106ー胸がキュッとなる
ストリートチルドレンだ。親がいなくて、小さな子供達が路上生活をしている。
そんなの、遣る瀬無い。胸がキュッと締め付けられるよ。
どうやって食べているのだ? どこで寝ているのだ? 雨が降ったらどうするのだよ。お風呂は? トイレは? 病気でもしたらどうするのだ。
そんなの他人事じゃないのだ。
俺達だって、両親がいない。ただ、ピカがいたから邸の物を沢山持ち出せた。それが、この街に住む時の資金源になったのだ。言ってみれば、あの女神のお陰なのだ。
それに俺には、ピカだけじゃなく兄弟がいた。マリー達がいた。だから、今も温かいご飯を食べて、フカフカなお布団で眠れるのだ。
もし……もしも、俺一人だったら……?
そんなの考えただけで、胸が締め付けられて涙が出そうになる。
「ロロ、大丈夫だよ。これからだ」
「でぃしゃん……」
「出来るだけ多くの子供達を保護するからね。僕達大人の責任なんだ」
「そうだ、ロロ。そんな、辛そうな顔をするな」
「びおじい」
「あらあら、ロロ坊ちゃま」
マリーが抱き上げてくれた。俺、そんなに辛そうな顔をしていたのか?
ちょっぴり涙が出そうになった。思わず、マリーの首に抱き着いてしまったのだ。
「また僕が領主様と相談するからさ。それまでは少しずつでいいから増やしてよ。卵も売る事を相談してくる。教会の資金になるからね。それから、小さな子達が優先になっちゃうけど保護してくるよ」
「おう、分かった」
ふむふむ。コッコちゃんは大きいから、数が多くなったらこの中庭だけでは狭くなってしまうだろう。
今だって中庭だと狭いからと言って、お散歩をさせているくらいなのだ。きっと、ディさんはその事を考えているのだ。
俺は『ふむふむ』と頷きながら、腕を組み片手を顎にやっていた。どうだい? ちょっぴり生意気で偉そうだろう? ちびっ子なのに。ふははは。
「ロロ、本当に君は賢いね。もう、理解しているんだろう?」
「でぃしゃん、なにが?」
「アハハハ、そんな天然なところもとっても可愛いよ~」
何がだろう? なんだったら社長と呼んでもいいのだよ。いや、会長かな? なんてね。
ディさんとビオ爺が相談して、取り敢えず1日1個ずつ卵を温める事になった。あまり多くなっても、孤児院の子供達に負担が掛かってしまう。それに卵は孤児院の子供達にとって大事な栄養源にもなっているのだ。1日1個程度なら大丈夫だろうという事なのだ。
それでも、だいたい1週間後には7個の卵を温める事になる。それまでに孵化しちゃう可能性もあるけど。
1日中、温めないといけない訳じゃないから平気らしい。ハンナとニルスで手分けして温めている。
ディさんが、他の子供達も出来そうな子がいないか見ている。
今は物珍しいから、みんなやりたがっている。子供ってそうだよね。目新しいものには飛びついちゃう。
「ロロもまた温めてよ」
「え、オレンジになっちゃうのら」
「いいじゃない。番犬みたいでさ」
いやいや、コッコちゃんだから。いくら身体能力が上がっているといっても、元はコッコちゃんなのだ。
「もう少し大きくなったら、もう1度僕が見るよ」
おう、精霊眼だ。ホント、俺も欲しいのだ。聞いてるか? 泣き虫女神。何度も言っているけど。
最近、大人しいな。どうしたのだろう? まあいいや。
それから、ニルス達と少し遊んで俺とマリーは教会を出たのだ。
ディさんは途中まで一緒だった。今日は、ギルマスに用事があるんだって。だから、ギルドの前でバイバイなのだ。
「丁度良いから、コッコちゃんの雛の事も聞いておくよ」
「うん」
「また明日ね~」
え? 明日ね~、なのか? お手々はフリフリしておくけれども。
「まりー、でぃしゃんまたあしたっていった」
「そうですね。ふふふ」
「むふふふ」
「あらあら、嬉しそうですね」
「うん。にぎやかれいいのら」
「そうですね」
家に着くと、コッコちゃん達が柵の前で整列して座っていた。何故に? 端から番号でも言っちゃう? 点呼しちゃうか?
「コッコ」
「コケッ」
「うん、たらいま」
おかえり~って言ってきた。
「どうして、そこれならんれるの?」
「クククッ」
「コッコ」
ああ、そうなんだ。分かった、直ぐに掃除するよ。
自分達の排泄物があるから中に入りたくないんだって。なら、外ですればいいのに。
そうだな、場所を決めておくか?
「れきる?」
「コッコ」
「コケッ」
当然じゃない。その方がいいよ。だって。ん~、なんだか腑に落ちないなぁ。
そんなにお利口さんなのに、どうして中でするのかな?
「まりー、こっこちゃんの柵のなかおしょうじしゅる」
「はいはい。小さい方の箒を使ってください」
「うん」
小さい方の箒ね。俺用って訳じゃないんだけど、普通の箒より持つところの長さが半分のがあるのだ。それを使ってとマリーが言っていた。
長いのは俺も使えないからね。ちびっ子だから。
と、箒を手に柵の中に入る。あらあら、これは酷いね。
コッコちゃんは、眠る時に藁の上で眠るのだ。そこに卵も産む。入れてある藁が散らばっている。その上に排泄しているのだ。
これは、藁を替えないと駄目だ。取り敢えず、排泄物を外に出しちゃおう。
箒で掃いて一箇所に纏めて、そのまま外まで掃いて行く。
「まりー、こっこちゃんのわらかえたいのら」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
ごめんね。マリーは夕食の準備があるから忙しいのにね。
と、思っているとニコ兄とユーリアが帰ってきた。丁度いいのだ。




