512.レラジェ、大健闘!
外見年齢は学校に通う子どもだ。それでも魔族は外見で判断しない。ルキフェルが一万五千年ほど幼子の姿でいたこともあり、実力を外見で測る愚か者はいなかった。
ルシファーがデスサイズをくるりと回し、刃を下にした。三日月形の美しい刃が、光を弾く。
「陛下が持ち替えるとは」
「結構派手にやるのかな?」
ベールとルキフェルは、先ほど張った結界を確認して頷き合う。普段、ルシファーがデスサイズを構えるときは刃を上にして背中側に回す。理由は簡単だ。すぐに対処できるよう構えるほど、強い敵と遭遇していないから。
相手を見くびっているというより、単にケガをさせないための対応だった。それを鎌という武器特有の構え方で迎えるなら、相対する挑戦者への敬意だった。義息子だからではない。
「いきます」
「いつでも来い」
レラジェは手のひらに爪を立て、そこから剣を取り出した。といっても縦にまっすぐ伸びる剣ではない。半月に曲がった剣で、まるでデスサイズに似せたように見えた。
顔立ちは幼い頃のルシファーによく似ており、色はリリス譲りだ。赤い瞳に黒と見間違う濃灰色の髪。二人の実子と言われても納得の外見だった。
「あの剣は魔力で生み出したのでしょうか」
「そんなに凝ったように見えないね」
アスタロトの疑問に、目を細めたルキフェルが首を傾げる。同じようにじっくり観察するベルゼビュートは「次はあんな形の剣もいいわね」と呟いた。剣のコレクターなので、過去の勇者の剣も含めて大量に保管している美女は、目を輝かせて観察する。
呼び出し方もデスサイズに似ている、誰もがそう感じた。体に合わせて小型化したような武器を、レラジェはくるりと回した。手首を使って回転させた動きは、扱いに慣れた感じだ。
ふっと息を吐いてタイミングを合わせ、レラジェが地を蹴る。小柄な体が消えた。そう錯覚するほど速い動きで、ルシファーの手が届く距離に飛び込んだ。咄嗟に下がろうとしたルシファーだが、結界を強化して踏みとどまる。
キン! 甲高い音がして、レラジェの振るった剣が弾かれた。舌打ちや残念そうな表情を見せることなく、彼は剣を左から右へ持ち替える。そのまま下から切り上げる形で攻撃を続行した。
ぴしっ、先ほどと違う音が響き、一番外側の結界が可視化される。ヒビが走ったのだ。視界を曇らせる結界を破棄したルシファーに、レラジェはさらに踏み込んだ。また一歩近づいた分だけ、深く剣を払う。半月の形は、振り抜きやすいようだ。
回転する足の動きは踊りのようで、剣は動きに追従した。ぱちんとレラジェが指を鳴らす。剣が二つに増え、四つになり……最後に十二に分裂した。増えたのか、呼び出したのか。魔族は息を呑んで見守る。
「増やせるなら、やっぱり魔力で作ったのかも」
ルキフェルは頷きながら、レラジェの思わぬ健闘に目を見張った。数万年を生きる大公と違い、レラジェは生み出されて間もない。魔の森の一部だったとしても、自ら身に付けた戦闘能力だろう。
なぜなら生贄になる予定だったレラジェに、魔の森が戦闘能力を授ける理由がない。同じ理由で、リリスも戦う能力は低かった。体力は驚くほどない上、普段使用する魔法は雷のみ。レラジェも同様で、身体能力は高くなかった。
イポスの元に預けられた、イヴの護衛ディックとコリーの二人と仲良くなり、彼らと共に鍛えたことで得た能力だった。
「っ、届かないなんて」
ぎりっと歯を食いしばり、レラジェはすべての剣に一斉攻撃を指示する。ぎらりと光を弾く十二本の半月が、魔王に襲いかかった。
「ふむ。そろそろいいか」
左手に掴んだデスサイズに魔力を流し、ルシファーが動く。攻撃の魔力を流した時間差で、わずかにズレた剣を次々と叩き落とし、最後の一本も地に突き立てた。
「その年齢でよくそこまで……っ? いや、さすがオレの息子だ」
途中で言葉を変えたルシファーは、長いローブの裾を引っ張った。剣が一本掠めており、その刃は裾を切り裂いている。
わっと歓声が上がった。




