111ーやんちゃな雛
「まだ、人の家には近寄っていないみたいだけど……放っておけないね」
「でぃしゃん?」
「ギルドに言っておこう。冒険者に討伐してもらうと良いよ。人が被害に遭わない内に対処しておこう」
「おう! じーちゃん達が喜ぶよ!」
でも、冒険者に依頼するという事は、お金が掛かるのではないのか? そこはどうするのかな?
「ロロ、どうした?」
「にこにい、ぼうけんしゃにいらいしゅるとお金がかかるのら」
「あ、そうか」
「ロロはお利口だね。大丈夫だよ」
ディさんが言うには、この場合は領主様が依頼人になって負担してくれるらしい。街の防衛費の様なものだ。
今はまだ畑を少し荒らす程度で済んでいる。でも、これで旨味を覚えてどんどんエスカレートしてしまう可能性がある。放っておけばそうなるのだろう。
相手は獣なのだから遠慮は勿論、倫理観なんてないのだから。
だから、早めに対処するのだそうだ。
どんな獣を何頭討伐したかで、冒険者への報酬が変わるそうだ。
その時だ。ピカが何かを見つけたのだ。
「わふッ」
「え? ぴか、ろこに?」
「わふん」
「でぃしゃん、ぴかが何かいるといってるのら」
「え? 何だろう? ピカ、そこに行こう」
「わふん」
ピカが慌てている訳ではない。なら、危険はないのだろう。と、すると……昨夜の内に倒されたのだろうか? って、誰に? 一体、何がいるのだろう?
ピカが畑の中の小道を行き、防御壁のある方向、森に近い方へと進んで行く。
畑の中を十字に小道が通っていて、その端っこに着いた。
そこにいたのは獣ではなく……
「ひょぉーッ! おっきな、かめしゃん!」
体長は優に1メートルは超えている。角度によっては、ゴールドにも見える褐色で半円形のドーム型した甲羅。
そこから出ている太くて短い手足、そしてお顔。甲羅の大きさだけで1メートルはありそうなのだ。
その大きな体の割にはつぶらな瞳。その瞳から、ポロポロと涙を流している。
何故なら大きな亀さんの上には、オレンジ色した雛が乗って足でペシペシと踏ん付けている。亀さんの尻尾を踏ん付けていたり、お顔にキックをしている雛までいる。こらこら、亀さんが可哀想ではないか。
雛達はいつの間に、こんな場所まで移動していたのだ? 俺達の後ろを付いて来ていた筈なのだ。
「ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃん、やめれ!」
「ピヨッ!?」
「ピヨピヨッ!?」
「ピピッ!?」
ええッ!? どうしてアルか!? だってお野菜を勝手に食べようとしていたアルよ!? キックするアルね! と、口々に言っている。
だって、涙を流しているのだ。やり過ぎだ。
仕方ないアルね〜、なんて言いたそうな感じだ。ピヨピヨと鳴きながら、亀さんから離れた。
「え……どうしてこんなところにいるんだ?」
ディさんが近付いて見ている。
亀さんは、3羽のオレンジ色の雛に攻撃されて涙を流しているのだ。大丈夫なのか?
まさかこんなに大きい亀さんが、小さな雛にやられたりしないだろう。
それにしても、大きな亀さんなのだ。泣いてるなんて可哀そうだから……
「いたいのいたいのとんれけ~」
「ロロ!」
そう言いながら、亀さんの方に掌を向けたのだ。亀さんがペカーッと光ってしまった。
あ、やべ。忘れていたのだ。俺って、回復魔法が使えるのだった。
「ロロ、回復させてどーすんだよ」
「らって、にこにい。泣いてるのら。かわいしょうなのら」
「アハハハ! 大丈夫だよ。悪い亀さんじゃないからね。悪くはないんだけど……」
ディさんが、亀さんのそばにしゃがみ込んだ。
「ねえ、話せるんでしょう?」
「……」
「回復してもらったのに、だんまりなの?」
「た、た、助かったわよーぅ……」
「「え……」」
俺とニコ兄は驚いた。マジで、言葉が出ないくらい驚いた。お目々が飛び出るかと思ったのだ。
だって、喋る亀さんなんて聞いた事がないのだ。もちろん、見た事もない。
「え……おじいしゃんのかめしゃん?」
「爺さんじゃないわよぉ。そこはぁ、どっちかと言うとぉ、あやふやと言うかぁー。こんな綺麗な爺さんがいる訳ないじゃないのよーぅ」
いや、だからどっちなのだ?
「じゃあ、おばあしゃん?」
「それは決めつけちゃダーメッ。長生きしてるけど、婆さん扱いするんじゃないわよーぅ。そういう生き物なのッ」
え……何なのだ? お婆さんでいいんだよな? 分からんぞ。
「なーに、何なのぉ? 森人のエルフがどうしてここにいるのかしらぁ?」
「僕はこの国に住んでいるんだ。それより、君もどうして畑に出てきたんだよ」
「仕方ないじゃなぁい、とーってもお腹が空いたんだものぉ……新鮮なお野菜を探してここまで来たのよーぅ」
「森に食料がないって事かな?」
「そうじゃないのー、そうじゃないんだけどぉ……」
亀さんは、喋るのも遅かった。
待って待って、ディさん。どうしてその亀さんは喋れるのかを教えて欲しいのだ。
ニコ兄もまだ、キョトンとして固まっているぞ。
喋り方からして、お婆さん亀でいいのだよな?
「でぃしゃん、でぃしゃん」
「ん? ロロ、どうしたのかな?」
「ろうしてこのかめしゃんは、はなしぇるのら?」
「ああ、そっか。そうだね」
ディさんが教えてくれた。この亀さんは普通の亀さんではない。
なんとなんと、霊獣というのだそうだ。
「霊獣とはね、何百年も生きて霊格が高くなった生き物の事を言うんだ。この亀さんは近くの森で何百年も生きていて、魔獣にもならなかったんだ」
ほうほう……で?
「あれ? ロロは意味が分かってないのかな?」
「めちゃながいきした、かめしゃん」
「そうそう、そうだよ」




