ハンザさんやお馬さんが、痛くなければ良いのだけど。
森の横を駆け抜け、やっと森から離れた場所でゆっくりと馬車は止まった。
「ほほぅ、ここまで来ればもう大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
「ハンザさんこそ、大丈夫ですか?」
マリーがギュッと、俺とニコ兄を抱きしめながらハンザさんに聞いている。
「なんともないですよ。馬を見てきますから、まだ外には出ないで下さい」
ハンザさんが、御者台からピョンと飛び降りた。本当、印象と違いすぎる。
とっても身軽で、動けるお爺ちゃんなのだ。いや、待てよ。まさかハンザさん、おっとりとしたお爺さんは世を忍ぶ仮の姿なのか!? まあ、そんなことよりも。
「まりー、りあねえとれおにいは?」
「大丈夫です。もう追いつきますよ」
マリーの腕の中から、モゾモゾと顔を出し馬車の後ろを見る。良かった、2人して走って来るのだ。
「びっくりしたな。ロロ、大丈夫か?」
「にこにい、らいじょぶら。ありがと」
「おう」
ニコ兄が支えてくれなかったら、俺はコロンコロンと転がっていたのだ。ふゅぅ、危なかった。
しかし、驚いた。あのポップーン! と、飛んできたのは種だとハンザさんが言っていた。種がどうして飛んでくるのだ? 危ないのだ。
リア姉とレオ兄が馬車に追いついた。
「みんな平気なの!?」
「怪我はないか!?」
「わふッ」
ピカがピョンと馬車に乗ってきた。そして、ツカツカとちびっ子戦隊の側へと行き、プチゴーレム達をお鼻で小突いたのだ。
あらら、気付かずに寝ていたらしい。
「わふわふ」
「キュウン……」
小さなプチゴーレム達が、より小さく見えるぞぅ。ピカの前に小さくなって整列している。
お帽子から出ているお耳を、コテンと倒している。あらら、反省しているのだ。
一緒に寝ていたフォーちゃん達まで、叱られていないのに小さくなっている。
「ロロ、あれピカに叱られてるよな」
「うん、ねてたから」
「アハハハ、あの騒ぎで起きなかったんだ」
「ばくしゅいなのら」
「アハハハ!」
「ふふふ、ピカに叱られてますね」
「可愛いー」
なんだか和むのだ。エルザが可愛いと言う気持ちも分かる。ちびっ子戦隊が整列して肩を落として叱られているのだ。
見ていてとっても可愛らしい。




