369.お祝い続きで嬉しい悲鳴
ドラゴンが集う街で、大量の卵が産まれた。巨人族、精霊族、妖精族のエルフ達、ラミアも大量出産で大騒ぎになる。どの種族にも共通するのは、双子を含めて安産だったこと。
出産自体、母も子も命懸けだ。にも関わらず、死産や母親の死亡がなかった。一番驚いたのは、出生数が激減して存続の危機と言われていた神龍族が、5人も出産したことだ。子どもの数は7人、ここ一千年で産まれた子どもと同数だった。
出生届が大量に届く。日本人から話を聞いて、戸籍制度を始めたせいだ。転移魔法陣の普及で、魔族の動きは早くなった。祝い事なのも手伝い、すぐに出生の報告に訪れる。その使者が戻っても、数日で次の子の出生届を運んできた。
互いに笑顔で受け渡し、戸籍を管理するアンナがいる部署へ振り分けられる。魔王ルシファーに届くのは、本日の出生数を種族別に記載した紙一枚だった。
「書類が減ったのはいいが、味気ないな」
「ご安心ください。こちらに処理待ちがございます」
ベールに魔王軍の指揮系統一新の申請書を差し出される。過去の問題点と、これからの課題が分厚く綴じられていた。手に取る前に頭痛がしてくる量だ。
書類に埋もれて忙しいはずのベールが、いつこんなに作ったのか。眉を寄せて開けば、見覚えのある文字だった。なるほど、ルキフェルが……ん? 彼も研究で忙しいだろう。続けて捲れば、また文字が変わる。どうやら得意分野ごとに分けて、複数人で作ったようだ。
寝食を惜しんで仕事したのかと心配してしまった。
「後で目を通しておく」
「後で、ですか」
どうせ放り出す気でしょう。そんなベールの声色に、ルシファーは肩を竦めて印章を片付けた。立ち上がって、理由を告げる。
「神龍の様子を見てくる」
育児の手が足りないと泣きつかれたのだ。ここ数千年、100年に一度くらいの割合で子どもが産まれていた。急に7人も産まれたら、嬉しい悲鳴で大混乱らしい。子育て経験者が少なすぎて、応援要請が届いた。
ところが周囲の種族も出産ラッシュ。比較的育て方が似ている竜族は産卵が相次ぎ、竜人族は逆に応援を求める始末。誰かが調整しなくてはならない。理由を聞いてしまえば、止められなかった。
「分かりました。では大量出産した一族と、そうでもない種族の統計を取りましょう」
「ああ、悪いが頼む。緊急の場合は、侍女の派遣も考えないといけないし」
打ち合わせしながら、執務室から中庭へ向かう。そこでベールに見送られ、ルシファーは神龍族の谷へ飛んだ。卵生の種族は、卵が孵るまで余裕がある。その辺の事情も組み込んで、分類が必要だった。
こんなに出産が続いたのは、数万年ぶりだ。魔の森の休眠と同時に起きる出産ラッシュだが、関連を調べておいた方がいいかも知れません。ルキフェルに相談しましょう。ベールはいそいそと養い子のいる研究棟へ歩き出した。
ざわりと魔の森が揺れる。森から大量の魔力が放出され、身震いするように葉が音を立てた。風もないのに葉を揺らす木々は、新しい芽を覗かせる。どうやら魔の森にも、出産ラッシュが訪れたようだ。
統計結果が出るまで、束の間、魔族は祝い事に湧いた。




