105ー増やそう
「また孵化させたら良いよ。沢山増やしてよ」
「ディさんがそう言ってくれると少し気が楽だぜ。卵料理はスゲー評判良くてな。毎日数量限定なのに、あっという間に売り切れるんだ」
「ひょぉー! しゅごいねー!」
「だろう? 卵だけで充分だよ」
そうなのだよ。卵だってとっても美味しい。卵だけで充分だよ。コッコちゃんを食べようとは思わないのだ。
「な、そうだよな!」
「しょうら!」
オスカーさんと思わずグータッチだ。同じ心境なのだ。同志だ。
さて、次は教会に行こう。
「あー! ディさん! ロロ!」
教会の前で子供達がワラワラと集まっている。孤児院の庭じゃないんだ。教会の真ん前だ。
街の人まで取り囲んでいる。みんなコッコちゃんを囲んで見ているのだ。
街の人達が、コッコちゃんを撫でたりしている。コッコちゃんも、大人しく撫でられているのだ。
人気者になっているのではないか? もう、馴染んでいるぞ。これは、コッコちゃんの世渡り術なのか?
「こんな場所で何してんのかな?」
「コッコちゃんを散歩させてんだ。毎日散歩してるんだ」
「えぇー、おしゃんぽ?」
「ロロ、来たか」
いつも遊んでくれるニルスがいた。
「孤児院の庭だと狭いからさ、毎日ここまで散歩してんだ。そしたら、街の人達にももう慣れちゃって」
確かによく慣れている。全然怖がったり威嚇したりしないのだ。
孤児院は直ぐそこなのに、散歩って必要なのか?
コッコちゃんの首に縄を付けて歩いているらしい。よく見ると、縄とは別に首にチョーカーを付けている。あれだね、ギルドで貰った登録している証明だ。
うちのコッコちゃん達も、みんな付けているのだよ。
そのチョーカーの鎖に、色違いのリボンを付けてある。おう、区別しているみたいだぞ。そういえば……
「でぃしゃん、雛もとうろくしなきゃらめ?」
「雛かぁ、どうだろうね。ギルマスと相談しておくよ」
うん、お願いなのだ。でも、この調子だとどんどん増えるぞ。きっと、雛が次から次へと孵化しちゃうぞ。そうなると、ギルマスが大変なのだ。
「昨日、2羽孵ったんだ」
「みせて、みせて」
「おう。ロロ、こっちだ」
みんなでコッコちゃんを連れて、教会をグルリと回り孤児院へと向かう。
孤児院と教会の間にある中庭。そこに、コッコちゃんの柵がある。その中にいたよ。無事に淡い黄色の雛が2羽。
「でぃしゃん、きいろら」
「そうだね、良かった」
え? オレンジやピンクだと駄目なのか? ん? 引っ掛かったぞ。
「ロロ、駄目なんかじゃないよ。だけど、普通でもないよね」
確かに、うちのコッコちゃんは普通ではないのだ。
ピンクの子は回復魔法が使えるようになるらしい。魔鳥さんなのに。コッコちゃんなのに。
オレンジの子達は、孵化したばかりなのにダッシュして走り回っていたりしている。何度も言うけど、コッコちゃんなのに。
「まあ、でもロロのところだけだろうね」
「しょう?」
「そうだよ。みんなロロ程の魔力量はないから」
「え……」
「ん? 何かな?」
「ボクしょんなにあるの?」
「あるよ〜。大人のオスカーさんの何倍だろう?」
「えぇ……」
「君達兄弟は多いよ。ロロとレオは特に多い。もしかして遺伝なのかもね。レオがお母さんに魔法を教わったって言ってたでしょう。だから、お母さんは魔力量が多かったのかも知れないね」
マ、マジなのか? 俺はそんなに多いとは知らなかったのだ。
そうか、でもこれは母さまの贈り物かも知れないのだね。そう思うと嬉しい。俺は両親の顔も覚えていないから。
そんなに魔力量が多いとも知らずに、俺が卵に少しだけと思って魔力を流していたのは、少しなんかじゃなかったという事なのか?
「今頃何を言ってんだよ〜。だから、オレンジの子達が生まれたんでしょ? ロロはまだレオみたいに、どれ位の魔力量でどんな魔法が発動するのか加減が分かってないんだ。だから仕方ないよ」
ああ……やっちまってたのか。いかんな。これから気をつけよう。魔力を流すのは、ほんのちょびっとだけにしておこう。うん、そうしよう。
「アハハハ! ロロはそのままでいいよ〜」
「らって、でぃしゃん。またオレンジの子がうまれてくるのら」
「いいよ、いいよ〜。その方が楽しいじゃない」
「えぇー」
「ふふふ。ロロ坊ちゃま、大丈夫ですよ。色が違っても、お利口ですから」
「しょお?」
「はい。全然大丈夫です」
マリーは太っ腹なのだ。いや、これもある意味大雑把と言えるのではないか?
ディさんは、教会でもコッコちゃんにクリーンする事を伝えた。そして、どんどん増やして欲しいと。
「ディ、どれだけ増やすんだ?」
ビオ爺が聞いてきた。例の計画があるからね。まだまだ増やさなきゃ。
「この前、話したでしょう? だからもっとだよ。それでも、子供達で世話できるでしょう?」
「まあな、コッコちゃんは利口だから手も掛からないさ」
「そうなんだよ。それでね……」
ずっと1日中コッコちゃんに付きっきりという訳ではない。だから、合間に子供達に読み書きと簡単な計算を教えて欲しいと。ディさんが話した。
「て、事はあれか? 孤児院の子供達だけじゃなくて、地域の子供達も巻き込むのか?」
「そうだよ。でも、先ずはストリートチルドレンだ」
「おう、それはいい」
この街には、いるらしい。路上生活している両親のいない子供達が。それを聞いて、俺はショックだったのだ。




