145ー最年少
「お着替えも持って行きましょうね」
マリーが張り切っているのだ。俺は気付いていなかったけど、マリー達にとって今回のお墓参りはきっと念願だったのだろう。
マリーの息子夫婦で、エルザとユーリアにとっては両親のお墓参りなのだから。
俺も両親のお墓参りなのだけど、何しろ覚えていない。だから、実感が湧かないのだ。
それよりも、初めての遠出だから楽しみな気持ちの方が大きい。
「もうしゅこしら。がんばった」
「本当ですね」
今日中に作って、明日は一日ゆっくりしようと頑張っている。
そんな感じで、リア姉達が帰って来るまでずっと刺繍をしていたのだ。
そのお陰でなんとか出来上がった。リア姉とレオ兄、それにディさんのおリボンだ。
リア姉のおリボンを、少し薄手のふんわりした物にしたから、1番難しかった。薄い生地は難しいのだ。
「ただいまー! ロロー! 合格したわよー!」
元気にリア姉が帰って来た。
「やったのら!」
「ふふふ! 凄いでしょう! 今日からCランクよ!」
「しゅごいのら! れおにいも!?」
「うん、合格したよ」
「しゅごいッ! しゅごいのら!」
俺は嬉しくて、思わずレオ兄の足に抱きついた。テンション爆上がりなのだ。
「アハハハ! 有難う!」
ヒョイッと抱き上げてくれた。レオ兄も今日からCランクだ。
たった1年でCランクだ。それは凄いと俺は思うのだよ。
「最年少のCランク冒険者の誕生だよ」
「でぃしゃん!」
それは益々凄いのだ。最年少なのか。そうだよな。だって、リア姉は17歳、レオ兄はまだ15歳なのだ。
「お祝いしなきゃね」
「しょうら、おリボンがれきたのら」
「ロロ、僕のも!?」
「もちろん、れきたのら」
俺は、ソファーの方へ行って3人のおリボンを手に取る。
「これは、りあねえ」
「ロロ、ありがとう!」
「れおにいは、これ」
「ロロ、ありがとう。大事にするよ」
「でぃしゃんも、はい」
「ロロー! 凄いや! 宝物にするよ!」
ディさんは大げさだ。俺程度の付与魔法なんて、きっとエルフ族なら余裕で使えるはずなのだ。
それでもこんなに喜んでくれると、作った俺としてはとっても嬉しい。
「ロロ、また凄い物を作っちゃったね」
おふッ、俺に耳打ちしてきたのは、ディさんだ。
「え……」
「これ、物理だけじゃなくて魔法に対しても防御力アップになってるよ」
「らって、いたいいたいは、らめらから」
「そう思って作ったんだ」
「しょうなのら」
物理でも魔法でも、怪我は駄目。怪我してほしくないのだ。
「危機感知も付与されているよ?」
「ききかんち?」
「そう。危ないなぁ、て分かるんだ」
「しょれは、さいしょからなのら」
そうなのだよ。なんとな〜く、嫌な感じだと分かるのだ。
「なんとなくどころじゃないよ。確実に分かる。例えばダンジョンだったらね、このリボンをしていると、罠に気付かないなんて事はないだろうね」
「うん、よかったのら」
「アハハハ、そっか」
「うん、いいのら」
「大事にするよ。有難う」
「えへへ」
ディさんが、そっと頭を撫でてくれた。
何だか色々あるみたいだけど、構わない。無事に帰って来て欲しいから、そんなの気にしないのだ。
次の日は、みんな其々旅の準備をしたりしていた。
俺は、ミッションコンプリートしたので少し放心状態だ。やり切ったのだ。
庭先でコッコちゃんとピカに囲まれて、ボケーッと日向ぼっこなのだ。そこに、日向ぼっこ友達のセルマ婆さんがやって来たのだ。
「ロロちゃん、日向ぼっこ?」
「しょうなのら」
「明日出発なのね」
「しょうら」
「心配だわぁ」
「みんな一緒らから、らいじょぶら。こっこちゃんとくーちゃんを、おねがいしゅるのら」
「ええ、それは大丈夫よ。任せて」
そんな話をしながら、二人でウトウト……平和なのだ。
「ロロー! 何してんのー!」
ああ、ウトウトしていたのに目が覚めちゃった。今日も元気で綺麗なディさんの登場なのだ。
手を振りながら小走りでやってくる。ピッカピカの髪を靡かせながら。
「相変わらず綺麗ねー」
ほら、セルマ婆さんも綺麗だと言っている。エルフの眉目秀麗さは特別なのだ。
明日から、しばらくディさんと会えないなぁ。ちょっぴり寂しい。ん? おやぁ?
「でぃしゃん、髪」
「えへへ、結んでみたんだ。折角ロロにおリボンを作って貰ったからね」
髪の片側を三つ編みにして、肩の辺りで俺が刺繍したおリボンで結んでいる。とってもお似合いなのだ。
ちょっとシックな濃い緑にして正解だったのだ。ディさんのエメラルドグリーンに光って見えるブロンドの髪に、とっても映える。
「とっても、おにあいなのら」
「えへへ~、ありがとう」
ヒョイと俺の隣に座る。ディさんも一緒に日向ぼっこなのだ。
「セルマお婆さん、ロロ達がいなくても僕は来るからよろしくね」
「まあ、歓迎しますよ」
「そう? ありがとう」
きっと来るだけじゃなくて、夕ご飯にもお邪魔するつもりなのだと思うぞぅ。特盛サラダを作ってさ。
その日の夕食の時だ。ディさんからリア姉、レオ兄、ニコ兄にプレゼントがあったのだ。
「前にロロにあげたアミュレットと一緒なんだ。みんなお守りだと思って、着けてくれると嬉しいな」
「でぃしゃん、おしょろい?」
「そうだよ。兄弟みんなお揃いだ。気をつけて行って来るんだよ。無事に帰って来るのを待っているからね」
小さな緑の魔石が付いたアミュレット。居場所が分かって、シールドと防御、自動回復まで付与してある。
ディさんの、付与魔法は凄いのだ。今の俺には作れない。
何より、気持ちが嬉しいのだ。




