475.隠された行方不明事件
シエルは朝から張り切って、保育園へ向かった。学校へイヴを送ってきたルシファーと鉢合わせし、アイムはきちんと挨拶をする。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい」
姉が丁寧に受け答えする横で、手を繋いだシエルは興奮状態だった。落ち着かなく、そわそわと保育園を見つめる。
「ねえ、早く!」
急かす弟をアイムが叱る前に、ルシファーが動いた。
「話は執務室で聞こう。オレもイヴを送っていかないと遅刻だ」
さっと引いて、保育園の先にある学校へと急ぐ。途中で手を離したイヴは、友人達に手を振りながら登校する。見送って、踵を返した。
転移を使うと叱られる。歩いて戻る魔王の姿に、同じように我が子に付き添った親達は親近感を覚えた。挨拶だけでなく世間話も始まる。
「少し前に騒ぎになった行方不明事件ですが、進展がありましたか?」
「ん? 行方不明??」
そんな話聞いてないぞ。首を傾げるルシファーに、竜人族の父親は驚いた。普段は魔王に話が上がる案件だ。どこで話が止まったのか。
「ご存知ないのですか。我らの谷にも応援要請がありました。なんでも獣人が数人、森で消えたとか。帰ってこないそうです。家族からの要請で、竜族と共に空から探しました」
わずか数週間前の事件だという。獣人、森で行方不明、最近のこと。これだけ重なれば、アイムの叔父も含まれるのは間違いない。
「助かった。感謝する」
礼を言って、歩く足を早めた。大急ぎで城の階段を上る。執務室に入ると、昨日頼んだベールが報告に来ていた。いや、それどころか大公が四人揃っている。
「行方不明事件、聞いてないぞ」
「当然です。お伝えしておりません」
知らないのが当たり前と言い切られ、ベールに食ってかかる。
「どうして言わなかった!」
「すでに魔王軍が捜索に出ており、報告できる詳細が集まらないからです」
対策は大公の権限で行なった。しかし、報告できる情報が集まらない。そう言われたらその通りなのだが、ルシファーは違和感を覚えた。
考えるまでもなく、いつもは事件発生時点で報告を受ける。進捗がなくとも、事件そのものは耳に入るのだ。それが隠されたように……ん? そこでルシファーは大公達の顔を順番に見つめた。
きょとんとしたベルゼビュートはオレと同じ。知らなかったはず。だが、ベールは目を逸らし、ルキフェルは顔ごとそっぽを向いた。アスタロトは仮面のような笑みを貼り付けている。
「もう一度聞くぞ? なぜ隠した」
誰に聞くのが確実か。付き合いの長いルシファーは、一番与し易い相手を選んだ。
「ルキフェル、答えろ」
「っ、僕なの? もう!」
ぷくりと頬を膨らませ、不満そうに唇を尖らせる。彼を問い詰めれば、ベールが喋るだろう。そう踏んでの指名だったが、ノックの音に遮られた。




