149ー防御壁の外
馬車の中から外を見ると、いつの間にかドルフ爺とセルマ婆さんも出て来ていた。
ドルフ爺の足元にはクーちゃんとコッコちゃん達がいる。
「いってくるのら!」
「行ってきますー!」
「ドルフ爺、畑を頼んだぞ」
「おう。ニコ、任せろ! みんな行ってこい!」
「気を付けるのよ〜!」
「行ってらっしゃい!」
ドルフ爺、セルマ婆さん、ディさんが見送ってくれた。
ふふふ、なんだか嬉しいのだ。俺は、みんなが見えなくなるまで、馬車の後ろから手を振った。
こんなの初めてで、ちょっぴりワクワクするのだ。
「なんとも、賑やかだ。ほぅッほぅッほぅッ」
「すみません、みんな行くって言ってきかなくて」
「いやいや、乗せてもらっているのは私なのだから。レオ君、途中で代わりますよ」
「大丈夫ですよ、有難うございます」
ハンザさんも御者ができるらしい。とっても人の好さそうなお爺さんなのだ。
「本当は店の馬車で息子が行くはずだったのですよ。それが、もう古い馬車だから出た途端に車輪が壊れてしまって。それで馬車は壊れるし、息子は怪我をするしで」
あらら、大変だ。それで急遽一緒に行く事になったのだな。
「レオ君がCランクの冒険者だと聞いてね。それは心強いと思ったのですよ。行先が同じで良かったですよ」
「道中、護衛がいないと不安ですものね」
「ほいほい、そうなのですよ。でも、急に護衛依頼を出しても受けてくれる冒険者がいなくてね」
冒険者って、狩りをしたりダンジョンに潜ったりするだけじゃないのだな。商人の護衛もするのだ。
俺達は、リア姉とレオ兄がいるから平気なのだ。それに、ピカもいる。
「姉のリアもCランクなんで大丈夫ですよ」
「ほうほう、それは心強い」
いつの間にか、エルザやユーリアもしっかりお尻にクッションを敷いて座っている。
どうやら、この馬車にはクッションは必需品らしいのだ。
走り出して分かった。ガタゴトガタゴト揺れる。お尻に響くのだ。
俺の可愛いぷりっぷりのお尻がピンチなのだ。カッチカチになっちゃうぞぅ。
「ロロ、お膝にくる?」
「りあねえ、いい」
「まだまだ長いから痛くなるわよ」
「しょう?」
「そうよ、いらっしゃい」
「うん」
結局、リア姉のお膝の上だ。もれなく、ほっぺにスリスリとお腹をモミモミも付いてくる。これは必ず付いてくるのだ。
俺を可愛く思ってくれるのは有難いのだけど、ちびっ子でも俺は男だ。
リア姉は強いけど、それでも守りたいと思う。そんな男心を、そろそろ分かって欲しいのだ。
「慣れないと、お尻が痛くなるでしょうなぁ」
「ハンザさんはもう慣れっこですか?」
「マリー、私が何年商人をやっていると思っているんだい?」
「あらあら、そうでしたね」
一体、何年やっているのだろう?
「そうですね、もう50年ほどですか」
「ひょぉ~」
「ほほい、なんとも可愛らしい」
ハンザさんは隣領にある、お客さんのお店まで行くのだそうだ。
いつもなら、店の馬車で息子さんが行くそうなのだけど、馬車が壊れるし息子さんは怪我をするし。
でも、相手は待っている。それで、急遽ハンザさんが届けに行く事になったそうなのだ。
手が空いていて、客の事も分かっているのはハンザさんしかいなかったらしい。
「昔は西へ東へ、いろんな街や村に行ったもんです」
「はんじゃしゃん、なにうってるのら?」
「ほほい?」
「あらあら、何を売っているのかと聞いているのですよ」
「ほうほう、私は主に調味料や小麦を売っているのですよ」
調味料か……いいなぁ。見てみたいのだ。料理のレパートリーを増やせるかも知れないのだ。と、言っても作るのは俺じゃなくて、マリーなんだけど。
「店には他にも色々ありますよ。見に来てください」
「うん、いくのら。まりー、かえったら行くのら」
「はいはい」
「ほいほい」
ハンザさんは、『ほいほい』と微笑むと目を細める。好々爺といった感じだ。
チチチチと小鳥が鳴いている。馬車の後ろから青空が見える。
いつもは賑やかな雛3羽とプチゴーレム達は、意外にも大人しくみんな固まって眠っている。まさか、体力を温存しているのではないだろうな。ちょっぴり不気味だ。
ガタゴトガタゴト馬車は進む。暫くすると街を囲んでいる大きな防御壁に着いた。
ゆっくりと馬車は止まり、レオ兄が守衛さんにギルドカードを見せている。
ここを通る時は、いつも見せないといけないのだ。
「りあねえ、ボクはろうしゅるのら?」
「私とレオが一緒だから大丈夫よ」
「ほぉ〜」
「森に行った時もそうだったでしょう?」
「しょうらっけ?」
「ふふふ、そうよ」
良かった。俺はまだギルドに登録できないのだ。
マリー達はお役所で発行してもらう身分証明をもっているのだ。
10歳以下のちびっ子は保護者が持って入れば大丈夫なのらしい。
見ていると、レオ兄と守衛さんは顔見知りみたいだ。和かに話をしている。
レオはもうCランクに上がったらしいな、おめでとう! なんて話している。
「毎日クエストで防御壁の外に出ているからよ。もう顔見知りなの」
「ひょぉ〜」
なんかカッコいいぞ~。
守衛さんが馬車の中を確認する時に、レオ兄が声を掛けた。
「ハンザさん、姉上、ギルドカードを見せて。マリー達も身分証明を見せて」
え? ハンザさんもギルドカードを持っているのか? まさか冒険者なのか?
そうは見えないけど、もしかしてイケイケなのか? つよつよなのか!?
守衛さんが確認して、お気をつけて〜と言って送り出してくれる。




