401.増えた翼はあまり気にならなかった
おんおんと泣くアラエルが飛び付いたピヨは、驚いて暴れる。本人にしたら、温かな寝床で幸せに過ごしていたら、いきなり起こされたのだ。それも自分の下僕認定したアラエルが相手だった。
「アラエル! 一度離してやれ」
混乱する番を引き剥がそうとルシファーが声をかける。半泣きながらも、アラエルは大人しく従った。長老に促されて距離を置く。だが、いつでも駆けつけられるよう、姿勢を低くして構えていた。
「ピヨ、背中は痛くないか?」
「うん」
どうやら翼は悪いものではないらしい。突然生えたのだが、本人は認識しているだろうか。あれこれ考えながら、言葉を探した。いきなり現実を突きつけるのは、混乱を招く。
「ああその……背中の羽を動かしてくれ」
ばっさばさと揺らす。ルシファーは大好きなママであるヤンの上司、すなわち祖父のような存在と考えていた。ピヨの中で、魔王は味方認定されている。あれこれ尋ねられれば、素直に従う。
「ん、変な感じ」
ぽつっと呟いたピヨは、自分の背中を確認しようとした。だが振り返り方が悪く、ぐらりと傾いて座り込む。直後、丸い雛の体は転がった。
「ピヨぉ!!」
長老の静止を振り切ったアラエルが、火口の溶岩へ飛び込む。ぽちゃんといい音がした。
「ぅわぁああ! アラエルのばかぁ」
アラエルに突き落とされたと勘違いしたピヨを咥え、困惑した表情の番は項垂れる。助けに飛び込んだのに、感謝されないどころか犯人扱いである。それは落ち込むだろう。
「落ち着け、ピヨ。まずアラエルは助けてくれたんだ」
「……そうなの?」
ずずっと鼻を啜りながら、ピヨは番を振り返った。いろいろ落ち込んでいても、自分が火口側に立って羽を広げ、ピヨが落ちないよう工夫している。それに気づいて、ピヨも素直に謝った。
「ごめんね、アラエル」
「いや、いいんだ。ピヨが無事ならそれ以上望むことはない」
優しいアラエルの言葉に、興奮したピヨは喜んで羽を広げた。そこでぴたりと動きが止まり、ピヨはぎこちなく羽を動かす。右側、左側、それぞれに翼を振って、ぎぎぎと擬音をつけてアラエルを見上げる。
「とても似合ってる」
さすがは俺のピヨだ。よくわからない賞賛をもらい、ピヨは無表情のまま周囲を見回した。長老や鳳凰達も驚きの顔や困惑の表情を隠さない。最後に魔王ルシファーをじっくり観察した。その間、ずっと表情は固まっていた。
「……うん、平気」
目の前の魔王ルシファーの背に、二対四枚の翼が広がっている。あれと同じ、全然問題ない。なんだ、やっぱりママのパパだったんだ。よく分からない理屈で、祖父だと思い込んだピヨは問題をスルーした。
別に何も不自由はないのだ。飛ぶ時はいつもアラエルの背に乗っていたし、背中にあるから邪魔でもない。動かせるので自分の一部と納得した。
「違和感があれば早めに言ってくれ。なんとかする」
ルシファーの確約に、さらにピヨは安心した。ママと一緒にご飯を食べよう。
落ち込んだヤンに纏わりつき邪険にされ、今日は寝ると無視された。しかしピヨは本当に三歩で忘れるタイプの鳥類だった。いつもと同じようにヤンとご飯を食べ、一緒に眠ろうと考えた。
一般的な魔族なら現実逃避だが、ピヨは翌日羽が元に戻ってればいいなと考えることもなく。
「早く帰るよ、アラエル」
番をまるで乗り物のように扱い、背中へ飛び上がった。早く帰ろうと促され、アラエルは皆にお礼を告げてから空に舞う。呆然と見送る長老に、ルシファーは苦笑いして告げた。
「解決したようなのでオレも帰るぞ」




