147ーよろしくお願い
チロは起きてこない。まだ赤ちゃんだから、眠いのだろう。チロのご飯も持って行こう。
「まりー、ちろのごはん」
「あらあら、まだ寝てますね。少しお肉持って行きますか?」
「うん、たべてないから」
「はいはい、分かりましたよ」
腐り難くなる葉っぱにウインナーと薄切り肉を包んでくれる。
「マリーが持っていますね」
「うん」
チロは回復魔法が前より使えるようになって、少し体が大きくなった。
それ以来、よく寝るのだ。今までもよく寝ていたけど、それ以上によく寝るようになった。
俺はいつもの、お出掛け用のポシェットを肩から掛けてレオ兄を待つ。今日は念の為、ポーションを2個入れておこう。まあ、ピカが沢山持っているんだけど。回復魔法も使えるのだけど。念のためだよ。
お外に出ていようかなぁ?
リア姉のお尻を守るのだ計画で作ったクッションを両手で抱える。
コッコちゃんの柔らかい部分の羽根で作ったから、フワフワなのだ。
「ロロ、俺も行く」
「うん」
ニコ兄が一緒にお外に出る。いつも日向ぼっこをしている軒下に座って、レオ兄を待つのだ。
「ふわぁ〜……」
「わふぅ〜……」
ピカと一緒に欠伸が出てしまった。
「まだ眠いな」
「うん」
「馬車は揺れるから、クッションいっぱい持っていこう」
ほう、俺は馬車に乗るのは初めてだぞ。
「何度も馬車には乗ってるぞ。ロロが覚えてないだけだ」
「しょう?」
「そうだぞ。まだ赤ちゃんだったからな」
ニコ兄と俺の前に親コッコちゃん達が整列した。どうしたのだ?
「コッコッコ」
「クックック」
あの子達を頼みます。面倒を掛けて申し訳ない。と言って来たのだ。首をヒョコッと下げている。あらら、気にしていたのかな?
「ロロ、もしかしてフォーちゃんリーちゃんコーちゃんの事を頼んでるのか?」
「しょうなのら、お願いって」
ニコ兄、よく分かるのだ。もうニコ兄もコッコちゃんマスターなのだね。
そりゃ、テイマースキルが無くても、毎日一緒にいたらなんとなく分かる様になるのだろう。
ペットのワンちゃんやネコちゃんが、何を訴えているのか分かるのと同じなのだ。
「だって、なんだか申し訳なさそうだろう?」
なるほど、確かに。そんなの気にしなくていいのだ。
「こっこちゃん、らいじょぶらよ。みんな元気にもどってくるから、まっててね」
「コッコー」
「クック―」
親心なのだ。健気だね。戻ってきたら、レオ兄と一緒に卵を温めて、あの子達のリーダーを育てよう。
そうしたら、少しは安心するかも知れないのだ。
「わたしも待ってるわぁ~」
クーちゃんなのだ。マイペースなクーちゃん。てっきり一緒に行くと言い出すかと思ったのだけど。
「お利口にして待ってるわよーぅ」
「ん、しょうして」
お利口も何も、クーちゃんは1日殆ど眠っているから心配ないのだ。
ピカに凭れながら、レオ兄を待つ。
遠くからパカパカと馬の蹄の音が聞こえてきた。どんどん近くなってくる。
「きっとレオ兄だ」
ニコ兄が言った通り、直ぐに馬車を操っているのがレオ兄で隣にエルザが乗っていると分かるようになる。
その小さな幌馬車が家の前に停まった。
「なんだ、2人共外で待っていたのか?」
「レオ兄を待ってたんだ」
「ひょぉ~! ばしゃ!」
小さな馬車だけど、小綺麗で荷台の方には白い幌が掛けてある。人が乗る用なのだろう。
「アハハハ、ロロはこんな馬車に乗るのは初めてだね」
「おはよー!」
「でぃしゃん!」
ディさんが幌馬車の荷台の部分からヒョッコリと顔を出した。
もうしばらく会えないと思っていたのだ。
「見送りに来ようと思っていたら、街でレオを見掛けたんだ。それで、乗せてもらったんだよ」
「でぃしゃん!」
「ロロー! しばらく会えないのは寂しいよー!」
と、抱きつかれた。そのまま抱っこだ。お決まりなのだ。
でも、今日は俺も思わずディさんの首に抱きついた。ディさんは毎日ずっと一緒にいたから、もうマブダチの気分なのだ。
「ちゃんとかえってくるのら」
「うん、セルマ婆さんと一緒に待ってるよ」
「こっこちゃんとくーちゃんもたのむのら。くりーんもしてほしいのら」
「任せて! ドルフ爺がいるから大丈夫だ」
なんだよ、ドルフ爺頼みなのか? でも、ドルフ爺は時々卵を回収し忘れるからな。それが要注意なのだ。
「分かってるよ。卵だね」
「しょうなのら。どるふじい、わしゅれるから」
「アハハハ、ちゃんと見ているよ」
出発前にディさんに会えて良かったのだ。ちょっぴり泣きそうになっちゃったのだ。
「ロロ、ちょっと秘密のお話をしよう」
なんだ? 秘密だって。
ディさんが俺を抱っこしながら、小さな声で話す。
「もしも、僕の助けが必要になったら、アミュレットを握りながら思うんだ。ディさん、助けてって」
「たしゅけて」
「そうだよ、僕を呼ぶんだ」
「うん、分かったのら」
そうか、このアミュレットにはまだ何か付与されているのだな。
ディさんも心配性なのだ。でも、気持ちが嬉しい。
「でぃしゃん、ありがと」
「うん、覚えていてね」
「うん」
俺はディさんの首にまた抱きつく。
あ、いかん。ニコ兄が、家の中に荷物を取りに入って行く。俺も何か手伝わなきゃ。




