154ー野営場
「わふん」
「しょう? いい?」
「わふ」
ピカが、自分に凭れて寝るといいと言ってくれたのだ。だから、お言葉に甘える事にしたのだ。
「あらあら、ロロ坊ちゃま。眠るならもっとクッションを敷きましょうね」
「まりー、ありがと」
俺の体の下に、クッションを幾つも敷いてくれた。これでバッチリなのだ。
ピカにくっつきながら、体を丸めてネムネムなのだ。
「抱っこしてあげるのにぃ」
リア姉が何か言っているけど、俺はもう眠る体勢になっているのだ。
どれ位眠っただろう?
ピカに起こされて目が覚めた。
「わふ」
「しょう、お昼?」
馬車の外を見てみる。だだっ広い平原だったのだ。見渡す限り何もない。
遠くの方に小さな村があるらしい。簡単な防御壁のようなものが見える。
「ロロ、お昼休憩にしましょう」
「うん、ペコペコなのら」
お昼は『うまいルルンデ』のオスカーさんが持たせてくれたお弁当なのだ。
おかずは何かなぁ? 楽しみだ。
馬車が街道の脇にある、作られた空き地に入っていく。
そこには、馬の水飲み場が作られていて、簡素だけど雨を避けられそうな、屋根のある四阿が幾つか建っている。
その並びに、煉瓦をブロックの様に積み上げられた台が幾つかある。あの台は、簡単な調理ができるようになっているのかな?
旅慣れているというハンザさんが教えてくれた。
「ここは街道に作られた野営場なのですよ」
「やえい?」
「街と街の間に、最低一つは作られているのですよ。宿に泊まらない人達が、ここで夜を明かすのです」
なんですとッ!? お外で寝るのか? 危険ではないのか? 獣が出て来たらどうするのだ?
「獣や魔獣避けの魔道具が設置されているのです。だから安心なのですよ。私も若い頃はよく利用しました」
ほうほう、レオ兄が森で使っていた魔道具の凄いバージョンかな? それがあるなら大丈夫なのだ。
この街道を利用する人達の事を考えて作られているようだ。
「ロロ、降りるわよ」
「うん、りあねえ」
両手を出してリア姉に降ろしてもらう。
ふぅ〜、ガタゴトしないのはいいね。馬車って乗っているだけで疲れるのだ。
「ロロ、こっちだぞ」
「にこにい」
呼ばれた方へと歩いて行く。さっき見た簡素な四阿の下だ。
テーブルと椅子がある。そのテーブルにお弁当を広げる。
「これ絶対に、コッコちゃんの卵で作ったオムレツだぞ」
ニコ兄が狙っている。コッコちゃんの卵は美味しいから。
「コッコちゃんですか?」
ハンザさんが分かっていない。だって本当は、コッコちゃんてお名前じゃないから。
「フォリコッコの事です。フォリコッコの卵で作った、オムレツだと思いますよ」
レオ兄が説明したのだ。森で捕まえてきて飼っているのだと。
「それは凄い! あの『うまいルルンデ』で食べられるのですか?」
「はい。オスカーさんが裏で飼っているんです」
「それは是非食べに行かないと」
でも数量限定なのだ。それよりハンザさん。今、目の前にあるのだ。それを食べないでどうする。
「はんじゃしゃん、たべて。おいしいのら」
「ほほう、有難う」
ニコニコしながら、コッコちゃんのオムレツを一口食べたハンザさん。途端にお目々が丸く大きくなったのだ。どうだ? 美味しいだろう?
「こんな卵は食べた事がないです! コクがあって濃厚なのに、なんてまろやかなんでしょう!」
「な、コッコちゃんの卵は美味いんだ」
そう言いながら、ニコ兄もパクパク食べている。
オスカーさんが作ってくれたお弁当は、それだけではないのだ。
厚焼き卵サンドに、ハンバーグ、トマト味のパスタ、齧り付いたらパリッと音がするウインナー、それにちゃんとサラダも付いている。豪華なのだ。
「はいはい、温かいスープもどうぞ」
マリーがこの旅の為に、何日も前から色々作っていたスープなのだ。沢山作っていたけど、どれだけ作ってピカに預けているのだろう? 鍋ごと出てきたぞぅ。
「沢山ありますからね」
沢山あるらしい。そうだろう。だって張り切って作っていたのだ。
今朝なんて、作り過ぎたからと言ってセルマ婆さんにお裾分けしていた。しかも大きな鍋ごとなのだ。
「道中温かいものがあるというのは、嬉しいですね」
ハンザさんが美味しそうに、マリー特製の具沢山スープを食べている。
マリーは大雑把だけど、お料理は上手だ。
「ロロ坊ちゃま、冷たい蜂蜜ミントティーです」
「えるざ、ありがと」
蜂蜜ミントティー? 何故に? いつもなら果実水なのに。
「蜂蜜を入れてるから飲みやすいですよ。ミントティーは馬車に酔わないように、念の為です」
「へえ〜」
「まだまだ先は長いですから」
そうなのだ。今日はまだ夕方までずっと馬車なのだ。
お馬さんもお昼休憩だ。水場で水を飲み、草を貰ってモシャモシャと食べている。
おやおや? よく見るとお馬さんの額に小さな角があるのだ。小さいけど、コッコちゃん達よりもずっと立派な尖った角が一つある。
「れおにい、お馬しゃん、ちゅのがあるのら」
「そうだよ、魔獣なんだ」
なんですとッ!? 魔獣さんなのか? 危なくはないのか?
「大丈夫だよ。魔獣と言っても、人に育てられた魔馬なんだ。馬車を引く為に育てられているんだよ。力が強くて体力があるから、長距離でも楽勝なんだ」
ほうほう、魔獣を育てるのか。うちのコッコちゃんみたいなものか。




