140ー鑑定眼(レオ視点)
「姉上、明日はランクアップの試験ですね」
「ね、もう憂鬱だわ。ギルマスに勝てる訳ないじゃない」
「勝たないといけない訳じゃないみたいだけど」
「なんでよ。やるからには勝ちたいじゃない」
明日のランクアップの試験だ。姉上は負けず嫌いだから、勝ちたいのだろう。
僕はランクアップできれば、何でもいいんだけど。
そんな話をしながら、ギルドに向かっていた。
僕と姉上は、今日も森で魔獣討伐をしていたんだ。次の『うまいルルンデ』のお休みには、オスカーさんと奥さんのメアリーさんが討伐をしてくれる予定だ。
でも、それまで放っておくわけにはいかない。
他の冒険者達は、どうしても効率を重視してダンジョン攻略を優先する。その方が身軽で帰れるからだ。
ダンジョンで魔物を討伐したら魔石に変わる。その魔石を持って帰れば良いだけだ。極稀に、魔物がドロップ品を落とす。
それだって、そう大して嵩張らない。
でも、魔獣討伐は違う。倒した魔獣を持って帰らないといけない。
何故なら、食べられない魔獣だったとしても、角や皮が使えたりするので素材として売れるからだ。
当然、大きな魔獣を倒すとそれだけ価値がある。が、帰りはその大きな魔獣を持って、ギルドまで帰らなければならない。
倒した魔獣を回収してくれる回収屋もいるのだが、お金もかかるし面倒なのだろう。どうしても、皆ダンジョンへと向かう。
僕達はピカがいるから気にしない。
今日もピカが一緒だ。ピカは風属性魔法を操る。その上、なんでも収納してくれる。索敵までするんだ。ピカは本当に強くて賢い。
前にディさんがピカを精霊眼で見た時に話していた事を思い出した。
「ピカは主神の神獣だ。普通のワンちゃんじゃないよ、フェンリルだ」
フェンリルなんて、伝説じゃないか。しかも、いつの間にかロロのそばにいた。
それを思い出して、思わずピカをジッと見てしまう。
「わふ?」
「ううん、なんでもないよ。ピカ、ありがとうね」
「わふ」
「ピカはロロだけじゃなくて、僕達みんなを守ってくれているんだね」
「わふん」
「有難う」
ピカがいなかったら、僕達はこうして平和に暮らせていたかどうか分からない。ピカのお陰なんだ。
「レオ、何よ」
「え? 姉上、何だよ?」
「何でロロみたいにピカと話してんのよ」
「え……」
あ……そう言えばそうだ。どうして、僕はピカが何を言っているのか分かるのだろう?
「姉上は分からない?」
「分かる訳ないじゃない。『わふん』とか『わふわふ』としか聞こえないわよ」
マジか……あれかな? きっと鑑定眼だよな? テイマーも関係あるのかな?
実際に僕がテイムしている子達はいないと思うんだけど、コッコちゃんの事があってテイマーのスキルが生えたらしい。
「わふ」
「やっぱりそうなんだ。凄いね。ロロはこんな感じなんだ。へえー」
「わふん」
「アハハハ、ありがとう」
レオとも話せて嬉しいと、ピカが言ってくれた。僕も直接話せて嬉しいよ。
そうか、こんな感じなんだ。と、一人で納得していた。
「もう、嫌な感じだわ」
「ごめんって。テイマーと鑑定眼の効果だそうだよ」
「そうなの? ねえ、ピカ。私は鑑定眼とか無理なの?」
「わふぅ」
「アハハハ!」
「何よ!? ピカは何て言ったの?」
「魔法操作がまるでなってないって。今から勉強しても無理かな? て、言ってるよ」
「ひどーいッ!」
「アハハハ!」
ああ、可笑しい。ピカも言うんだね。
「わふわふ」
「うん、そうだね」
「なあにぃ~? ほんっと感じ悪いわよ」
「ごめん、ごめん。でも、ピカが……アハハハ!」
「ピカ、何て言ってたのよ?」
「姉上だって魔力量は多いのに、サボって魔力操作の練習をしないから宝の持ち腐れだって」
「ひっどーいぃッ!」
「アハハハ!」
でも姉上の性格だと、目に見えて成長が分からない魔力操作なんて、苦手なのだろう。それはよく理解できる。でもなぁ……。
「でも、姉上。もう少し魔力操作を練習しなきゃ駄目だよ。もっと強くなれるから」
「そう? 強くなれるの?」
「うん、そうだよ。身体強化ができるようになるんだ。今は僕が姉上に補助魔法で付与しているけど、僕がいなくても自分でできるようになるよ」
「え? レオってそんな事もしていたの?」
マジかよ。そんな事も分かっていなかったのか。姉上は本当に、魔法の勉強をしなきゃ駄目だ。
そんな話をしながらギルドに戻り、魔獣を解体場に出して受取りは明日にすると言付けて家へと帰る。ロロは何をしているかなぁ。
ある日突然、オレンジ色した雛が孵っていた。それにプチゴーレムだ。
本当に、ロロから目を離せない。
姉上と二人で、少し急ぎ足で家に戻った。
「ただいまー! ロロー! 帰ったわよー!」
「ただいま」
……て、えッ!? どうして居るんだ? いや、居たら駄目な訳じゃないんだけど。
ロロと一緒にソファーに座って、仲良くお茶を飲んでいる。いつの間にそんな感じになったんだ?
「クラウス様、どうしたんですか?」
「レオ、リア、お帰り。お邪魔しているよ。久しぶりだね」
いやいや、そうじゃなくて。
「あしょびにきたのら」
「ロロ、そうなの?」
「しょうなのら。ごはんたべてくって。あ、しょれれ、ピカ。ププーの実もってる?」
「わふ」
「だしてほしいのら。でぃしゃんがちゅかうのら」
「そうなんだよ。僕特製のサラダのトッピングにしようと思ってさ」
どうなっているんだ? ディさんまでいつもの様に、エプロンを着けてサラダを作っている。
いいのか? だって、クラウス様だよ? いいのか? 僕は思わずマリーを見た。
マリーが頷いてニッコリとした。そうか、いいんだ。ロロがいいなら僕は何も言わない。




