146ー出発の日
「ロロ、おはよう」
「ん……レオ兄、おはよー」
「よく眠れたかな? 体調はどう?」
「ん……元気なのら」
「よし、じゃあ起きよう」
レオ兄に、いつも通り起こされた。今日は両親のお墓参りに出発なのだ。
両親が治めていた領地はこのルルンデの街がある領地のお隣だ。王都とは反対側のお隣だ。
その向こうの領地はもうこの国の端っこ、広大な領地を誇る辺境伯領だ。そのまた向こうはお隣の国になる。
両親が治めていた領地、レーヴェント領。ルルンデの街があるフォーゲル領同様、王都に向かう人達の中継地点になっていて、結構賑わっている。
そんな立地もあり、他の領地よりも宿屋が多い。
そこの墓地に両親の墓がある。マリーの息子夫婦の墓もだ。
俺がまだちびっ子な事もあり、ゆっくりと向かう。いつも通りの時間に起きて、無理しないで早めに途中の宿屋に泊まる。
そして、翌日にレーヴェント領へ入る予定なのだ。
俺はレオ兄に起こされて、まだ寝惚け眼のまま抱っこされ下へ降りて行く。みんな揃っていたのだ。
「ロロ、おはよう」
「にこにい、おはよー」
「あー、ロロはまだ目が開いてないぞ」
だって、まだ眠いのだ。
俺はいつもの、ニコ兄とレオ兄の間にある俺専用の椅子に座らせてもらう。
ちびっ子用の、座面が高くなっている椅子だ。
「さあさあ、早く食べてしまいましょうね」
マリーが朝食を並べていく。
今朝はコッコちゃんの卵のスクランブルエッグだ。ウインナーも忘れない。ニコ兄が育てた新鮮なお野菜もある。
「いたらき」
「ロロ、目を開けてるか?」
「うん、にこにい。おきた」
「よし、しっかり食べるんだぞ」
「うん」
ニコ兄はいつも俺の世話を焼いてくれる。ちびっ子仲間なのに。
「レオ、馬車借りてくるんでしょう?」
「食べたら借りに行ってくるよ」
「ばしゃ」
「ロロ、そんな豪華な馬車じゃないよ。人数が多いから幌馬車だしね」
「おぉー」
そうなんだ。俺達兄弟4人だけじゃなく、マリー達も一緒だ。だから、7人だ。
もちろん、ピカとチロも一緒だ。その上、フォーちゃん達3羽の雛と、5体のプチゴーレム達も行くらしい。朝からピヨピヨキャンキャンと張り切っている。元気だね。
「ロロ、眠かったら馬車で寝ていてもいいからね」
「うん」
そう言って、レオ兄はさっさと食べて出掛ける準備をしている。
「レオ様、あたしも一緒に行きますよ。帰りに『うまいルルンデ』に寄ってほしいです」
「そうだったね、お弁当だ」
「はい」
「じゃあ、マリー。行ってくるよ」
「おばあちゃん、行ってきます」
「はいはい、気をつけて」
バタバタと2人で出掛けて行った。『うまいルルンデ』のオスカーさんが持って行けと言って、お昼のお弁当を作ってくれている。きっとコッコちゃんの卵料理もあると思うのだ。
俺はまだまだ食べるよ。モグモグと食べる。
「ロロ、今日は早く食べないと駄目だぞ」
「にこにい、わかったのら」
よし、大急ぎで食べよう。お口いっぱいに頬張る。モグモグモグモグ。
「やだ、ロロ。可愛い。ふふふ」
俺が急いでモグモグしているのを見て、リア姉が半分笑いながら言った。
笑い事じゃない。早く食べるのは大変なのだ。お口いっぱいに入れて、ほっぺを膨らませてモグモグするから、タコさんのお口みたいになってしまっている。
「あらあら、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」
マリーが俺に果実水を出してくれた。コクコクコクと飲む。
ふぅ……お喉が詰まってしまった。
みんなで行くお墓参り。初めてなのだ。片道、丸1日掛かるからそう気軽には行けない。俺がいるからゆっくり行くのだそうだ。余計に時間が掛かる。
両親の葬儀以来初めてなのだ。1年経ってやっとだ。
葬儀の事を、俺は殆ど覚えていない。レオ兄に抱っこされて、泣いていた記憶しかない。
「マリー、花摘んでくる」
もう食べ終わったニコ兄が、外に出て行った。ニコ兄は少し前から突然花を植えだしたのだ。
俺は気にも掛けなかったのだが。そっか、この時の為に花を植えていたのかな?
「それだけじゃありませんよ。お花があれば綺麗ですから。虫除けになる花も植えているそうですよ」
「ほぉー、なるほろ〜」
ニコ兄は、花を育てるのも上手だった。
貴族の庭で育てている様な、豪華な薔薇とかではないけど。
ピンクのアネモネと、白い小さな花のスノードロップ、黄色のフリージア、それに淡いブルーのネモフィラだ。
虫除けとして家の周りに、ラベンダーも植えてある。これは、前世でも超メジャーなハーブだ。香りもとっても良い。
「ロロがよく軒下で日向ぼっこするだろう? 匂いも良いし、虫避けにもラベンダーは良いんだって。ドルフ爺に苗を分けてもらったんだ」
俺の為なのか? ニコ兄、有難う。なんて優しいのだ。
ニコ兄が採ってきた花を、マリーが可愛らしくリボンで結んで花束にしてくれる。全部で六つの花束だ。俺達両親とマリーの息子夫婦、それと俺達の祖父母の分なのだ。
「にこにい、きれーら」
「な、いい感じだよな」
「奥様がお好きそうですね」
「だよな」
「枯れないように、ピカに収納してもらっておきましょうね」
母さまが好きそうなのか? 俺はそんな事も分からない。ちょっとだけ寂しいのだ。
「ロロ、食べたか?」
「うん」
「出掛ける準備しようぜ」
「うん」
「わふわふ」
「ぴかもらよ」
「わふん」
ピカはまだ呑気に食べている。




