124ーチロさん出番です
俺は口を出さずに、どうなっているのか確かめようとしているディさんに任せたのだ。
ギルマスが色んな人に指示を出している。大変そうなのだ。
「ディ! 良い所に来てくれた!」
「ギルマス! さっきの叫び声って」
「ああ! マンドラゴラだ!」
なんだって? ま……まん……何だ?
「どうしてそんな物が!?」
「分からん! だが、どうやら森からこの街迄の街道沿いに生えているのが見つかった!」
「僕がギルドに来るまでにも生えていたんだ。マンドラゴラは、森の深い場所にしか生息しない筈なのにどうしてだよ!?」
「分かってる! だが、ディも生えているのを見たのだろう? それに運ばれて来た者達は皆、状態異常を起こしている上に魔力が枯渇して気絶しているんだ。こんな状態はマンドラゴラ以外に考えられねー!」
「それで被害は?」
「何人も被害にあったみたいだ。一般人だけじゃなく、気付かずに抜いた冒険者も運び込まれている」
「冒険者が、何をしているんだ。マンドラゴラは抜いたら駄目だって常識じゃないか!」
「まさか、そんな場所に生えているなんて思いもしなかったんだろうよ」
その、マンなんとか。それが原因らしいのだが、俺はそんなの全然知らない。何が何やら分からない。
でも、邪魔をしたら駄目だと黙っていた。ギルドのただならぬ雰囲気でそう思ったのだ。
そうしている間にも、そのマンなんとかの被害に遭った人達がギルドの前に運ばれて来た。
ギルドの中には先に運ばれて来ていた人達が寝かされている。もう場所がないんだ。
ギルドが1番沢山のポーションを用意できる。ギルドで購入していく冒険者の為に常備しているのだ。それに対処法も詳しい。だから、運ばれてくるらしい。
みんな、気を失っているみたいなのだ。
「ロロ、チロは状態異常も回復できたよね?」
「え……しらないのら」
「チロ、起きているかな?」
「キュルン?」
チロが呼ばれたものだから、何かしら? と、顔を出した。きっと眠っていたのだ。
つぶらな瞳がトロンとしている。そのチロを、ディさんが見た。
いつもはエメラルドの宝石の様な瞳がゴールドに光った。精霊眼で見ているのだ。
「よし、チロ。状態異常を回復させて欲しいんだ。頼めるかな?」
「キュル?」
チロはまだ理解できていないのだ。だって、チロなのだ。いつも寝ているまだちびっ子のチロ。そんな状態異常の回復なんてできるのか?
「ちろ、おねがい」
「キュルン」
いいよ~、と言っていた。何が何やら分かっていないみたいだけど。
「れも、でぃしゃん。ちろはへびしゃんらから……」
「そうだね、周りの人が怖がってしまうね。どうしようっか」
「俺の胸ポケットに入れるか? どうせ魔力を回復させるポーションも飲ませなきゃなんねー。その時に紛れて回復させてくれるか?」
「ちろ、わかる?」
「キュルン」
「わかったって」
「よし、頼んだぞ!」
ギルマスが手を出すと、チロがぴょんとその手に乗った。そのまま、ギルマスの洋服の胸ポケットに入れられる。
大丈夫かなぁ? ディさんが見ていたから大丈夫なのだろうけど、チロはちゃんと回復できるのか? 俺も見に行こうかな? 心配なのだ。
「でぃしゃん、おろして」
「ロロ、人が多いから危ないよ」
「らいじょぶなのら。ちろがちゃんとれきるかしんぱいなのら」
「大丈夫だよ。ちゃんとスキルを持っているから」
「ん~……しょうかな?」
「そうだよ」
そう言いながらディさんは、ギルドの中に寝かされている人達の方へと移動して行く。ディさんも回復するつもりなのだろう。
ギルドの中だけでも何人もの人が寝かされていた。これは大変なのだ。
やっぱちゃんと聞いてみよう。
「でぃしゃん、しょのまんなんとか」
「ん? マンドラゴラかな?」
「しょう、しょれ。何なのら?」
「ああ、大根みたいなんだけど魔物なんだ」
なんですとッ!? そんな魔物もいるのか? 俺は知らなかったのだ。美味しそうな大根みたいなのに魔物なのか? この世界のお野菜は怖いのか?
「とても有名な魔物なんだよ。本当は森の奥深くかダンジョンにしかいないんだ」
そのマンドラゴラ。頭には瑞々しい立派な葉っぱがあって、体は大根みたいだけどちゃんと顔があり、体の先が二股に分かれていて足がある。
さっきディさんが、バシコーンと殴ってから抜いてぶっ刺していたやつなのだ。
普段は、土の中に体が埋まっているから分からない。瑞々しい美味しそうな野菜じゃないか? と思って引っこ抜いたら、さっき聞こえたみたいな叫び声をあげるらしい。
その叫び声が大変なんだ。
「その叫び声を近くで聞いたら状態異常を起こすんだ。同時に魔力を吸い取られてしまう。状態異常と、魔力の枯渇を起こして意識を失ってしまうんだ。だから、魔獣が出る森の奥や、魔物がいるダンジョンで気を失うと命に関わる。とっても危険なんだ」
なるほど。さっき俺も遠くからだけど叫び声を聞いた。それだけなのに、脳が揺さぶられそうだと思ったのだ。デンジャーなのだ。
「冒険者なら知っていて当然なんだよ。まさか街道に生えているなんて、思いもしなかったんだろうね。油断だよ」
でも、そんなのどうやって退治するのだろう? 抜いたら駄目なのだろう? それに、体は土の中なのだ。どうするのだ?




