126ーミッションなのだ
「ディ、ギルドに来るまでにも生えていたと言っていたな」
「そうなんだよ。ほら」
どこからか、ディさんがさっき来る時に抜いたマンドラゴラを出した。体をぶっ刺したやつなのだ。
今、どこから出した? 俺は狐に抓まれたみたいな気分だぞ。これは、絶対に黙ってはいられないのだ。
思わず俺を抱っこしてくれているディさんの腕をパシパシと叩いたのだ。
「でぃしゃん、今ろっから出したのら!?」
「ん? ロロ、前に言ったじゃない。マジックバッグだよ」
そう言って、腰のベルトに通していた小さなポーチサイズのバッグを見せてくれた。ああ、そうだった。確か、森に行った時に教えてもらったのだ。
そっか、だからディさんはいつも手ぶらなのだ。いつも何も持っていない。
ディさんは冒険者だと言うのに、武器も持っていない。全部そこに入れているのだな。やっぱ、それいいなぁ~。
「でぃしゃん、たくしゃん入るの? なんれも?」
「そうだよ。凄く沢山入るんだ。その上、重くならないんだよ。生きている物は入れられないけどね」
「ふょぉぉぉーッ!?」
それがあると、リア姉やレオ兄は便利だろうなぁ。欲しいなぁ~。
「でぃしゃん、たかいの?」
「高い? ああ、お値段かな?」
「しょうなのら」
「そうだね、ヒューマン族の国ではとても高いかな」
んん? また引っ掛かる事を言ったのだ。ヒューマン族はと言った。あれれ? でも、ディさんは貰ったと話していなかったか?
「そうだよ。エルフはみんな長老に貰うんだ。ほら、レオ達がギルドカードを持っているだろう? あれは身分証明の代わりになる。それと同じ様なもので、エルフはタグを持っているんだ。それを国の長老に作って貰うんだけど、その時に杖とマジックバッグを貰うんだよ。自分で作っちゃう人もいるね」
「ひょぉ~」
ヒューマン族とエルフ族ってそんなに違うのか。能力が全然違うのだ。それになんだか、とても豊かな国に思えるぞ。
「エルフ族は少数民族だからね。国だって大きくない。でも、長命種で差別もなく、子供は種族みんなで育てると思っている国なんだ。平和で優しくて良い国だよ」
でも、ディさんはその国を出て、わざわざヒューマン族の国に住んでいる。それはどうしてなのだ?
そんなに、平和で良い国なら出る必要はないだろう?
「僕は変わり者らしいよ。刺激が欲しかったんだ。でも、ずっとこの国にいる訳じゃないからね。いつかはエルフの国に帰るよ」
「えー……でぃしゃんが帰ったらしゃみしいのら」
「アハハハ、ロロ達がいる間くらいはこの国にいるよ」
ならいいのだ。と、言うか……エルフ族は長命種なのだろう? 普通に俺達の方が先に寿命がくるのだよな? それって、ディさんは寂しくないのかな?
「ロロは聡い子だね」
ディさんが、少し目を細めながら俺の頭を撫でた。
寂しい思いもしてきたのだろう。何百年と生きていると聞いた。
ディさんは、親しい人の最後に立ち会った事だってあるのだろう。仲良くしていた人達がみんないなくなる。自分より先に、寿命を迎えるのだ。
長い時間を生きるという事はそういう事なのだ。楽しい事も悲しい事も沢山あったのだろう。
「でぃしゃん、たくしゃんいっしょにいるのら」
「ロロ! 君は本当に良い子だ!」
ギュって抱きしめられたのだ。やっぱディさんはとっても良い匂いがする。
父さまはどうだったのだろう? 寂しい訳じゃないのに、こんな時はいつもそう思ってしまう。
「さあ、まだまだやる事があるよ」
何だろう? もうみんな回復したのだけど? チロだって、回復を終えてポシェットの中でお昼寝中なのだ。
「ほら、ロロ。ギルドに来るまでに僕がパコンと殴っていただろう? あれを探して処理しないとね」
「ああ、まんどらごら」
「そうだよ」
「ディ、ギルドからも何人か出すが、頼めるか?」
「ギルマス、もちろんだよ。何も知らない一般の人達が、被害に遭わない様にしないとね」
「おう!」
そう言うと、ギルドを出た。来た道を戻るのだ。そう、ミッションなのだ。
でも、今日ギルドに来たのは、違う理由だったのではないか?
「でぃしゃん、くーちゃんのとうろくはまたこんろ?」
「ああ、そうだね。忘れていたよ。帰りに聞いてみよう」
「うん」
そうなのだ。今日は本当なら、亀さんのクーちゃんの登録をするつもりだったのだ。
あれ? あれれ? でも、俺はまだ3歳だから登録できないのだ。ギルドに登録が出来ないのだから。
「でぃしゃん、ボクまらぎるどにとうろくしてないのら」
「あッ! そうだったよ! アハハハ!」
なんだよ、なんだよー。忘れていたのか? うっかりさんなのだ。どっちにしろ、レオ兄がいないと駄目なのだ。
「帰りに会うといいのにね」
「ほんとうなのら」
今日はずっと、ディさんに抱っこしてもらっている。腕が辛くないか? 俺はもう赤ちゃんじゃないから重いだろうに。
マンドラゴラの騒ぎの所為で、街は人が多かった。でも街の中心は過ぎた。もう家が見えているのだ。ちびっ子の俺が歩いても危なくはないだろう。
「でぃしゃん、あるくのら」
「そう?」
「うん」
降ろしてもらった足元に、よく見るとさっき見たお野菜の様な葉っぱが生えていたのだ。
やっぱ瑞々しくて、美味しそうに見えるのだ。これで抜かせようと誘っているのだな。その手には乗らないのだ。




