150ーみんな一緒
俺は不思議に思って、ハンザさんが手に持っているギルドカードを見つめていたのだ。
「ほほい? どうしました?」
「はんじゃしゃん、ぼうけんしゃ?」
「ほぅッほぅッほぅッ、違いますよ。ああ、ギルドカードですか?」
「しょうなのら」
「私のギルドカードは、冒険者ギルドではなく商人ギルドなのですよ」
「ほぉ〜」
そんなのがあるのか? 初めて聞いたのだ。だからハンザさんに教えてもらったのだ。
商人なら、皆持っているらしい商人ギルドのギルドカード。
店を持つ持たないに関係なく、物を取引する人は商人ギルドに登録しないといけないそうだ。
「持っていない人は、モグリだから気をつけないといけません」
ほぉ〜。あれれ? でも、ニコ兄の育てた薬草を売ったりしているけど、商人ギルドのカードは誰も持っていないのだ。
もしかして、モグリになるのか? 俺達、悪い事をしてしまったのか!?
「ロロ、あれは私とレオが冒険者ギルドに納品しているのよ。だから商人ギルドのカードは必要ないの」
「ひょぉ〜」
良かった。ちょっぴり心臓がドッキドキしたのだ。
「ほほい、可愛らしいのぉ。孫が小さかった頃を思い出しますね」
ハンザさんのお孫さんはもう大きいらしい。嫁にいっていたり、店を任せていたりするのだそうなのだ。
「マリーの孫も、立派なお嬢さんだね」
「はいはい。助かってますよ」
リア姉は、家事が出来ない。元貴族の令嬢って事もあるのだけど、それ以前にリア姉は大雑把を通り越して不器用なのだ。
本人曰く、包丁と剣は違うらしい。
なので、早々にマリーの手伝いは諦めた。
マリー1人で、俺達兄弟と孫娘2人を世話するのは大変だ。エルザとユーリアがいつも手伝っている。
それでマリーは助かっているのだろう。
俺は手伝っても大して役には立てない。まだちびっ子だから。
「りあねえ、うしろにいきたい」
「ロロ、どうしたの?」
「おしょとを見るのら」
「景色を見たいの?」
「しょうら」
リア姉と一緒に馬車の1番後ろに移動する。どんどん防御壁が遠ざかって行く。
俺は防御壁の外に出たのは3度目だ。コッコちゃんを捕まえに森へ2回行った。
でもそれよりも前に出た時の事は、覚えてないのだ。
幌馬車の後ろから、外を見る。外の世界は広いのだ。ずっと遠くまで続いている平原。そこに通っている街道をガタゴトと進む。
少し離れたところに、樹々が鬱蒼と茂っているのが見える。あそこが森だ。
フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんの親コッコちゃんの故郷なのだ。気にしないらしく、よく眠っている。
その奥にはダンジョンがある。そこには魔物がいる。
いつも、リア姉とレオ兄はこんな場所まで来て、クエストを熟しているのだ。
「ロロ、珍しい?」
「うん、ひろい」
「そうね。ロロは、前に外へ出た時の事を覚えていないのね?」
「うん」
「まだ小さかったものね」
「りあねえ、まらとーしゃまと、かーしゃまが生きてたとき?」
「そうよ。あの頃はまだ家の馬車だったわ」
「しょっか……」
俺は覚えていない。でも、リア姉達はちゃんと覚えている。貴族だった頃を。そして、悲しい思いで両親のお墓を建てた時の事を。不安と悲しみにすっぽりと包まれた気持ちを、俺は想像できない。
リア姉達はそれを乗り越えて来たのだ。
今はこんな幌馬車で領地に向かう。どんな気持ちなのだろう。何を思っているのだろう?
「ディさんに言われたものね」
「でぃしゃん?」
「そうよ。焦ったら駄目だって言われちゃったわ」
ああ、ギルマスと一緒に会った時だ。
リア姉が、やるせないような……それでいて少しスッキリしたような、複雑な表情をしている。
リア姉は焦っていたのだろう。両親が亡くなって、突然やって来た叔父夫婦の事を調べたいのに調べられない。
納得できない事が、色々あるのだろう。
それでも、ディさんという信頼できる大人に話せた事で、少しは安堵できたのかも知れない。
でも、俺は……
「りあねえとれおにい、にこにい、まりー、えるざ、ゆーりあ。みんないっしょ」
「ロロ?」
「みんな元気れいっしょがいい」
「ロロ……そうね。そうだわ」
「うん」
今の俺の家族はみんななのだ。焦って無茶はしないで欲しい。
毎日冒険者として出掛けて行くのだって心配なのだ。怪我をしないか、万が一の事があったらと思うと、俺の小さなお胸がキュッと締め付けられてしまう。
だからニコ兄だって、薬草を育てている。俺はその薬草でポーションを作る。お守りのリボンを刺繍する。
誰かが怪我をしたり、いなくなったりは嫌なのだ。
「ロロ、大丈夫よ。必ず元気に帰って来るわ」
「うん」
リア姉が俺の気持ちを読んだかのようにそう言った。父に似ていると言う、ダークブルーの瞳で優しく微笑んだ。
こうしていると、クールビューティーなのに……残念な事に、手はずっと俺のお腹をフニフニと揉んでいる。何度言っても、やめられないらしい。
俺のお腹はクセになるみたいなのだ。
馬車の前にある御者台で、ニコ兄がレオ兄に馬の操り方を教わっている。
レオ兄とリア姉は馬にも乗れたはずだ。
いいなぁ、俺も教わりたい。前に行こうかな?
よいしょと立って前に移動しようとした。
「ロロ、じっとしていないと危ないわよ」
「え、らって見たい」
「ふふふ、ロロは何にでも興味津々なのね。きっと大きくなったら、何でもできるようになるわ」
そんな事はない。だって俺は2人みたいに冒険者になれる気がしない。剣も弓もきっと苦手だと思う。体を動かす事は苦手なような気がするのだ。




