315.集合して祝福を受ける
感動的な話を聞いたリリスは、翌朝顔を見せたヤンに「聞いたわよ」と得意げにぶちまける。聞いていくうちに青ざめたヤンは、悪びれない魔王に吠えた。
「我が君っ! どうして勝手に話すのですか」
「話してはダメだったのか?」
きょとんとした顔で、まったく反省の色はないルシファー。がるると喉を鳴らしながら、ヤンは話されたくなかったと不満を露わにした。あれは若い頃のちょっとした失敗なのだ。それに美談のように仕上げたようだが、実際は少し違っていた。
あの場でハルピュイアの子は、割り込んだことを責めたヤンを馬鹿にしたのだ。ふふんと喉を反らせて、見下す態度を取った。割り込まれたことに加え、侮辱されたと感じたヤンが攻撃に転じたのは、ある意味当然だ。先祖代々の教えを守っただけである。
いいことをしたと思ったのに、がっつり叱られて謝れと強要された。あれはヤンにとって黒歴史であり、屈辱の記憶なのだ。綺麗にまとめて話したところで、彼の不満は消えない。
詳しい事情を知らないルシファーは、怒らせたことに対し「すまなかった、今後は注意する」と約束した。ヤンもそれ以上は言わない。代わりに、リリスも口を噤む約束をした。外で言いふらされたら、ヤンの古傷は抉られっぱなしだ。
「ごめんなさい、ヤンが傷つくと思わなかったの。カッコいいと感じたのよ」
怒られた理由は分からないなりに、リリスは外で話さないと決めた。イヴは大きな目をぱちくりと瞬き、無邪気にヤンの尻尾を掴む。
「いてっ、我が君。我の尻尾が……」
「イヴ、優しく触らないとダメだ。メッ」
リリスの時と同じ「メッ」は効果が高い。慌てて離したイヴを、手早く着替えさせる。大きな布をカーテン代わりにして、ルシファーは器用に着替えを終わらせた。今日のイブは昨夜用意したワンピース姿だ。淡いピンクは、親子そろってお気に入りだった。
共布のリボンを取り出し、迷って片付けた。リボンは危険だ。だが髪飾りはもっと危なかった。いろいろ考えた末に、大きめの布を黒髪に絡めるように巻いた。カチューシャのような形だが、裏をしっかり固定する。魔王以上の魔力がなければ外れないよう、魔法陣も新作にした。
これで引っ張られて外れ、首が絞まる事態も避けられる。ほっとしながら、靴を履かせた。ピンクのサンダルで、これはリリスも愛用したタイプだ。ぱちんと金具を止めれば、足をぶらぶら揺らしても落ちない。よちよち歩くイヴは満足げに体を揺すった。
「さて保育園の園庭だったな」
以前、リリスが演劇をした場所で間違いないはず。即位記念祭の間、トラブル防止のため転移は制限される。人の上に落ちたり、誰かを巻き込む可能性があるからだ。緊急時以外の使用を禁じられたルシファーも、この制限の対象だった。
城を出て、ヤンの背中にイヴを乗せる。大型犬サイズなので、視線が近付いたイヴは大興奮だった。巨大なフェンリル姿は人混みを抜けるのに適さない。とことこ進み、右手をルシファー、左手をリリスと繋いだ幼女はご満悦だ。
途中で侍女や侍従から「いいですね」「可愛いですよ」と声をかけてもらい、さらに気分は上向く。大公女達も、4歳のお祝いに該当する子がいるので、城門の辺りで合流予定だった。
アベルに肩車された次男リン、シトリーの長女キャロルは8歳になった。黄金竜ゴルティーは翡翠竜にしがみついて登場し、ルーシアの次女アイカやイポスの子マーリーンも待っている。
ベルゼビュートは、直接ジルを連れて現地へ向かうと聞いた。ぐるりと見回し、揃ったのを確かめて歩き出す。テントが連なる城門前の草原は、起きてきた魔族が溢れていた。彼らの祝福の言葉に応えながら、一行は予定地の保育園へ足を踏み入れる。
ふわふわと魔法で浮かせたアーチを潜るヤンが、ぴたりと足を止めた。
「我が君、何かおりますぞ」
鼻に皺を寄せて唸るヤンの警戒を煽るように、大公女やその夫達も周囲の様子を窺った。




