365.久しぶりの巨大竜モラクス出現
目玉焼きはしっかり火を通して、念のために浄化魔法も掛ける。万が一にも毒を食べないためだ。ルシファー自身は解毒するだろうが、周囲の者が危険だった。
目玉焼きは半熟の黄身を割って、大きく切り分けた白身にかけて頂く。パンに挟んだり、単独で食べたり。おいしく最後まで食べ切った。意外にもプータナーよりイポスの方が食事量が多い。巨人族の巨体は、魔法陣で小型化すると少食になるそうだ。エネルギー効率の問題らしい。疑問を持ったベールやルキフェルが調査済みだった。
キャンプも最終日ともなれば、各テントの子は越境して遊び始める。同じテントの子と遊ぶより、他のテントの子と交流を深めた。湧水池は水の精霊やドライアドが監視し、危険があれば救い出す算段も整っている。親は子ども達を自由に交流させ、親同士でお茶を飲み始めた。
ルシファーもあっという間に囲まれ、膝にリリスを座らせて芝の上に腰を下ろす。巨木を中心に集まった親達と雑談し、交流して時間を過ごした。
穏やかな日差しが降り注ぐ巨木の下は、いつの間にか子ども達が集まってくる。遊び疲れて眠る子も現れたところで、轟音が響いた。
「ぐぁあああああ!」
悲しそうな叫び声に、魔獣の子が飛び起きる。他の子も釣られて起き上がり、誰かが泣くと釣られて広がった。幼い方が感受性が豊かなのだろう。叫んだ誰かの感情に引き摺られて、涙が止まらない。
結界で音や刺激を遮断し、ルシファーは外へ出た。付いてきたがったが、リリスにはイヴの守りを頼む。上空で舞うルキフェルが、ルシファーに気付いて近づいた。
「ねえ、この子の親かも」
「ああ、ドラゴンの声だったな」
我が子を見失った親の叫びか。それならば悲しそうな響きの理由も理解できる。羽音が聞こえ、巨大なドラゴンが現れた。ややオレンジがかったドラゴンを見て、ルキフェルが目を見開く。
「彼女の子だったんだ」
ずっと穴倉に閉じこもり、外へ出てこなかったドラゴンだ。水竜同士の両親から生まれた、隔世遺伝の火竜だった。父竜が妻の浮気を疑い、大喧嘩して山をひとつ崩壊させたのは数千年前である。懐かしい記憶を呼び起こした二人は顔を見合わせた。
生まれた子竜は娘で、確かに数千年経てば大人になる。どころか結婚適齢期を過ぎていた。そんな彼女が人知れず妊娠し、子を産んでいたのだ。
「すぐに返そう」
ルシファーが子竜を抱えて、翼を広げる。以前は漆黒だった翼も今は純白だ。光を弾く力の象徴を4枚広げ、腕に抱いた子竜を火竜の前に掲げた。
「久しぶりだ、モラクス。そなたの子か?」
赤い瞳を瞬かせ、大きく頷く。巻き起こした風で、子竜が落ちそうになった。慌てて抱え直し、小さな前足を差し出すモラクスへ渡す。子竜はくんくんと匂って、甘える声を出した。間違いなく親子だ。
「いつの間に親になったんだ? 知らせてくれたら祝ったのにな」
恥ずかしそうな彼女へ、収納から取り出した宝石箱をひとつ渡した。目を瞬かせて摘んだ宝石箱を眺めるモラクスへ「お祝いだ」と伝える。自分が火竜として生まれたことで、両親が仲違いをした。そう責任を感じて引きこもった彼女が、外へ出たのだ。いい思い出を持ち帰って欲しい。
我が子を見失って混乱したモラクスの気持ちを、穏やかにしてやりたかった。ドラゴンは誰でも光る宝石や金貨が好きだ。金細工の箱に詰めた宝石は、ドラゴン好みのはず。少し待つルシファーの前で、金の箱を覗いたモラクスは目をとろんと和ませた。
「持ち帰ってくれ。それとまた顔を出してくれないか? ベールも心配してたからな」
承諾したモラクスは頭を下げて礼を伝え、洞窟へ戻って行った。大切な我が子を舐めて咥え、腕にお祝いの品を抱えて。後ろ姿を見送り、お昼の狩りを始める。巨大なドラゴン出現の影響で、獲物が逃げてしまった。急遽予定を変更し、魚獲りに興じた。




