376.魔力のバルブが緩いらしい
魔の森は休眠中だ。にも関わらず、一人娘のリリスはちょくちょく顔を見せた。それも毎回問題を持ち込むのだ。リリンは眠そうに目を擦りながら、話を聞いてくれた。
「寝ていたところ悪いな」
邪魔をしている自覚があるルシファーの言葉に、リリンは笑顔で首を横に振る。だがリリスはマイペースだった。
「いつ来ても起きてるわよ?」
「それは起こしてるんだ。休眠中はお休みと同じだから、邪魔したらいけないよ」
「次から気をつけるわね」
リリスは納得して頷いた。育てたのがルシファーなので、一般常識がかなり欠けている。アスタロトやベールもちょくちょく注意するので、最近はマシになった。一時期は大変だったが。
「起きる前、どうしても魔力漏れる」
カタコトのような話し方で、リリンはそう告げた。彼女に何度か確認した結果、答えを纏めると……。
「魔の森の目覚めが予定より早い。だから大量に魔力が漏れた、で合ってるか?」
ざっくり整理すると、あと数十年眠る予定だった。リリンとしては、リリスが生まれてからの激変に対応するべく、長期間の休眠に入ったのだ。それが繰り返し何度も起こされた結果、リリンの中で大きな変化があったらしい。
実は神龍の長老だったモレクの魔力を大量に吸収し、海も領域に入ったおかげで、魔力の充実が早かったのだとか。話を聞くほどに、運が良かったとか言えない。
「リリスを産んだこと、影響ある」
休眠前にリリスを産んだことを指しているのだろうが、もう二十年以上前の話だ。リリンの時間感覚では、つい先日だった。ある意味、ルシファー達長寿の魔族も似たような傾向がある。だが、ルシファーはリリスを拾ってから生活が激変した。ここを起点に、時間感覚が一変している。
「いい変化だったか?」
こくんと頷き、リリンは目を閉じた。そのまま眠るようだ。これ以上起こして体調不良になったら、世界が揺らいでしまう。彼女はこの世界を構築する女神のような存在なのだから。
「おやすみ、リリン」
彼女を定位置に寝かせ、リリスと腕を組む。預けてきたイヴを終点に、転移を行った。
現れた先で、ちょうどイヴが我が侭を口にするところだった。
「それ、やなの!」
指さす先には、ベッドがある。預けたルーサルカ達の部屋で、スイがイヴの寝かしつけにチャレンジしていた。すでにレラジェとルイが眠っている。
「悪かった。助かった」
魔の森の中にいる間に、予定時間をオーバーしたようだ。日暮には戻るつもりだったが、すでに外は夜だった。ルイ達が眠っているのを見る限り、夕飯も過ぎている。両親不在で、イヴは寝ないと泣いた。
ぐずぐずと涙を拭うイヴは、スイからリリスへと受け渡された。
「すまなかったな、助かったぞ。ルーサルカ、スイ」
詫びと感謝を告げる。リリスも一緒に、ありがとうとごめんねを伝えた。泣きながらリリスにしがみ付くイヴを、結界で遮音する。すでに寝ているルイ達を起こしてしまう。
そっと部屋を出て、階段を登った。魔王城の最上階にある自室へ入る頃には、イヴは泣き疲れて指を咥えている。拗ねている顔だった。
「イヴ、パパとお風呂に入ろうか」
「やっ!」
「じゃあ、ママと入る?」
「やぁ!」
機嫌を取ろうとしても、イヴは全てに否で答える。少し考え、ルシファーはぽんと手を叩いた。
「なるほど、イヴは寝ないんだな。オレ達は寝るから、がんばれ」
寝ないならそれでいい。突き放す言い方をされ、イヴは「嫌っ」と叫んだ。抱き上げたルシファーの服を皺になるほど握り締める。リリスと自分の体を浄化で清め、風呂を諦めてベッドに入った。真ん中に横たわるイヴは、もう眠気に負けそうだ。
「いい子だ。おやすみ」
ぐずるように、やだぁと口にしたイヴだが、そのまま眠ってしまった。
「上手ね」
あやし方を褒められ、ルシファーは無言で頷いた。イヤイヤ期のリリスで経験を積んだ、なんて言えなかった。




