116ー強いのだ
「まあまあ! 危ないですよ!」
「マリー、分かってる! 近寄らないよ!」
そう答えながら、ニコ兄と一緒に家の外に出てリア姉とレオ兄を探した。
畑の中の小道を、ピカを先頭にリア姉とレオ兄が走っているのが見えた。
「あの辺りは、ドルフ爺の畑だ。獣がまだ他にもいるかも知れないぞ」
「あらあら、危険ですね」
マリーまで見に出て来ている。
「どるふじい、ぶじでよかったのら」
「本当ですね」
「ほらぁ、ブギブギ鳴いてるわよーぅ」
亀さんだ。俺には何も聞こえない。
「分かるのか?」
「神使様は、なんてカッコいいのかしらぁ〜」
ピカの事だろう。んん〜、見える場所まで行きたいのだ。
「にこにい」
「おう、見たいな」
「しょうなのら」
「よし! ロロ、俺の言う事は聞くんだぞ」
「分かったのら!」
ニコ兄も見たくて仕方ないのだ。二人で手を繋いでピカが行った方へと向かう。ニコ兄に手を引かれながら、一生懸命走るのだ。
笑えるくらいに、遅いのだけど。ワッハッハ。
「あんまり近付いたら駄目ですよ! 危ないですよ!」
「まりー、らいじょぶら!」
「近寄らないよ!」
マリーは家の前から見ている。騒ぎを聞きつけたのか、ドルフ爺も出て来た。
「ニコ! 出たか!?」
「おう! ピカとリア姉、レオ兄が行った!」
「そうか!」
何故かドルフ爺は手に鉈を持っている。まさか、戦うつもりじゃないだろうな。元気な爺さんなのだ。
離れた場所に、レオ兄が見える。
「ロロ! ニコ!」
「あれ? レオ兄が呼んでるぞ」
「なんれらろ?」
「分かんねーけど、行ってみよう!」
「うん!」
危なかったらレオ兄は絶対に呼ばない。だから、大丈夫なのだろう。
ニコ兄に手を引かれて、レオ兄のそばまで行ってみて目が点になったのだ。目の前で起こっている事を、脳が受け入れられないとはこの事なのだ。
意味不明だ。驚き過ぎて、最初は理解できなかったのだ。
ピカより少し大きなボアが、畑の中の小道を呻きながら走っていたのだ。角はないから魔獣ではないのだろう。でもそれに驚いたのではない。
その走っている大きなボアの、背中や頭の上に乗っている小さな三つのオレンジ色した物体X……じゃなくて、雛だ。
『ピヨーッ!』と鳴きながら、ボアの上でバコバコとジャンプしながら蹴りまくっている。
「ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃんあぶないッ!」
「ロロ! あれ、雛だよな!?」
「にこにい、しゅごいのら!」
「そんな事言ってる場合かよ!」
オレンジ色の雛達の動きに放心状態なのだ。だがよく見るともう一種類、そのボアに飛び蹴りをお見舞いしているのがいたのだ。
キャンキャンと、鳴きながら走る土色した小さな物体が5つ。
ボアの足元を疾走しながら、勢いよくジャンプして脇腹を蹴りつけている。
「ふぇぇ……ッ!?」
「ロロ、あれって……」
「ロロ! あれってロロが作っていたのだろう!?」
俺が少し前に、ペッタンペッタンコネコネして作っていた、ピカの土人形達だったのだ。驚いたなんてもんじゃない。
「ひょぉーッ! れおにい、う、うごいているのら! はし、はしっているのら!」
「アハハハ! そうなんだよ! もう驚いたよ!」
いやいや、驚いたのは俺だ。作って軒下に並べて乾燥させていたのだ。
いつの間にか無くなっていたから、忘れていたのだ。その5頭のピカの土人形と3羽の雛達に、あっちこっちから蹴りを入れられ、ボアはもうフラフラになっている。
亀さんが話していた様に、確かに『ブギブギ』と鳴いているのだが声に元気がない。
「僕達が来た時には、もうああなっていたんだ」
「しゅごいね〜」
「ロロ、凄いね〜じゃないぞ!」
だって、他に言葉が出ないのだ。何故に動いているのだ? しかも、強いじゃん。
あんなに小さいのに、大きなボアを弱らせている。
だが、ボアは最後の力を振り絞って逃げようとしたのか、向きを変えてこちらに向かって突進して来たのだ。
俺が、突然の事で動けないでいると、リア姉とレオ兄が武器を構えて俺達を庇うように前に出た。
リア姉は剣を、レオ兄は槍をボアに向かって構えている。ニコ兄も俺を庇うように抱きついてくる。
そして、ピカが吠えた。
「わぉぉーーんッ!」
周囲の空気を震わせるかの様な声だ。何かを訴えているのかも知れない。
ピカの鳴き声が合図だったのか、雛達や土人形が素早くボアから飛び降り距離をとった。
すると、ピカから風の槍が飛んでボアの喉元を貫いたのだ。ボアはなんとも言えない、鳴き声にならない悲鳴を上げながらドサッと音を立てて倒れた。
「おおーッ!」
「ふぇぇッ!?」
「ピカ、つえーッ!」
お見事ッ! ピカさん、相変わらずお強い。思わずニコ兄と一緒に拍手なのだ。
「わふッ」
「アンアン!」
「キャン! キャン!」
鳴きながら、小さなピカの土人形がワラワラと走って来た。
ピカさんの事を親だと思っているのかな? と、見ていたらピカを素通りし、俺の足元までやって来てちょこんとお座りをして整列した。
尻尾をブンブンと振りながら。土で出来た尻尾だけど。
「ロロ、褒めて欲しいのじゃないかな?」
「え……れおにい、しょお?」
「きっとそうだよ」
そうなのか? なら、ご期待には応えないとなのだ。
「よくやったねー。えらいえらい」
そう褒めながら、土人形の頭を指で撫でた。うん、土なのだ。ほんのり温かいけど。
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今日のポイントは『物体X』です。^^;
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