123ーマズイな
そこへ遠慮気味に顔を出したのが、小さなピンク色の雛だ。コッコちゃん達の柵から、お顔だけ遠慮気味に出してこっちを見ている。
「ピピ」
羨ましそうだ。なんだか、不憫なのだ。この子は大人しいし、将来的に回復魔法を覚えるのだろう?
一羽だけピンク色なのだ。なのに、存在感が薄い。だって、フォーちゃん達3羽の存在感が強すぎるのだ。
「あー、ロロ。あの雛も付けてあげたら?」
そうなるよな。そりゃそうだ。でも、この子は簡単に思いついたのだ。
「ちろがあたためたから、ちーちゃん」
俺がそう言うと、ピンク色した雛がペカーッと光った。よしよし、いい子だぞぅ。
「ピヨ」
「アハハハ、ちーちゃんかぁ。うん、可愛いね」
もういないよな? もう俺は無理だぞ。
それから、ディさんとマリーと一緒にお昼を食べてお昼寝をした。今日は早朝出勤だったからか、ディさんも一緒にお昼寝していたのだ。
ディさんは一緒にお昼寝する時、いつも自分の腕の中に囲うようにふんわりと、でもぴったりと俺の体を抱き寄せる。その時に、ディさんの鼓動が聞こえるのだ。規則的で力強い鼓動が。
それがとても心地よくて安心するのだ。まるで……父さまみたいだ……と、思ってしまうのだ。
今、俺とディさんは一緒に冒険者ギルドへ向かっているのだ。よく寝たから元気なのだ。
今日はディさんと2人なのだ。ポシェットにはチロが眠っているけど。
爽やかな風が少しだけ俺のほっぺを撫でていく。良い気候だね。前世だと湿気が多かったり、春は花粉や黄砂に悩まされたり。今はそんな事、全然ないのだ。空気が違うのだ。
家を出て、畑の中の小道を行き街道に出て街に向かうのだ。
ディさんと手を繋いで歩く。大きな手だ。でも、スベッスベなのだ。この手で剣を持つのか。そんな風には思えないのだ。
「でぃしゃんは剣もちゅよいね」
「ああ、この前リアの稽古をしていた時の事かな?」
「うん、ちゅよかった」
「剣よりは弓の方が得意だけどね。僕は森人のエルフだから」
「えるふってしゅごいなぁ~」
「そうかい?」
「うん。きれーらし、ちゅよいし、やさしい」
「アハハハ、有難う」
そんな話をしながら歩いていたのだ。お天気も良くて、ご機嫌だったのだ。ちょっと俺の得意技、スキップでも披露しようかと思っていた時なのだ。
「おや? ロロ、ちょっと待って」
ディさんが道端に生えていた草に、目を留めたのだ。瑞々しいお野菜の葉っぱのようにも見える。とっても綺麗でピカピカしているのだ。明らかに他の雑草とは違って見える。
でも葉っぱの下に、白いぷっくりとした根が少しだけ見えている。まるで大根みたいなのだ。
まだ畑の近くなのだ。そんなに家から離れていない。種が飛んできたのかな?
「どうしてこれが、こんな場所に生えているんだ?」
その瑞々しい葉っぱ。とっても緑が綺麗なのだ。
どう? 美味しそうでしょう? 抜いてみない? なんて、言われていそうな気がするのだ。
俺が思わず手を出しそうになった時だ。
ディさんがその葉っぱの根本を狙って、思い切りバシコーンと殴ったかと思ったら、葉っぱを掴みズボッと引き抜いたのだ。
葉っぱの先には、白くでっぷりとした大根の様なお野菜なのか? 蕪に見えなくもない。
その美味しそうにでっぷりと太った体には、翁の様なお顔がある。体の先っぽは二股に別れていて、クネリと交差されたセクシーポーズをとっている。しかもムッチリとした御み足だ。
お顔や足があるのだ。普通のお野菜ではないのだろう。
ディさんが殴ったから、気絶しているのだろうか。目を閉じてダラリと口を開けている。え? お野菜なのか? 植物なのか? お顔があるのだ。『いやぁ~ん!』と体をくねらせて喋り出しそうなのだ。
ディさんはいきなり、そのでっぷりとした体をナイフでぶっ刺した。ザクッと躊躇なく突き刺したのだ。
俺はそれを、訳も分からず見ていた。ちょっぴり驚いたのだ。
セクシーポーズは置いといて、このでっぷり加減のつるりとした感じは、煮込んだら美味しそうなのだとか思っていたところだったのだ。
その時だ。どこからか叫び声が聞こえてきたのだ。
――ギョァァァーーーッ!!
なんだこの叫び声は!? 遠くから今迄聞いた事もない、脳が揺さぶられる様な悍ましい叫び声が聞こえてきた。空気が震え、気を抜けば気絶してしまいそうな叫び声だ。
俺は思わず、両手で耳を塞いだのだ。
「ふぇ……」
「これは……マズイな」
ディさんが真顔になった。深刻そうなのだ。
「でぃしゃん?」
「この叫び声はマズイ。ロロ、早くギルドに行こう」
そう言ったかと思ったら、ディさんは俺をヒョイと抱き上げ走り出したのだ。
一体何が起こっていて、どうマズイのか?
俺はディさんにしがみ付いていた。理由を聞きたいけど、ディさんの走りが早くて喋れなかったのだ。こんなに慌てたディさんは珍しい。お顔がいつもと違うのだ。
攫われた俺を助けに来てくれた時だって、こんなに慌てていなかったのだ。いや、あの時は俺を心配して泣きそうなお顔になっていたのだ。いつも冷静なディさんなのに。
あっという間に冒険者ギルドに到着した。ギルドは蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。
冒険者だろう人達が何人もいて、ギルドのお姉さん達が、総出で運ばれてくる人達の整理をしていたり、ポーションを用意していたりするのだ。
きっと、さっきディさんが『マズイ』と話していた叫び声が原因なのだろう。
お読みいただき有難うございます!
叫び声が超危険なお野菜の魔物と言えば!?
ダメダメ、ネタバレは駄目ですよ〜
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