127ーさすがドルフ爺
「でぃしゃん、まんどらごら」
「あった?」
「うん」
ほら、と俺は直ぐ足元を指さす。短い人差し指だけどもね、分かるかな?
「おや、本当だね」
ディさんは、迷いもせずバシコーンと思い切りマンドラゴラを殴った。そして、ズボッと抜く。ナイフを取り出して、グサッと刺す。はい、終了なのだ。
「かんたんら」
「対処法を分かっていたらね。でも、知らないで抜いたりしたら最悪だ」
「ほんとうなのら」
それにしても、本当に美味しいのだろうか? だって魔物なのだろう?
「美味しいよ。持って帰ってマリーさんに調理してもらおう」
「うん」
「厚く切ったベーコンと煮たら美味しいよ。トマト味のポトフもいいね」
「おいししょうなのら」
直ぐに家に着いてしまったのだ。
畑にドルフ爺がいる。この辺りはドルフ爺の畑だ。丁度、亀さんのクーちゃんを見つけた辺りなのだ。
「でぃしゃん、かえってきちゃったのら」
「本当だね。あれ? この辺りまでなのかな?」
ディさんが、地面をじっと見ている。街中からここまでは、さっきの1本しか見当たらなかったけど。
もしかして、ここからまだ街まで行くつもりだったのだろうか? マンドラゴラってそんなに動くのか?
あのくねったセクシーポーズの、むっちりとした短い足で?
「そんな訳ないよ。ロロも見ただろう? あの短い足で、森から街まで歩いて来るなんて考えられないよ。何があったのだろう? まさか、誰かが持ってきたのかな? いや、そんな事はできない筈だ」
畑を見ると、ドルフ爺がじっと何かを見つめている。畑を通っている小道の脇を見ているのだ。何を見ているのかな? まさか、マンドラゴラじゃないよな?
するとドルフ爺が、鉈を持っていた手を振り上げたかと思ったら、いきなり地面をバシコーンと殴りつけた。
「え……」
ドルフ爺は、何かをズボッと抜いたのだ。手に持っていたのは、俺がまさかと思っていたマンドラゴラだ。手に持っていた鉈をザクッとぶっ刺した。
流石、ドルフ爺だ。マンドラゴラの対処方法を知っていた。完璧なのだ。
「でぃしゃん、どるふじい」
「ん? ドルフ爺さんがどうしたの?」
「まんどらごらを、やっちゅけたのら」
「え? そうなの?」
「うん、あしょこ」
俺が指した場所にいるドルフ爺。また地面を殴っている。そんなにいるのか? またマンドラゴラなのか?
ドルフ爺がズボッと抜いて手に持っていたのは、またもやマンドラゴラ。
マンドラゴラ祭じゃないのだから。どんだけいるのだよ。大安売りなのだ。
「あー、本当だ。ドルフ爺さん分かってるじゃない」
「どるふじいは、なんれもしってるのら」
「凄いねー」
「ねー」
そうなのだ。忘れてはいけない、あの白いマッシュ、リカバマッシュ。あれを育てているのだ。
リカバマッシュからドングリを砕いた物に菌を移して、それを小さく棒状に丸めた物を木に植え付けているのだ。
うちの家の横、陽が直接当たらない場所に並べて立て掛けてある。
まんま、椎茸と同じなのだ。よく、そんな事を知っていたものだ。
絶対にただの爺さんではないと、俺は思っているのだ。爺さんは、世を忍ぶ仮の姿だったりするのではないかと。ふふふん。
「どーるーふーじいー!」
「おお! ロロか!」
「ドルフ爺さん!」
「なんだ、ディさんもいるのか!」
「ドルフ爺さん、マンドラゴラ?」
「おう! なんでこんな場所に生えてんだ!?」
「分からないんだ!」
大きな声で話しながら、ドルフ爺のいる畑の小道まで移動する。俺はまたまたディさんに抱っこされちゃった。ホント、早く大きくなりたいのだ。
「こんな場所に生えてるとあぶねーんだ。処理の仕方を知らない者が、抜いたりしたら気絶しちまう」
「そうなんだよ。それで、被害が出ていたんだ」
「そうなのか!? じゃあ、ここだけじゃねーのか?」
「そうなんだよ。森からこの街までの街道沿いに生えているらしい」
「畑は土がいいからだと思ったんだが」
「どるふじい、いっぱいぬいた?」
「おう、2〜3本抜いたぞ」
「え? そうなの?」
「ああ、この辺りに集中していたんだ」
この辺り……おっと、プチゴーレム達が俺を見つけて走って来たのだ。
相変わらず走るのが速いのだ。尻尾をブンブンとふりながら、弾むように駆けて来る。
覚えているかな? プチゴーレム達のお名前だよ。いっちー、にっちー、さっちー、よっちー、ごっちーなのだ。
「キャンキャン」
「アンアン」
可愛いぞぅ。小さいのに風を切って走っている。キャンキャンと鳴きながら。
でも色は土色なのだけど。色を塗ってあげたら良かったかなぁ。
「みんなー、ぱとろーるしてくれてたの?」
「アンアン」
なるほど、なるほど。プチゴーレム達もマンドラゴラを見つけたらしい。それで、ドルフ爺を呼んだのだそうだ。賢いのだ。
「ロロ、何ていってるの?」
「みんなが、まんどらごらをみちゅけたって。れも、小しゃくてむりらから、どるふじいをよんらんらって」
「おう、そうなんだよ。何キャンキャン鳴いてんだと思って来てみたら、マンドラゴラが生えていたんだ。こいつらお利口だぞ」
「良かったねー」
「アハハハ。それは凄いや。本当にパトロールしているんだ」
そうなのだよ。とっても心強いのだ。でも、強いのだろうけど何しろ小さい。だってプチだもの。俺の両手に乗る位なのだから。
だから、マンドラゴラを引き抜いたりぶっ刺したりはできないのだ。




