324.詰まっていたのは光り物
破裂すれば周囲を巻き込んで地獄と化す魔力瘤も、こうなっては祭りの余興に過ぎない。かなり小さくなったところで、ルキフェルとベールが詰まりの原因を見つけた。魔法で浮かせた塊は、硬そうな石だ。
「石……間違ってないけど、色気が足りないよね」
その表現はいただけないな。そんな口調でルキフェルがブレスを当てる。表面の汚れがつるりと取れ、さらにまだ残っていた魔力瘤の欠片が相殺された。
光を弾く巨大な石は、透明だった。水晶か? 首を傾げるルシファーへ、ベールが進言した。
「この金剛石は、次の王冠に使いましょう」
「いやいや、ちょっと待て。オレの首が折れるだろ」
頭に載せる大きさじゃないぞ。ドラゴン姿のルキフェルが、両手で掴む大きさだ。ルシファーの頭と並べても遜色ない。このサイズを王冠にするのは無理だ。そう断るルシファーへ、呆れ顔のベールが指摘した。
「このまま使うわけないでしょう。ここから掘り出すんです」
何をどう掘り出すのか。もう聞かない方がいい。引き攣った顔でそう判断したルシファーは、転移魔法陣を足元へ固定した。
「先に帰る。後処理は任せた」
「え? あ、ちょっと! 陛下ったら……もう、あたくしの活躍がなかったじゃない」
避難を手伝っている間に、花火大会になり、いつの間にか解散。不満を露わに、ベルゼビュートが魔法陣に飛び込んだ。固定された魔法陣を使い、集められたドラゴン達も帰っていく。瘤に飛び込もうとした酔っ払い竜は、乱暴に投げ込まれた。
呼ばれたのに、あまり出番がなかったのは神龍も同じだ。せめて片付けは手伝うと申し出て、詰まった地脈の内部を掃除する。細くなった部分を吹き飛ばし、その瓦礫で穴を塞ぐ乱暴な作業だが、最後にアスタロトが点検した。
「人族が滅びてから、魔族はさらに豊かになる一方ですね」
ふふっと笑う吸血鬼王は、懐かしむように空を見上げた。花火が消えた夜空は、星が瞬く。世界の異物と気づかず、人族をのさばらせた過去は黒く塗りつぶし、彼は穏やかな気持ちで残った魔族を転移させた。
ぐるりと見回し、片付け残しがないのを確かめる。魔王ルシファーが設置した転移魔法陣を消し、自らは足元の闇へと沈んだ。
静けさの戻った森は、ざわりと葉を揺らす。漂う魔力を吸収し、地下へ流して地脈を繋ぐために。魔の森は枝を伸ばした。
「リリスぅ、イヴ!」
帰ってくるなり、妻子を抱き締める魔王は、リリスに「お帰りなさい」のキスをもらいご機嫌だ。問題は解決したので、城門から降りて屋台をひやかす。
「これ、欲しいわ」
「……魔物? いや……」
何かを模った像に首を傾げる。リリスはしきりに「可愛い」と手を伸ばすが、ルシファーは購入前に店主へ尋ねた。
「これは何の像だ?」
「幸運を招く猫だそうで。イザヤ先生の小説に出てくるんでさぁ」
まあまあ、おひとつどうぞ。そんな軽いノリで手渡された猫の像は、不思議な形をしていた。猫なのに背筋が伸びているし、後ろ足は座った状態で曲がっている。片手を上げて……赤や黄色で化粧がされた状態だ。
「幸運を招くのか」
「ええ、この腹の模様が、幸せを示すそうで」
白猫に鮮やかな色化粧を施した像は、小説のヒットもあり人気だった。あっという間に売れていく。リリスは確保した猫の像が欲しいと強請る。イヴが真似して、猫の像に抱き付いた。
何となく不愉快なので、できれば買いたくない。だが買わないと恨まれそうだ。迷った末に店主へ二つ購入すると告げたが……。
「これがライ、シアとルカ。それからリーでしょ? あ、イポスにも」
追加で5つ分支払わされた。纏めて収納へ放り込む。すると期待の眼差しを向ける民に気づき、溜め息をついて金貨を店主の手に十数枚握らせた。祭りでは振る舞うのがマナーだ。
「これで配れるだけ配ってくれ」
「お! 毎度あり!!」
店主の猫獣人は勢いよく叫び、紙に何かを書き記した。それを店先に掲げる。
魔王様の奢りで、全商品お持ち帰り自由(ただし、おひとり様一つまで)――何とも言えない気持ちで、ルシファーは屋台をそっと離れた。




