335.責任をとっていただきますわ
「次はわたくしの番ね、美女は最後に登場するものよ」
大公に女性は一人なので、美女と表現できるのは彼女だけ。ベルゼビュートが最後に登場は決まり事になったのか?
よくわからない理論を振りかざす精霊女王は、見事なボディを紺色のドレスに包んでいた。歩くたびに足がスリットから覗く。左右の太ももの付け根まで入ったスリットは、生足を存分に披露した。
すでに既婚者なので、多少控えてもいいのではないかとルシファーが眉を寄せる。胸元も寄せて上げなくても、立派な果実が揺れている。こちらも際どいデザインだった。全力で戦ったら、ぽろっと溢れかねない。
「ベルゼ姉さん、お胸が危ないわ」
「大丈夫よ、ちゃんと魔法陣で固定してるから」
見えそうで見えない位置は計算されたものらしい。となれば、当然足も同じだろう。ちなみにベルゼビュートが下着を身に着けないのは、かなり有名な話だった。
「陛下、責任をとっていただきますわ」
「人聞きの悪い言い方をするな。で、何のだ?」
「先ほど賭けをしましたの。陛下がどのくらいで勝つか、ベールとの戦いに時間をかけすぎですわ」
主君をダシに賭けをするな、とか。負けたからって八つ当たりはダメだぞ、とか。あれこれ浮かんだものの、ルシファーは溜め息ひとつで諦めた。彼女のギャンブル好きは、おそらく病気だ。死んでも治らない。
「今回はいくら賭けた?」
負けを取り戻すために、自分の戦いにも金を賭けただろうと問えば、ベルゼビュートは微笑んだ。
「ふふっ、ベールより長く、に金貨2枚ですわ」
取り返そうとして徐々に金額を大きく賭け、最終的に全部失うのがベルゼビュートのパターンだ。過去の賭け戦績を思い浮かべ、ルシファーはにやりと笑った。
「なら、短い方に金貨3枚を賭けよう」
「受けて立ちます、参りますわねっ!」
語尾に被せるように、ベルゼビュートは矢を放った。手に弓はない。だが弓を引く動作は行った。風により作られた弓が、風で加速する雷の矢を射る。ばちばちと雷光を放ちながら風を切る矢に、ルシファーは左手を振った。その手に握られていたのは、不思議な形の短剣だ。
キンッと甲高い音を立てて、矢は砕け散った。左手に取り出した短剣は、刃が途中で割れていた。まるで縦に切り裂かれたように。柄に近い部分で2本の刃は融合していた。
「あら、珍しいものを」
「だろう? こないだ見つけた」
互いにこの短剣を知っている会話を交わし、すぐにベルゼビュートが仕掛ける。長引かせる方に賭けた彼女だが、わざと時間稼ぎをする気はない。正々堂々正面から戦っても、ルシファーと長く渡り合える自信の表れだった。
「これはいかが?」
再び矢をつがえたベルゼビュートが放ったのは、ほんのり赤を帯びた細い矢だった。ひゅっと嫌な音を纏う。ルシファーは受けずに避けた。後ろでルキフェルが叫ぶ。
「ちょっ! 危ないだろ!!」
ぐるりと囲む民を守る結界を担当するルキフェルは、むっとした顔で結界を強化した。先ほどまでベルゼビュートが結界を張っていたが、交代したのだ。鋭い矢はとんでもない速さで、結界の一点を突き破ろうとした。咄嗟に結界を集約させて防いだ青年は、不満そうに唇を尖らせる。
「僕だって手加減したのに」
口角を持ち上げて笑ったベルゼビュートが、弓を剣に変化させる。一気に決着をつける姿勢を見せた彼女に対し、ルシファーは短剣のまま肩の力を抜いた。
「腕の一本、いただきますわ」
切り落とすと宣言し、ベルゼビュートは地を蹴った。




