504.魔王チャレンジは賭けの対象
かくして、臨時の魔王チャレンジ開催が決まり、大々的に告知される。どれだけ参加者が集まるのか、賭けの胴元バアルはいつも通り受付を開始した。すでに公認も同然だ。
「今回の賭けは、魔王チャレンジの参加人数だ。さあ、張ってくれ!」
「大公女四人とルキフェル、そこにプラス三人よ」
合計八人に賭けたピンクの巻毛のベルゼビュート。金貨一枚と奮発した。斜め後ろから、アスタロトが金貨二枚を差し出す。
「では、私は四人追加に賭けましょう」
「珍しいわね」
「たまにはいいかと思いまして」
咎めるでもなく参加するアスタロトだが、その足元でエルがにこにこと笑顔を振り撒く。どうやら孫にせがまれたようだ。代わりに賭けたアスタロトへ、半券が渡された。
あっという間にバアルの周辺は、賭けの予想を行う者で溢れかえる。楽しそうに笑う人々を見ながら、アスタロトは肩を竦めた。
「お祭りの時は見逃すとしますか」
「それなら、お祭りの時は公認にするのはどう? 子どもはお菓子を賭けるのもいいと思う」
エルの提案に、アスタロトは首を横に振った。いくら可愛い孫の発言でも、賭け事を子どもに拡大するのは問題だ。
「ベルゼビュートをご覧なさい。賭けは癖になる遊びです。幼い頃からそんな遊びにハマれば、止められなくなります」
「そっか。そうかもね」
納得したようで、エルは大きく頷いた。楽しいけれど、だからこそ癖になる。それは理解できるし、大人になって依存症だったら困るだろう。世界の中心である魔王城を動かす祖父の言葉を、エルは尊敬しながら受け止めた。
「私の言った通り賭けてよかったの?」
「問題ありません。遊びですからね」
そう返しながらも、アスタロトの予想はもう一人少ない。大公女四人と大公四人で八人、そう予想した。ルキフェルが参加するなら、ベルゼビュートが我慢できずに騒ぎ出す。そうなれば、ベールや私も参加することになるでしょう。
賭けに勝つことが目的ではないので構いませんが、ベルゼビュートが勝つのも癪ですね。後一人、誰かを巻き込んでしまいましょう。悪い顔でにやりと笑い、アスタロトは孫と手を繋いだ。
「背筋がゾクッとしたんだが」
嫌な予感がする。ルシファーは己の肩を抱いて、ぶるりと身を震わせた。悪寒が走った、つまりこの予感は当たるかも?
「風邪かしら」
きょとんとした顔で呟くけれど、護衛のヤンに「我が君が風邪ですと? ありませぬ」と否定される。失礼なようだが、事実なのでリリスも頷いた。
「そうよね。だったら噂?」
「理由はともかく、魔王チャレンジの参加者が増えそうだ」
すでに申し込みがあった。突然だったので、準備が間に合わず断念した人もいる。次回の即位記念祭で気合を入れて参加するとか。
「勝手に予選が始まったぞ」
「ルシファーに認めてもらうと、いいことがあるそうよ」
知らない間にそんなジンクスが広まったのか。感心するルシファーだが、その「いいこと」はリリンがこっそり行ったことを誰も知らない。
「予選で人数を絞るのはいいが、ケガ人が出ないといいな」
「大丈夫じゃない? さっき、ロキちゃんとベルちゃんが見に行ったわ」
「なら大丈夫か」
あの二人なら、危険になったところで止めてくれるだろう。ロアに跨って会場を走り回るシャイターンと、もらった金貨を大盤振る舞いして使い切ったイヴが合流するのは、もう少し先の話だった。




