114ーいっぱいなのら
そこに俺のポシェットからヒョコッと顔を出したチロ。起きたのだ。
「キュル」
「え、え、ええぇー! なんなのよーぅッ!? 神使様じゃないのぉー!?」
眠っていると思っていたのに、亀さんが首をニョキッと上げた。
ピカだって、神使なのだよ?
「アハハ、弱いから気配には敏感なんだ」
コッコちゃんと同じなのだ。いち早く気配を察知して、ダッシュで逃げる。亀さんなら擬態し硬化する。
それが生死に関わる過酷な世界なのだ。
「かめしゃん、ちろなのら」
「あらまぁー」
「ちろ、かめしゃん」
「キュルン」
大きいねー! だって。チロはまだまだ小さいから。
なのにその大きな大きな亀さんが、小さな小さなチロに平伏している。
と、言っても亀さんなので、平伏していても態度は変わりないのだけど。
そこに、畑から帰って来たニコ兄とユーリア。
「うわ、大きい亀さん!」
ユーリアが驚いていた。ユーリアは知らなかったからだね。ニコ兄が、自分が捕まえたかの様に話している。
「畑にいたんだよ」
「野菜を食べていたのはこの亀さんなの?」
「違うんだ。この亀さんはさっき畑に来たばっかなんだって」
「じゃあ、やっぱり獣がいるのね」
「多分な。ロロ、危ないから一人で外に出たら駄目だぞ」
「うん、分かってるのら」
獣かぁ、きっと森から出て来るんだよな? 魔獣じゃなきゃいいけど。森に行った時に出て来たけど、魔獣は怖いのだ。
「ロロ! ニコ! 今日もディさん特製のサラダだよー!」
ディさんが、また大きな籠を持って野菜を収穫している。いつの間にか麦わら帽子まで被っている。そんな恰好で小躍りしている。
折角のイケメンエルフなのに台無しなのだ。
「ディさん、本当に毎日いるよな」
「え? ニコ、駄目なの?」
「ううん、賑やかでいいよ!」
「うん。楽しいのら」
「ニコ! ロロ!」
ディさんは大きな籠を持ったまま抱き付こうとしてくる。それは無理なのだ。
「ディさん、その籠キッチンに持って行こうぜ」
「そうだねッ!」
ディさんは超ご機嫌なのだ。毎日、ニコ兄の育てたお野菜でサラダを作る。
俺達までサラダが大盛りになってきた。そんなに食べられないのだ。
庭先で、ニコ兄と一緒に亀さんを見ていると、リア姉とレオ兄が帰って来た。
コッコちゃんファミリーも、コケッと鳴きながらお出迎えなのだ。
そのうちコッコちゃんは、片手をヒョイと挙げそうな勢いだ。
「ニコ、ロロ、ただいまー! お肉あるわよー! マリー、直ぐに焼けるわよ!」
「あらあら、早速焼きましょうね」
「え!? ニコ、ロロ、その亀はどうしたんだ?」
レオ兄が寝ている大きな亀さんに気が付いた。やっぱビックリするよね。俺が説明してあげよう。ジャジャジャーン!
「おばあしゃんのかめしゃんなのら」
「お婆さんなのかい?」
「しょうなのら」
ふふん、完璧なのだ。
「ロロ、それだけかよ」
「え? にこにい、かんぺきら」
「俺が説明するよ」
おや、そうなのか? 今の説明では不足なのか?
ニコ兄が、森から来た亀さんで畑の野菜を食べようとしていたんだと話した。
「森からなの? 遠いじゃない」
「しょうなのら。しゅっごくたいへんらったって」
「そうなの?」
話を聞きながら、リア姉がそこら辺に落ちていた小枝で亀さんの甲羅をツンツンと突いている。
こらこら、そんな事をしては駄目なのだ。リア姉は子供みたいな事をする。3歳の俺でもしないのに。
「りあねえ、らめ」
「あら、ごめんなさい」
「それにしても大きいね」
「んん……なぁによーぅ。騒がしいじゃなぁーい」
あ、起きたのだ。きっとリア姉がツンツンしたからだぞ。
「え!? 喋ったわよ!?」
「ロロ! また何で!?」
どうして俺なのだよ。何かあったら俺なのか? 仕方ないなぁ、教えてあげるのだ。
「れいじゅうなのら」
ん? って顔をしているリア姉とレオ兄。『?』が頭の上にピョコンと出ていそうなのだ。そういう仕様の帽子でも被っているのか?
「霊獣っていってね、獣が長生きして霊格が高くなっているんだ」
いつの間にか、ディさんがエプロンをつけている。しかも、フリフリのエプロンだ。バージョンアップなのだ。
どうした、何故にそれをチョイスした? きっとマリーのエプロンなのだろう?
「ディさん、そんなのがいるんですか?」
「知らなかったよ」
そうだろう、そうだろう。俺も知らなかったのだ。
ディさんの、エプロンはスルーする方針なのだね? 俺は空気が読める3歳児なのだ。
「ピカとチロは何だったかしら?」
リア姉も俺と同じことを言ってる。大丈夫か? 3歳児と同じなのだぞ。
「ピカとチロは神獣だ。もっと格上だよ」
「へえー、ピカとチロって凄いのね」
今更だ。ずっと前にギルドでディさんから聞いていたのに。リア姉って脳筋気味だよね。女子なのに。フィーネもそうだ。だから2人は気が合うのか?
「ほら、ご飯だよ」
「はーい」
ディさん、もう完璧に馴染んでいる。むふふ、嬉しいのだ。
「ロロ、どうした?」
「れおにい、でぃしゃんがいるとにぎやかでいいのら」
「そうだね」
レオ兄と手を繋いで家に入る。レオ兄の手は大きくて温かい。でも、ディさんの手はもっと大きくて安心する。
父さまはどんな手だったのだろう? ちょびっとだけ、そんな事を思ったのだ。




