132ー嬉しいのだ
「なんだって? ロロも回復したのか?」
「ロロ、回復って?」
「れおにい、ちちんぷいぷいなのら」
「アハハハ!」
またディさんが爆笑している。自分の太股を叩きながら笑っている。そんなに、可笑しいか? 超メジャーな言葉なのだ。
笑いながら、ディさんが説明をしてくれた。ディさんが状態異常を回復させて、俺は魔力の枯渇を回復させたのだと。
忘れてはいけない。チロも、頑張ったのだ。
「お前達兄弟はとんでもねーな」
ギルマスが呆れている。俺は、いい事だと思うのだ。
ギルマスは驚きながらも、手はちゃんとクーちゃんの登録を進めている。できる大人なのだ。
「その上、聖獣ってなんだよ」
「ロロ、クーちゃんは霊獣じゃなかったの?」
「りあねえ、しんかしたのら」
「ロロが名付けたからかな?」
「しょうなのら」
ん? どうして、みんな黙っているのだ? 進化は良い事ではないか。退化しちゃうよりいいだろう?
「もう、俺は驚かねーぞ」
あ、スルーされた。決して驚いて欲しい訳ではない。あれは俺も不可抗力だったのだ。
「で、レオ。どうする?」
「ギルマス、どうするって何を?」
「その聖獣の亀だよ。亀専用の物ってないんだ。チロみたいに尻尾につけるか、ピカみたいに首輪にするかだ」
「そうだなぁ……ロロ、どうする?」
「くーちゃん、首をこうらに、ひっこめちゃうのら」
「そうなの?」
「うん、しっぽも」
亀のクーちゃんは、擬態をするのだ。その時に頭や尻尾だけじゃなく、手足も甲羅の中に入れてしまう。そうして、岩に擬態をするのだ。
「そっか、どうしよう?」
「首輪でいいんじゃない? もうそうそう擬態する事もないだろうし」
「でぃしゃん、しょう?」
「そうだよ。だってロロ達のお家にいるんだから、魔獣に狙われる事もないだろう?」
「しょっか」
「じゃあ、ギルマス。首輪でいいよ」
「おう」
ギルマスがレオ兄のギルドカードと書類、そして細長いプレートを魔道具らしき物の上に置いて何か操作した。
すると板からふんわりと光が出て、それが収まるといつの間にか細長いプレートが首輪に付いていた。ピカやチロの時と一緒なのだ。
「これをその亀につけるんだ。ピカとチロの時と同じように大きさは自動で調節されるからな」
「分かった」
ふゅぅ~、これで一安心なのだ。亀のクーちゃんも、俺達の従魔だと証明になるのだ。
クーちゃんは大きいから、目立つ。だからまたピカの時みたいに、誰かに狙われたりしないかと心配だったのだ。
ディさんが、俺の頭を優しく撫でて言ったのだ。
「ロロ、大丈夫だ。もう、あんな事はないよ」
「でぃしゃん、しょう?」
「ああ、そうだ。クーちゃんは目立つから余計だよ。なにより、重いだろう? そう簡単には攫ったりできないよ」
「しょっか」
なら、安心なのだ。なにしろ、クーちゃんは『擬態』と『硬化』しかできないのだ。自分で攻撃する事ができない。
俺も攻撃魔法は使えない。使った事がない。
何か特訓する方が良いかなぁ。良い師匠がいるし。
「でぃしゃん、ボクとっくんしゅる」
「え? 特訓?」
「しょうなのら。ボクはこうげきれきないのら」
「ロロがそんな事をする必要ないわ。私が守るわ!」
「姉上、ロロの気持ちだよ。ロロだってみんなを守りたいんだ」
「それは分かっているわ。でも、ロロが攻撃するなんて!」
「まあまあ、リア。ロロが自衛の力を持つ事も大切だ」
「そうだけどぉ……」
「りあねえ、らいじょぶら。でぃしゃん、おしえてくれる?」
「うん、いいよ。ディさんが直々に教えてあげよう」
「ありがと」
よしよし。いいぞ。俺もスキルアップするのだ。やる気なのだ。
「もう、ロロったら」
「りあねえ、ボクもまもるのら」
「亀のクーちゃんをでしょう?」
「くーちゃんらけじゃないのら。りあねえや、れおにいもら」
「ロロー!」
また抱きついてきた。ちゃっかり手は、俺のお腹をフニフニしているのだ。だから、何度も言っているけどさ。
「りあねえ、やめれ」
「もう、ロロったら。冷たいんだからぁ」
はいはい、分かったのだ。
それからディさんも一緒に家に帰った。夕ご飯はディさんも一緒だ。最近は毎日一緒で嬉しいのだ。
そうだ、このルルンデの街に来たばかりの頃は、俺は家から出るのが怖かった事を思い出した。
1年前だ。突然知らない街にやって来て、両親がいなくて寂しかったのもあるけど、なにもかもが怖かったのだ。
だから、俺の行動範囲は家の中だけだった。
そんな俺を、根気よく庭に連れ出したのはマリーだ。
それから少しずつ、マリーと二人で歩いた。行動範囲を広げて行ったのだ。
そんな時に声を掛けてくれたのが、ドルフ爺とセルマ婆さんだ。
ドルフ爺は俺を抱っこして、畑に連れて行ってくれた。セルマ婆さんは一緒に日向ぼっこをした。
少しずつだけど、俺は外に出られるようになった。マリーと教会にも行った。そんな矢先に起こったあの事件だったのだ。
また、外に出られなくなるんじゃないかと、きっとみんなは思った筈だ。
俺は知らなかったけど、ディさんが傷を治してくれていても服が破れていたりしたらしい。その上、俺は意識がない。それは心配を掛けたのだろう。
大丈夫だったのは、女神が癒してくれたお陰だ。でないと、きっと恐怖心が残っていたはずなのだ。
それからだ。ディさんが来てくれるようになったのだ。




