138ーお客さま
「まあ、いいや。そういう事にしておいてあげよう」
ディさんにジトッて見られた。やばい。マズイのだ。
今度、女神に呼び出されたら聞いてみよう。
俺はさっさと家に入った。おリボンの刺繍に取り掛かるのだ。
「ロロが相手してくれないと、寂しいなぁ〜」
ディさん……大人なのだから。
「だってー、毎日ロロと遊んでいたんだもん」
『だもん』じゃないのだ。俺には、お墓参りへ出発するまでに、やらなければならない事があるのだ。
「ちぇーッ、ニコに相手してもらってこようっと」
そう言ってディさんは、麦わら帽子を被り直す。
テッテケテーッと、畑に走って行ったのだ。キラッキラの髪を靡かせて。
「ふふふふ、楽しい方ですね」
「ちびっこみたいなのら」
「ロロ坊ちゃまの方が、ちびっ子ですのに」
「しょうらった」
ふふふ、ディさんは楽しいのだ。場が明るくなる。
それから俺は、おリボンに集中していたのだ。すると、マリーに呼ばれた。
「ロロ坊ちゃま、チラチラと見ておられますよ」
「え? だれ?」
「ほら、玄関に」
マリーにそう言われて見てみると、お久しぶりっこのクラウスさんだったのだ。
入口からお顔を半分出したり引っ込めたりして、こっちを見ている。挙動不審だ。
どうしたのだ? 何をしているのだろう。
「くらうしゅしゃん?」
「あ……ロロ。その……久しぶりだな」
「うん、こんちは〜。ろうしたのら?」
「いや……その……元気にしているか?」
「うん、げんきなのら」
「そうか」
ん? 何なのだ? 何か用事があるのではないのか? 何をモジモジしているのだ?
「いや……その……私が来たら駄目だと思ったのだけど」
ん? どうして駄目なのだ?
「ロロ坊ちゃま、あの事件があったから遠慮されているのではないですか?」
ああ、なるほど。でも、クラウス様は悪くないのだ。
「くらうしゅしゃま、はいって」
「い、いいのか?」
「うん、いいのら。まりー、きゅうけいしゅるのら」
「じゃあ、お茶を入れましょうね。クッキーも食べますか?」
「うん。じゅーしゅがいいのら」
「はいはい、分かりましたよ。クラウス様、どうぞ座ってください」
「あ、ありがとう」
クラウス様が遠慮気味にソファーに座った。お尻の半分だけソファーに乗せている。落ち着かないらしい。
俺と目を合わせようとしない。俺はもう気にしていないのに。
「くらうしゅしゃま、がくえんはおやしゅみ?」
「いや、今日は父上と森の調査をしていたんだ。魔獣が増えていると、ギルマスから報告を受けたから」
「しょうなのら、りあねえもいっぱいたおしたのら」
「そうらしいな。アウレリア嬢は強いと聞いているよ」
「あした、しけんなのら」
「しけん?」
「しょうなのら、らんくあっぷ」
「ああ、Cランクになる為のだね」
「しょうしょう」
俺は申し訳ないけど、手は止めないよ。マリーがジュースを持って来てくれるまで、頑張るのだ。
その俺の手元を見て、クラウス様が言った。
「ロロはまだちびっ子なのに上手だな」
「しょう? まらまらなのら」
「そんな事はない……」
話が続かない。空気が重いのだ。
「あらあら、ロロ坊ちゃま。少しだけお片付けしましょうね」
「うん」
マリーがジュースとクッキーを持ってきてくれた。こんな時、見逃さないのがチロだ。
「キュル」
「ちろもたべる?」
「キャルン」
はいはい、クッキーをあげよう。
「まりー、ちろにもじゅーしゅをあげてほしいのら」
「はいはい。あら、起きたんですね」
そうなのだ。さっきまで寝ていたのに、オヤツになると起きるのだ。
「ロロ……」
「ん?」
「それは……蛇だよ?」
「しょうなのら。ちろ」
クラウス様の目が見開いているぞ。チロを見るのは初めてだったか? いや、前にクラウス様と領主様が来た時にもいたのだ。
「あの時はもう、いっぱいいっぱいで……」
おやおや、そうだったのか? 落ち着いているように見えていたのだけど。
「なんだか、増えたな」
「うん、かめしゃんとか」
「ああ、表で眠っていたあの大きな亀だね」
「しょう。しょれにひなも」
「ああ、小さいのがいたね」
「しょれから」
「え? まだ増えたのか?」
「しょうなのら。ぷちごーれむも」
「ゴ、ゴーレムなのか?」
「しょうなのら、いちゅちゅ」
俺は小さな手を広げて『五つ』と出した。
「いちゅ……ああ、五つか?」
「しょう。ボクがちゅくったのら」
「ブブッ! ゲホッ! ゴホッ!」
ああ、どうした? お茶が熱かったのか? クラウス様がむせたのだ。
おや? お目々が零れ落ちそうなくらい大きな目をしているぞ。
「あらあら、大丈夫ですか?」
「マリー、僕は聞き間違いをしたのかな? ロロはゴーレムが5体増えたと言ったと思ったんだが? しかも、ロロが作ったと」
「その通りですよ。ロロ坊ちゃまが作ったプチゴーレムです」
「……!?」
ああ、またフリーズしている。だけど、これだけは言っておかないといけないのだ。
「くらうしゅしゃま、ひみちゅ」
短い人差し指をプニッと唇に当てた。
「お、おう。そうだな。秘密だな」
「しょうなのら」
ディさんに、秘密にしなきゃと言われたからね。言っておかないと。
「ロロ坊ちゃま、話してしまったら秘密になりませんよ」
「あ……まりー、しょう?」
「そうです」
「けろ、ひみちゅっていったのら」
「それでも、秘密にはなっていませんね」
「え……」
お読みいただき有難うございます!
ロロの『ひみちゅ』が秘密になっていなかったり^^;
応援して下さる方は、是非とも評価やブクマをして頂けると嬉しいです!
皆様の応援が、色んな事に繋がります!
宜しくお願いします!




